以前(1/15)ブログに書いたY.Sさんが会社を休んで40日ぶり、3月から出社してきている。
1月20日に喉頭がんの手術をし、約3週間の入院ののち、退院して自宅療養をしていた。
現れたY.Sさんは、ブレザーコートでシャツの第一ボタンを外し、ネッカチーフを首に巻いている。
元々彼は痩せていたが、長い間の入院と療養からか、よりやつれてしまったように見える。
手術で喉頭部は全摘出したと聞いていて、そのため声を発することはできないはずである。
出社早々の彼にどんな言葉をかけたら良いのか悩むところである。たまたま2人になった時、
「手術がうまくいって良かったですね。少し痩せたような気がするけど、・・」と声をかけてみた。
Y.Sさんは首を小さく前後に振り、両手を左右の腰のあたりで上下させて何か言おうとする。
「そう、こんなに痩せてしまった」と言おうとしたのか、「いや、変わらないよ」と言おうとしたのか、
ジェスチャーだけでは分からない。それ以上の会話もできず、ぎこちなく話は終わってしまった。
声を失った人へ語りかける側の遠慮と戸惑い、答える側のもどかしさを感じずにはいられない。
会話ができないと、会社としても彼にどんな仕事をさせたらいいのか、苦慮するところである。
電話でのコミュニケーションができないということは、今までと同じ仕事はできなくなってしまう。
メールやFAXという通信手段はあるものの、やはり電話を抜きにしては、仕入先への指示や
コントロールなどの交渉事は成り立たない。当面は毎月の在庫計算、印刷やラミネート時の
ロスの計算、後は伝票発送や書類の整理等、女性の事務作業のアシストをやるようである。
彼は会社に出て来た時から、A4の大きさのホワイトボードとマジックを携帯するようになった。
社内のコミュニケーションはこのホワイトボードに文章を書いて、自分の意思を伝えている。
ドラマの「筆談ホステス」のように字がきれいであればいいが、彼の字は殴り書きで読みずらい。
言葉と筆談、なかなか意思が通じない。下手な通訳を交えて外人と話しているようである。
いずれ慣れてくるのであろうが、今は時間もかかるし、お互いにまどろっこしさがあるようである。
先日、事務の女性の机に〈7-11〉とだけ書いたメモを置いてどこかに行ってしまったらしい。
貰った方は意味が分からず、帰るまで心配して待っていたたそうである。後でセブンイレブンに
買物に言ったと解って、「セブンイレブンなら〈セブン〉と書けば解るのに」と不満を漏らしていた。
意思疎通がスムーズになるまで、まだまだ時間がかかるのであろうが、彼が答えやすいような
問いかけ、簡単明瞭な語句での応対、お互いが心がけなければいけないのであろう。
彼の状況を知っておこうと思い、インターネットで喉頭がんについて調べてみた。手術内容や
術後の状況、生活の注意点などを読むと、彼の置かれている状況やその辛さが分かってくる。
喉頭部を摘出してしまうと、今までなら全く意識することもなかった、呼吸をするという行為と
食べたり飲んだりするという行為とが自動仕分けできなくなってしまう。そのため食道と気道とを
手術により分離し、のどの付け根部分の気管に10円玉程度の穴を開け、永久気管孔を
縫合し、ここで息をするらしい。彼はその永久気管孔をガードするためと、それを隠すために、
首にネッカチーフを巻いているのである。呼吸する時、鼻を通らず直接肺に吸入されるので、
空気は常に乾燥したものになり、しかも冷たく又小塵が取り除かれないままになるようである。
そのために咳をすることが増え、痰が恒常的に多くなるといった問題が生じるようである。
彼は時々ティッシュの箱を持って、トイレに駆け込むことがある。それは痰を柔らかくする薬を
永久気管孔に噴霧し、吸引機でこれを吸い取るためのようだ。
その他にも喉に穴を開けたことで様々な問題が生じる。一番困るのは入浴や洗髪の時に、
穴から水が肺に直接入ることである。水が入ると、おぼれたような状態になり、むせて苦しい。
入浴は胸までで止め、洗髪は誰かに介護してもらうとか、慣れるまでにはよほどの注意が
必要のようである。又口から息が吐けないから、熱い食べ物に息を吹きかける事が出来ない。
息を止めて力むこともできなくなる。(息むことができなければ排便がうまくいくのだろうか?)
呼吸による空気が鼻を通らないため、鼻の機能が失われてしまう。まず臭いが分らなくりなる。
食事も鼻をつまんで食べているようなもので、食べ物の味もはっきりしなくなるようである。
又鼻の機能に外気を36℃まで暖め、気管に達する時に98%まで加湿するという機能が
あるが、その機能が使えなくなるため、喉が乾燥しやすくなり、風邪も引きやすくなるという。
盲腸や扁桃腺なら摘出しても大きな影響はないだろうが、やはり喉頭は人にとっては重要な
機能を持っている。それを失うことでの支障や苦痛、それは本人でないと解らないだろう。
彼は毎日会社に出てきて、ほとんど誰ともコミュニケーションすることなく時間がくれば帰って行く。
仕方がないのだろうが、そんな彼を見ていると、日に日に存在感が薄くなっているように思える。
又、見ようによっては、彼自身が自分の存在感を消そうとしているようにも思えてしまう。
以前は電話口で大声を張り上げて、仕入先を怒鳴っていた。彼は取引上の優位性を利用し、
相手を恫喝する手法で仕事を成り立たせていた。しかし「その大声を張り上げる」ということが
できなくなった今、彼は戦うべき武器を失い、自信をも失ってしまったように見えるのである。
彼は昨日は会社を休んだ。今日は出社してきて、机に座り朝から右手で頭を支えながら、
じい~っとうずくまるようにしている。喉の影響から、夜しっかりと睡眠が取れないようである。
何もしゃべらず、声もかけられず、辛そうな後姿を見ていると、こちらの方まで辛くなってくる。
このままの状態が続けば自暴自棄になり、うつ症状が発症するのではないかと心配である。
喉頭を失うことにより会話ができなくなるだけでなく、それにもまして彼に大きなハンディーと
ストレスが圧し掛かってきているようである。
もしも今の状態が事前に分かっていたら、彼は酒やタバコを飲み続けることができただろうか?
そう考えてしまうと、「後悔、先に立たず」、改めて自分の健康を真摯に捉え身を正すことの
必要性を感じるのである。
1月20日に喉頭がんの手術をし、約3週間の入院ののち、退院して自宅療養をしていた。
現れたY.Sさんは、ブレザーコートでシャツの第一ボタンを外し、ネッカチーフを首に巻いている。
元々彼は痩せていたが、長い間の入院と療養からか、よりやつれてしまったように見える。
手術で喉頭部は全摘出したと聞いていて、そのため声を発することはできないはずである。
出社早々の彼にどんな言葉をかけたら良いのか悩むところである。たまたま2人になった時、
「手術がうまくいって良かったですね。少し痩せたような気がするけど、・・」と声をかけてみた。
Y.Sさんは首を小さく前後に振り、両手を左右の腰のあたりで上下させて何か言おうとする。
「そう、こんなに痩せてしまった」と言おうとしたのか、「いや、変わらないよ」と言おうとしたのか、
ジェスチャーだけでは分からない。それ以上の会話もできず、ぎこちなく話は終わってしまった。
声を失った人へ語りかける側の遠慮と戸惑い、答える側のもどかしさを感じずにはいられない。
会話ができないと、会社としても彼にどんな仕事をさせたらいいのか、苦慮するところである。
電話でのコミュニケーションができないということは、今までと同じ仕事はできなくなってしまう。
メールやFAXという通信手段はあるものの、やはり電話を抜きにしては、仕入先への指示や
コントロールなどの交渉事は成り立たない。当面は毎月の在庫計算、印刷やラミネート時の
ロスの計算、後は伝票発送や書類の整理等、女性の事務作業のアシストをやるようである。
彼は会社に出て来た時から、A4の大きさのホワイトボードとマジックを携帯するようになった。
社内のコミュニケーションはこのホワイトボードに文章を書いて、自分の意思を伝えている。
ドラマの「筆談ホステス」のように字がきれいであればいいが、彼の字は殴り書きで読みずらい。
言葉と筆談、なかなか意思が通じない。下手な通訳を交えて外人と話しているようである。
いずれ慣れてくるのであろうが、今は時間もかかるし、お互いにまどろっこしさがあるようである。
先日、事務の女性の机に〈7-11〉とだけ書いたメモを置いてどこかに行ってしまったらしい。
貰った方は意味が分からず、帰るまで心配して待っていたたそうである。後でセブンイレブンに
買物に言ったと解って、「セブンイレブンなら〈セブン〉と書けば解るのに」と不満を漏らしていた。
意思疎通がスムーズになるまで、まだまだ時間がかかるのであろうが、彼が答えやすいような
問いかけ、簡単明瞭な語句での応対、お互いが心がけなければいけないのであろう。
彼の状況を知っておこうと思い、インターネットで喉頭がんについて調べてみた。手術内容や
術後の状況、生活の注意点などを読むと、彼の置かれている状況やその辛さが分かってくる。
喉頭部を摘出してしまうと、今までなら全く意識することもなかった、呼吸をするという行為と
食べたり飲んだりするという行為とが自動仕分けできなくなってしまう。そのため食道と気道とを
手術により分離し、のどの付け根部分の気管に10円玉程度の穴を開け、永久気管孔を
縫合し、ここで息をするらしい。彼はその永久気管孔をガードするためと、それを隠すために、
首にネッカチーフを巻いているのである。呼吸する時、鼻を通らず直接肺に吸入されるので、
空気は常に乾燥したものになり、しかも冷たく又小塵が取り除かれないままになるようである。
そのために咳をすることが増え、痰が恒常的に多くなるといった問題が生じるようである。
彼は時々ティッシュの箱を持って、トイレに駆け込むことがある。それは痰を柔らかくする薬を
永久気管孔に噴霧し、吸引機でこれを吸い取るためのようだ。
その他にも喉に穴を開けたことで様々な問題が生じる。一番困るのは入浴や洗髪の時に、
穴から水が肺に直接入ることである。水が入ると、おぼれたような状態になり、むせて苦しい。
入浴は胸までで止め、洗髪は誰かに介護してもらうとか、慣れるまでにはよほどの注意が
必要のようである。又口から息が吐けないから、熱い食べ物に息を吹きかける事が出来ない。
息を止めて力むこともできなくなる。(息むことができなければ排便がうまくいくのだろうか?)
呼吸による空気が鼻を通らないため、鼻の機能が失われてしまう。まず臭いが分らなくりなる。
食事も鼻をつまんで食べているようなもので、食べ物の味もはっきりしなくなるようである。
又鼻の機能に外気を36℃まで暖め、気管に達する時に98%まで加湿するという機能が
あるが、その機能が使えなくなるため、喉が乾燥しやすくなり、風邪も引きやすくなるという。
盲腸や扁桃腺なら摘出しても大きな影響はないだろうが、やはり喉頭は人にとっては重要な
機能を持っている。それを失うことでの支障や苦痛、それは本人でないと解らないだろう。
彼は毎日会社に出てきて、ほとんど誰ともコミュニケーションすることなく時間がくれば帰って行く。
仕方がないのだろうが、そんな彼を見ていると、日に日に存在感が薄くなっているように思える。
又、見ようによっては、彼自身が自分の存在感を消そうとしているようにも思えてしまう。
以前は電話口で大声を張り上げて、仕入先を怒鳴っていた。彼は取引上の優位性を利用し、
相手を恫喝する手法で仕事を成り立たせていた。しかし「その大声を張り上げる」ということが
できなくなった今、彼は戦うべき武器を失い、自信をも失ってしまったように見えるのである。
彼は昨日は会社を休んだ。今日は出社してきて、机に座り朝から右手で頭を支えながら、
じい~っとうずくまるようにしている。喉の影響から、夜しっかりと睡眠が取れないようである。
何もしゃべらず、声もかけられず、辛そうな後姿を見ていると、こちらの方まで辛くなってくる。
このままの状態が続けば自暴自棄になり、うつ症状が発症するのではないかと心配である。
喉頭を失うことにより会話ができなくなるだけでなく、それにもまして彼に大きなハンディーと
ストレスが圧し掛かってきているようである。
もしも今の状態が事前に分かっていたら、彼は酒やタバコを飲み続けることができただろうか?
そう考えてしまうと、「後悔、先に立たず」、改めて自分の健康を真摯に捉え身を正すことの
必要性を感じるのである。