・ 対象関係論
患者と他者との関わりを、
患者の最も早期の 経験や対人関係から 理解する理論です。
強い影響力のある人 (対象) との 関係において、
それに対応する 自分のイメージが形成されます。
発達過程で生じる 対象関係の障害が、 問題を引き起こすと考えられます。
子供にとって 人間関係が 「悪い」 ものとされ、
適応不全が生じ、 有害な行動となるのです。
対象関係論の治療モデルは、
自己と他者の 病的なイメージを改善することによって、 回復を図っていきます。
・ 自己心理学
患者の中には、
他人から望ましい反応が 得られるかどうかで、 大きく左右されてしまう人がいます。
心のバランスを保つために、 過剰な承認と確認を 必要とします。
人から充分な 関心を受けるためには 完璧でなくてはならない,
人のために行動しなくてはならないと 感じることがあります。
治療の中では、 患者が治療者に認めてもらおうと、
様々なふるまいを見せる 「鏡転移」 という形で現れます。
治療者は 患者がそこから自由になれるように、 共同作業を進めます。
患者の自己同一性を育むために、 共感が大切な役割を果たします。
・ 自我心理学
自我心理学のモデルでは、
心理的プレッシャーに対する 無意識の防衛機制が議論されています。
例えば、 辛い経験や思考が 意識から無意識へと押し出される 「抑圧」 です。
BPDの特徴のひとつに、
「分裂」 (スプリッティング) という 防衛機制があります。
感情的な混乱をもたらす 曖昧さや矛盾に 耐えられない人は、
白か黒といった 極端な二分思考で 世界を捉え、
完全に良いか悪いかの間で 揺れ動きます。
境界性障害の根底には、
自己や他者の 肯定的なイメージを破壊しようとする 衝動が存在します。
その結果、 自分の精神を分裂させることで、
悪いイメージから良いイメージを 守ろうとするので、
自己概念が砕け散り、 同一性の問題が生じるのです。
理想化と中傷が 入れ替わるパターンは、 治療にとって困難な問題になります。
相反する気持ちや曖昧さに 耐えられるように,
そして 内的な世界を統合できるように、
このパターンを 自覚できるよう援助していくのが 治療の課題です。
〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より