「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

空虚 (1)

2008年05月25日 22時28分10秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
 BPDの人にとって 「空虚」 とは、

 無力感や疎外感によって、全てが消耗されつくしてしまう 感覚です。

 混乱の中で 自己を失う恐怖が募り、心が麻痺状態になって、

 行動もできなくなってしまいます。

 衝動性,抑うつ,怒りと比べても、最も修正がきかない 感情であるとされます。

 心子もそうだったように、自分の存在意義を失い、気分が不安定になり、

 自死に至ってしまうこともあるほど、底なしの喪失感です。

 ハムレットは 「空虚」 を、世界中のどんなものよりも 耐えがたいと嘆いています。

 空虚は 最も直面化するのが 難しい症状です。

 それは家族やパートナー,治療者についても 言えるでしょう。
 

 BPDのうつ現象は 空虚と孤独によるものであり、

 うつ病のそれとは 明確に区別されます。

 うつ病の人は、罪悪感,悔恨,引きこもりの症状を、より 経験しているといいます。

 それに対して BPDのうつの特徴は、

 怒りと破壊衝動性,自己嫌悪,人間関係に対する 自暴自棄です。

 幼児期の基本的な欲求が 満たされないと、

 そのフラストレーションが 成人期のうつをもたらします。

 養育の欠乏のために、安全や慰謝のイメージを 育むことができず、

 主観的な空虚感に 陥ってしまうのです。

 心子は 生まれたときの足の障害のために、親が抱くことを 医師に止められ、

 1年間たった一人で 寝かされたままでした。

 赤ん坊が 最もスキンシップを 必要とする時に、それを得ることができず、

 安心して生きていていいんだという、

 この世界に対する 基本的な信頼感を 抱くことができなかったのです。

 過去の失望や トラウマがあるため、庇護されることに 恐れを持ったり、

 世界観や価値観を 確立することができなかった結果、

 空虚というブラックホールを 作ってしまいます。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54422134.html

〔参考文献: 「BPDを生きる7つの物語」 (星和書店) 〕
 
コメント (2)
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