BPDの自傷行為には 矛盾した逆説的な性質があります。
自傷行為は 肉体的・精神的にも 並外れた苦しみを引き起こす一方、
苦しみを和らげるために行なわれ、 実際 そのように体験されることが多いのです。
肉体的な苦痛は、 精神的苦痛より まだ耐えやすいと言います。
また 身体的な傷は目に見え、 精神的苦しみの具体的な証拠となります。
患者は 「身体を傷つければ、 本当に自分を殺さなくてもすむ」 とも考えます。
臨床家は入院させなければと考えますが、
この行動が当人に 生き続ける「許可」 を与えてるとしたら、
入院は不必要で 逆効果になりかねません。
自殺企図の場合もそうです。
このような誤った判断や誤解は、 自殺可能性に対する 過小評価と過剰反応という、
BPDの自傷行為の もうひとつの逆説的側面に関わるものです。
BPDの人は 自殺念慮を抱きながら、
自殺を意図しない自傷行為, 自殺の脅し, 致命的でない自殺企図を
行なうことがしばしばあります。
周囲がそれを 「オオカミ少年の訴え」 と 見なすようになることもあります。
そして 真の自殺の危険性を、 過小評価もしくは 無視するようになってしまいます。
自傷によって 周囲の関心を集めようとしているという、 誤解が生じるのです。
自殺関連行動は 多くの精神障害で起こりますが、
致命的でない自傷行為が 些細なきっかけで繰り返されるのは、
ほぼBPDだけのものです。
そのため臨床家のなかには BPDの治療を嫌がる人もいますが、 残念な状況です。
BPDの治療は いかにストレスが多くても、
やりがいのある 実りの多い経験になります。
患者は 慢性的な自殺念慮を振り払い、
自傷行為をやめることができるようになるのです。
〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より