「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

不利益な報道 …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (43)

2010年10月16日 22時14分34秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○皇居

  美和子と世良が歩いている。

美和子 「世良さん、 このことはなるべく 控え

 めに書いてほしい ……」

世良 「移植に不利なことは 表に出さないよう

 に、 か?」

美和子 「知らせないほうが うまくいくことと

 いうのが、 世の中にはあるわ」

世良 「いい面も悪い面も 正しく伝えるのが、

 俺の役目だよ」

美和子 「世良さん、 何が目的の取材か 忘れた

 の ?  移植の大切さを 訴えるためだったは

 ずよ」

世良 「大切だからこそ、 下手な隠し立てを 

 しちゃいけないんだ。 信念があるなら 堂々と

 していろよ」

美和子 「ジュンがどうなっても いいって言う

 の?  あなたの弟が !?」

世良 「俺は嘘までついて、 移植推進の提灯持

 ちに なるのはごめんだ。 真実を伝えるだけ

 だよ !」

美和子 「世良さん …… !」

   ×  ×  ×  ×  ×

  堀端の道を 早足気味に歩く世良。

  6~7メートル離れて、 美和子が追って

  歩く。

  
○電車の中

  吊り革に掴まっている 美和子と世良。

  無言。

  電車が駅に着く。

  美和子たちの背中側の ドアが開く。

美和子 「…… じゃあ …… (ドアのほうへ行

 く)」

世良 「ああ、 また ……」

 
○駅のホーム

  美和子が下車してきて、 電車の方に向き

  直る。

  乗降客の合間から 世良の背中が見える。

  美和子、 手を振ろうとするが、 世良は向

  こうを向いたまま。

  ドアが締まり、 電車がゆっくりと発進す

  る。

  世良の背中を 見送る美和子。

  雑踏が消えても、 ホームにたたずんでい

  る。
 
(続く)
 
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