(前の記事からの続き)
○新宿西口・ 高層ビル郡(夜)
○高層ホテル
最上階のスナック。
窓際の席に 美和子と世良。
世良、 煙草を取り出す。
世良の煙草に 火をつける美和子。
世良 「ありがとう ……」
美和子 「……」
世良 「…… 移植の陰には、 あのご主人の姿が
あるんだな ……」
美和子 「…… 止むを得ない ……。 亡くなって
しまった 人のことより、 これから生きていく
人のことを考えるのが、 医者の役割よ…
…」
世良 「考えてみれば、 俺たち、 事故に遭った
木下さんを 救うために、 病院に運んだんだ
よな。 それが 何だか逆に ……」
都会を見下ろす 大きなガラス窓。
外を眺める 美和子と世良。
美和子、 ガラスに息を吹きかけ、 白く曇
らせる。
美和子 「 (ガラスに指で 「0」 を書く)
…… 脳死で 死んでしまった命 …… (右隣に
もうひとつ 「0」 を書く) 移植しなければ
死んでしまう命 …… ( 「0」 と 「0」 の間に
「+」 を書きながら) 移植をすると ……
(一番右に 「=」 と書き) ふたつの死から
…… (さらに右に 「1」 を書く) ひとつの
生が生まれる……」
窓に 「0+0=1」 という 式ができる。
世良 「……」
美和子 「複数の臓器を 複数の患者さんに 移植
をすれば、 さらに1を 2にも3にもでき
る」
世良 「……」
美和子 「…… (世良の表情を伺う)」
世良、 美和子の書いた式を ゆっくりと消
す。
世良 「 “人の役に立つ” ということは、 この
社会では 誰も否定できない 価値観になって
る ……」
美和子 「ええ ……」
世良 「移植には、 “役に立つ命” と “役に立
たない命” という 発想が伴うよね ……。
でも、 “役に立たない命” は 価値がないんだ
ろうか?」
美和子 「……」
世良 「命に “質の上下” が あるんだろうか …
…?」
美和子 「…… (小声で) ずるい……」
世良 「え? ……」
美和子 「そんなふうに言われたら、 誰も何も
答えられなくなっちゃう ……」
世良 「……」
(次の記事に続く)