対人関係での喪失体験が、 それが現実でも想像でも、 自傷の引き金となります。
その体験の解釈 (認知) において 自責や自己非難が生じ、
統制が失われて、 自傷行為が起きます。
激しい辛さが、 解離によって 感覚麻痺に陥りますが、
辛さも感覚麻痺も 耐えがたいプレッシャーなので、
自傷行為によって 解放感を感じたり、 感情のバランスを取り戻します。
痛みを感じると 自傷行為をやめる人もいます。
血を目にすると 悪い感情から解き放たれたと感じて、 自傷行為が止まる人もいます。
自傷が 不快感を緩和すると言われますが、
これは 自己懲罰による罪悪感の解放など 心理的要素と関係があります。
ひとつの痛みが 別の痛みによって解消するという、 生理的メカニズムがあります。
自傷行為によって エンドルフィンが生じ、 痛みを緩和するとも考えられています。
○ 認知と認知的要因
自傷行為を行なう人は、 自傷行為に良い点があると 信じ込んでいますが、
これは 「歪んだ認知」 です。
彼らは、 感情的苦痛より 身体的苦痛なら耐えられると 思い込んでいます。
ネガティブな感情を取り除くのは 自傷しかないと信じ、
それで自分をコントロールできると 信じています。
怒りのために 自傷行為する人にとっては、
怒りを人に向けるのは 悪いことで、 自分を傷つけるほうが 良いことなのです。
自分を罰したい人は、 自分が苦しんでしかるべきと 信じています。
○ 解離, 自傷行為, 痛みの経験
自傷行為の最中に 痛みを感じない人は、
うつ, 不安, 衝動性, 心的外傷, 性的虐待など、
障害が重いと考えられます。
無痛感覚は、 神経感覚的要因と心理的要因の 両方に関係があるともされます。
○ 生物学的要因と神経認知的要因
自殺企図者は セロトニン機能が低下し、
衝動性と攻撃性が高まることが 知られています。
また、 ストレスに対する 神経内分泌系の過剰反応によって 自傷行為が起こり、
コルチゾンの分泌が高まっています。
自傷行為をする人の脳脊髄液の中では、 脳内麻薬物質の濃度が変化し、
痛みの調整に 重大な障害が起きているとうかがえます。
以上のことから、 全ての自傷行為に 生物学的基盤があると言えるでしょう。
〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より