(私の良く知る)ある会社の若手社員が、「適応障害と抑うつ症状により1ヶ月の加療を要す」という内容の診断書を会社に提出した。彼は20人たらずの中小企業で事務を担当している。性格はまじめで気が弱く、自己主張も少ないように思えた。会社は職務分担が明確でなく、彼が一番の若手ということもあり、古株の営業社員に雑用を押し付けられることが多かったようである。彼はそのことに理不尽さを感じつつも、しかし逆らうことができなかった。いやいややるからミスも多くなる。そのミスを先輩社員から叱責され罵倒されると、次第にものを頼まれることが恐怖になってくる。そんな状況をオーナーは見てみぬ振りをし、彼を庇うことも業務改善に手をつけることもしなかった。そして彼は次第に仕事のやる気を失い、朝会社に行くことも辛くなってきたようである。
彼は自分でも「これではまずい」と気づき、新宿にあるメンタルクリニックで受診することにした。そこは日曜日も診療している病院で、スタッフも4、5人とサラリーマンにとっては受診しやすい落ち着いた雰囲気の病院だったそうである。まず最初にスタッフから簡単な質問を受け、その後検査室に入り頭にヘッドギアのような脳波測定器を装着される。最初に「あいうえお・・・」を順番に言わされ、その後で「〈あ〉で思いつく単語を言ってください」と言われ、つぎに「〈い〉で思いつく単語?」、・・・つぎに「〈き〉で思いつく単語?」という風に検査は続いていく。そして最後に再び「あいうえお・・・」を順番に言わされ、約20分程度で脳波検査は終了した。
検査が終わり、しばらくして診察室に入ると先生に、「少し脳波に異常が出ていますね」と言われ、モニターの脳波を見せられたそうである。その時初めて自分の状況が深刻なことを知り、彼は少なからずショックを受けたと言う。それから医師に生活の状況について色々と質問を受ける。仕事の状況は? 自宅では? 休日の過ごし方は? 最近自分で変わったと感じることはありますか?等々。それに対して、職場での理不尽さが耐え難くなり、会社に行くことが辛くなったこと。自分の部屋は綺麗にしている方だが、それが最近は片付かなくなったこと。休みの日は学生時代の友達と遊びに行ったり、一人の時は長距離の散歩をしたり、映画を見たりしていたが、そんなことが少なくなり、あまり外出しなくなったことなど、彼は正直に答えたそうである。そして質問に答えながら、自分でも自分の変調に気づいたと言う。
問診が終わり医者の診断は・・・「うつ病」の一歩手前ですね。今はまだ職場に対しての怒りがあるから大丈夫でしょうが、これが進むと、全てのことに無気力になってしまいます。そして自分の周りで起こるトラブルは「自分が悪いから、自分がいたらないから・・」と思うようになってきます。そうなれば完全に「うつ病」です。あなたは今回早めに来院されて良かったと思います。今から少し休養し、運動をしたり、何でも良いから趣味を大切にし、自分で集中できるものを作ったほうが良いと思います。会社の状況を聞いた限り、再度勤めてもまた同じことが起こるでしょう。状況が許すなら環境を変える意味で、転職を考えた方が良いと思います。とりあえず1ヶ月休めるように診断書を書いておきます。症状に変化を感じたらまた来てください。そんな話で終わったそうである。
先日の日曜日、NHKスペシャル「病の起源」という番組で「うつ病」を取り上げていた。その内容は、・・・生命は自分の身を守るための防御本能として、脳の中の「扁桃(へんとう)体」を発達させてきた。しかし、恐怖、ストレス、孤立・・・そんな状況の中に長く身を置くと、扁桃体が暴走し脳のエネルギーを消耗させて機能低下を起こしてしまう。これが「うつ病」の原因だと考えられる。人類が脳を進化させたことで高度な知性が生まれ、文明社会への道を切り開いてきた。しかし文明社会によって社会が複雑化し、人間関係が一変したことが、皮肉にも人類がうつ病になる引き金を引いてしまった。そう言う内容の番組であった。
彼は学校を卒業して初めての職場である。田舎から出てきて、生き馬の目を抜くように感じる東京の、しかも中小のオーナー経営の会社に入社した。今のオーナーの考え方が、「自主性を重んじる」ということで聞こえは良いが、悪く言えば職場は無管理状態で弱肉強食の様相になってしまう。近年営業成績も上がらず、職場の雰囲気もギスギスしたものになってきた。そんな中で彼はストレスに晒され続けたのである。そしてとうとう職場離脱(ドクターストップ)となってしまった。
彼を見ていると、ゆとり世代の特徴と言うのであろうか、がむしゃらな意気込みや前向きなスタンスに乏しく、打たれ弱くひ弱な感じを受ける。とは言うものの今からは、こういうタイプの若者は多くなっていくのであろう。したがってそんな彼らを受け入れる職場環境の方にも問題があるように思うのである。彼が診断書を提出したたまたまその日、朝刊に塩野七生の著書の広告が掲載されていた。その中に、「若者が自信を持つには、人生と言う戦場で勝つしかない」、そしてもう一つ、「リーダーを自覚できない人間が権力者であった場合、権力は悪に変わる」とあった。この2つの言葉がぴったり当てはまる出来事である。結局、彼にとってはミスマッチな職場だったのである。
彼は自分でも「これではまずい」と気づき、新宿にあるメンタルクリニックで受診することにした。そこは日曜日も診療している病院で、スタッフも4、5人とサラリーマンにとっては受診しやすい落ち着いた雰囲気の病院だったそうである。まず最初にスタッフから簡単な質問を受け、その後検査室に入り頭にヘッドギアのような脳波測定器を装着される。最初に「あいうえお・・・」を順番に言わされ、その後で「〈あ〉で思いつく単語を言ってください」と言われ、つぎに「〈い〉で思いつく単語?」、・・・つぎに「〈き〉で思いつく単語?」という風に検査は続いていく。そして最後に再び「あいうえお・・・」を順番に言わされ、約20分程度で脳波検査は終了した。
検査が終わり、しばらくして診察室に入ると先生に、「少し脳波に異常が出ていますね」と言われ、モニターの脳波を見せられたそうである。その時初めて自分の状況が深刻なことを知り、彼は少なからずショックを受けたと言う。それから医師に生活の状況について色々と質問を受ける。仕事の状況は? 自宅では? 休日の過ごし方は? 最近自分で変わったと感じることはありますか?等々。それに対して、職場での理不尽さが耐え難くなり、会社に行くことが辛くなったこと。自分の部屋は綺麗にしている方だが、それが最近は片付かなくなったこと。休みの日は学生時代の友達と遊びに行ったり、一人の時は長距離の散歩をしたり、映画を見たりしていたが、そんなことが少なくなり、あまり外出しなくなったことなど、彼は正直に答えたそうである。そして質問に答えながら、自分でも自分の変調に気づいたと言う。
問診が終わり医者の診断は・・・「うつ病」の一歩手前ですね。今はまだ職場に対しての怒りがあるから大丈夫でしょうが、これが進むと、全てのことに無気力になってしまいます。そして自分の周りで起こるトラブルは「自分が悪いから、自分がいたらないから・・」と思うようになってきます。そうなれば完全に「うつ病」です。あなたは今回早めに来院されて良かったと思います。今から少し休養し、運動をしたり、何でも良いから趣味を大切にし、自分で集中できるものを作ったほうが良いと思います。会社の状況を聞いた限り、再度勤めてもまた同じことが起こるでしょう。状況が許すなら環境を変える意味で、転職を考えた方が良いと思います。とりあえず1ヶ月休めるように診断書を書いておきます。症状に変化を感じたらまた来てください。そんな話で終わったそうである。
先日の日曜日、NHKスペシャル「病の起源」という番組で「うつ病」を取り上げていた。その内容は、・・・生命は自分の身を守るための防御本能として、脳の中の「扁桃(へんとう)体」を発達させてきた。しかし、恐怖、ストレス、孤立・・・そんな状況の中に長く身を置くと、扁桃体が暴走し脳のエネルギーを消耗させて機能低下を起こしてしまう。これが「うつ病」の原因だと考えられる。人類が脳を進化させたことで高度な知性が生まれ、文明社会への道を切り開いてきた。しかし文明社会によって社会が複雑化し、人間関係が一変したことが、皮肉にも人類がうつ病になる引き金を引いてしまった。そう言う内容の番組であった。
彼は学校を卒業して初めての職場である。田舎から出てきて、生き馬の目を抜くように感じる東京の、しかも中小のオーナー経営の会社に入社した。今のオーナーの考え方が、「自主性を重んじる」ということで聞こえは良いが、悪く言えば職場は無管理状態で弱肉強食の様相になってしまう。近年営業成績も上がらず、職場の雰囲気もギスギスしたものになってきた。そんな中で彼はストレスに晒され続けたのである。そしてとうとう職場離脱(ドクターストップ)となってしまった。
彼を見ていると、ゆとり世代の特徴と言うのであろうか、がむしゃらな意気込みや前向きなスタンスに乏しく、打たれ弱くひ弱な感じを受ける。とは言うものの今からは、こういうタイプの若者は多くなっていくのであろう。したがってそんな彼らを受け入れる職場環境の方にも問題があるように思うのである。彼が診断書を提出したたまたまその日、朝刊に塩野七生の著書の広告が掲載されていた。その中に、「若者が自信を持つには、人生と言う戦場で勝つしかない」、そしてもう一つ、「リーダーを自覚できない人間が権力者であった場合、権力は悪に変わる」とあった。この2つの言葉がぴったり当てはまる出来事である。結局、彼にとってはミスマッチな職場だったのである。