今年のアカデミー賞8部門を受賞した。『スラムドッグ$ミリオネア』を見てきた。
全米ではわずか10館から公開がスタートしたものの、口コミで評判を呼び、ついにはアカデミー賞
最多8部門を制覇するまでに至った映画だそうだ。
荒筋はこうだ。日本のテレビで放送されていたクイズ番組に『クイズ$ミリオネア』という番組がある。
司会のみのもんたの出題する4択のクイズに挑戦し勝ち進んでいく番組、不正解だとその場でアウト。
番組内で使われる「ファイナルアンサー!?」が流行語になり社会現象にもなった。あの番組である。
もともとのオリジナルはイギリスで、今は同種の番組は世界中にあようである。
インドにもこの番組はあり、いくつも出題される難問に全て正解すれば億万長者になれる。
まさに夢のクイズ番組である。
その番組に出場したスラム街出身の少年ジャマールが、周囲の予想に反して正解を連発し、
勝ち進んでいく。しかしあと1問を残したところで放送の時間が切れ、番組は翌日回しなる。
しかし彼がスラム街で育った孤児であり、貧乏であり、無教養であるが為に番組の司会者に
不正を疑われ警察に突き出される。彼は警察に拘束され、不正を白状させるために拷問を受ける。
映画はクイズ番組の収録、警察による尋問、彼の少年時代の過酷な生い立ち、という3つの
時間軸を交錯させることで、社会の底辺から這い上がってきた彼の壮絶な人生を浮かび上がらせ、
なぜ彼がクイズの答えを知っていたのかを明らかにしていく。そんな展開の映画である。
母親を殺され孤児になった少年、子供を集め物乞いさせる組織に捕えられ、金を稼せがされる。
何人かの子供はその方が物乞いには有利だからとの理由で目をつぶされ盲目にさせられてしまう。
インドのスラム街の貧しさ、その中で生きていかねばいけない子供たち、それを利用する犯罪組織。
映画はこれでもかこれでもかというぐらい、その悲惨さを見せつけていく。見ているこちらが目を覆い
たくなるシーンの連続である。電車の乗客から金を盗み、人をだまして小銭を稼ぐ少年時代、
犯罪に手を染めることでしか生きる術がなかった彼の人生もやがて青年へと成長し、恋もする。
映画の主人公はどんな厳しい状況においても知恵を絞り、したたかに、たくましく生き抜いていく。
格差社会という言葉を吹き飛ばしてしまうぐらいに力強く、生への執念とパワーがほとばしっている。
社会の中で虐げられ続けてきた少年がクイズに勝ち上り、億万長者にチャレンジしていくストーリー
はまさしく「ドリーム」である。「アメリカンドリーム」の変形版と言っていいのかもしれない。
底辺に暮らす人々の人生に希望をもたらし、観る者に夢を与えていく、そんな意図が見えてくる。
この映画の魅力は、計算されつくしたエンターテイメント性にあるのではないだろうかと思う。
インドのスラム出身の青年が、過酷な人生を駆け抜けていく様をクイズ$ミリオネアの答えと
連動しながら描いている巧みな構成。切なくて辛い若き日を描きながらも、前向きに生き
ようとする主人公ジャマールにみなぎるインドという国を体現したようなパワー。
そして、ジャマールが困難に立ち向かいながら初恋をどこまでも貫こうとする強い想い。
この全てが“クイズ$ミリオネア”の翌日挑戦する最後に出題される問題へと連動していく結末へ。
計算されつくした完璧に演出された映画なのであろう。そういう意味では作品賞の他に監督賞、
脚色賞、撮影賞、編集賞、作曲賞、歌曲賞、録音賞の8冠を獲得したのも納得がいく。
しかし見終わって「良く出来ている作品だなぁ」という感想ではあるが、感動する作品ではなかった。
2時間の上映時間の間、感情移入出来ず、映画との距離を感じながら眺めていた気がする。
それはインドという異文化の地が舞台だったからだろうか、それともあまりに作られ過ぎた演出だった
からだろうか、日本人の持つ情緒、情感のようなものがなく、ただただストーリーを追わせていく作品
だったからだろう。そのあたりがやはり文化の違いなのであろうと思う。
追記
もう一本、クリント・イーストウッド監督・主演作品「グラン・トリノ」も見てきた。
朝鮮戦争従軍経験を持つ気難しい主人公が、近所に引っ越してきたアジア系移民一家との交流
を通して、自身の偏見に直面し葛藤(かっとう)する姿を描く映画。イーストウッド演じる主人公と
アメリカに暮らす少数民族を温かなまなざしで見つめた物語である。
長い人生、辛いこともあれば、楽しいこともある。それを身をもって体験してきた大人だからこそ味わえ
人間ドラマ、己の正義を貫く主人公の強い意志と男の美学ともいえる人生哲学がくっきりと浮かび
上がってくる。この作品を最後に「俳優業の引退」を宣言したイーストウッドの名演がひかる。
私はこの2作品を比べたら「グラン・トリノ」に軍配を上げたい。スラムの孤児から幸運にもミリオネアに
なるという夢を見るより、人生の終焉を迎える時、何を考え何をすべきかに葛藤する「グラン・トリノ」
の主人公の方に共感できるからであろう。
今、自分は小説でも映画でも、はたまた音楽でも絵画でも、自分がその中に何かを発見するのでは
なく、出来れば深く共感出来る作品に出会いたい、そう思って、いろいろとあさっているように思う。
それは歳とってきて次第に孤立するときの慰めになるのかもしれないと思うからであろうか。
全米ではわずか10館から公開がスタートしたものの、口コミで評判を呼び、ついにはアカデミー賞
最多8部門を制覇するまでに至った映画だそうだ。
荒筋はこうだ。日本のテレビで放送されていたクイズ番組に『クイズ$ミリオネア』という番組がある。
司会のみのもんたの出題する4択のクイズに挑戦し勝ち進んでいく番組、不正解だとその場でアウト。
番組内で使われる「ファイナルアンサー!?」が流行語になり社会現象にもなった。あの番組である。
もともとのオリジナルはイギリスで、今は同種の番組は世界中にあようである。
インドにもこの番組はあり、いくつも出題される難問に全て正解すれば億万長者になれる。
まさに夢のクイズ番組である。
その番組に出場したスラム街出身の少年ジャマールが、周囲の予想に反して正解を連発し、
勝ち進んでいく。しかしあと1問を残したところで放送の時間が切れ、番組は翌日回しなる。
しかし彼がスラム街で育った孤児であり、貧乏であり、無教養であるが為に番組の司会者に
不正を疑われ警察に突き出される。彼は警察に拘束され、不正を白状させるために拷問を受ける。
映画はクイズ番組の収録、警察による尋問、彼の少年時代の過酷な生い立ち、という3つの
時間軸を交錯させることで、社会の底辺から這い上がってきた彼の壮絶な人生を浮かび上がらせ、
なぜ彼がクイズの答えを知っていたのかを明らかにしていく。そんな展開の映画である。
母親を殺され孤児になった少年、子供を集め物乞いさせる組織に捕えられ、金を稼せがされる。
何人かの子供はその方が物乞いには有利だからとの理由で目をつぶされ盲目にさせられてしまう。
インドのスラム街の貧しさ、その中で生きていかねばいけない子供たち、それを利用する犯罪組織。
映画はこれでもかこれでもかというぐらい、その悲惨さを見せつけていく。見ているこちらが目を覆い
たくなるシーンの連続である。電車の乗客から金を盗み、人をだまして小銭を稼ぐ少年時代、
犯罪に手を染めることでしか生きる術がなかった彼の人生もやがて青年へと成長し、恋もする。
映画の主人公はどんな厳しい状況においても知恵を絞り、したたかに、たくましく生き抜いていく。
格差社会という言葉を吹き飛ばしてしまうぐらいに力強く、生への執念とパワーがほとばしっている。
社会の中で虐げられ続けてきた少年がクイズに勝ち上り、億万長者にチャレンジしていくストーリー
はまさしく「ドリーム」である。「アメリカンドリーム」の変形版と言っていいのかもしれない。
底辺に暮らす人々の人生に希望をもたらし、観る者に夢を与えていく、そんな意図が見えてくる。
この映画の魅力は、計算されつくしたエンターテイメント性にあるのではないだろうかと思う。
インドのスラム出身の青年が、過酷な人生を駆け抜けていく様をクイズ$ミリオネアの答えと
連動しながら描いている巧みな構成。切なくて辛い若き日を描きながらも、前向きに生き
ようとする主人公ジャマールにみなぎるインドという国を体現したようなパワー。
そして、ジャマールが困難に立ち向かいながら初恋をどこまでも貫こうとする強い想い。
この全てが“クイズ$ミリオネア”の翌日挑戦する最後に出題される問題へと連動していく結末へ。
計算されつくした完璧に演出された映画なのであろう。そういう意味では作品賞の他に監督賞、
脚色賞、撮影賞、編集賞、作曲賞、歌曲賞、録音賞の8冠を獲得したのも納得がいく。
しかし見終わって「良く出来ている作品だなぁ」という感想ではあるが、感動する作品ではなかった。
2時間の上映時間の間、感情移入出来ず、映画との距離を感じながら眺めていた気がする。
それはインドという異文化の地が舞台だったからだろうか、それともあまりに作られ過ぎた演出だった
からだろうか、日本人の持つ情緒、情感のようなものがなく、ただただストーリーを追わせていく作品
だったからだろう。そのあたりがやはり文化の違いなのであろうと思う。
追記
もう一本、クリント・イーストウッド監督・主演作品「グラン・トリノ」も見てきた。
朝鮮戦争従軍経験を持つ気難しい主人公が、近所に引っ越してきたアジア系移民一家との交流
を通して、自身の偏見に直面し葛藤(かっとう)する姿を描く映画。イーストウッド演じる主人公と
アメリカに暮らす少数民族を温かなまなざしで見つめた物語である。
長い人生、辛いこともあれば、楽しいこともある。それを身をもって体験してきた大人だからこそ味わえ
人間ドラマ、己の正義を貫く主人公の強い意志と男の美学ともいえる人生哲学がくっきりと浮かび
上がってくる。この作品を最後に「俳優業の引退」を宣言したイーストウッドの名演がひかる。
私はこの2作品を比べたら「グラン・トリノ」に軍配を上げたい。スラムの孤児から幸運にもミリオネアに
なるという夢を見るより、人生の終焉を迎える時、何を考え何をすべきかに葛藤する「グラン・トリノ」
の主人公の方に共感できるからであろう。
今、自分は小説でも映画でも、はたまた音楽でも絵画でも、自分がその中に何かを発見するのでは
なく、出来れば深く共感出来る作品に出会いたい、そう思って、いろいろとあさっているように思う。
それは歳とってきて次第に孤立するときの慰めになるのかもしれないと思うからであろうか。