行政書士中村和夫の独り言

外国人雇用・採用コンサルティング、渉外戸籍、入管手続等を専門とする26年目の国際派行政書士が好き勝手につぶやいています!

日本の製造業が国際的に強い、本当の理由とは! (下)

2008-05-22 03:05:51 | 国際・政治

 工場の製造ラインでトラブルが発生し、不良品が出たとすると、一般的には外国ではその工場労働者達は知らぬ顔をして見過ごすか、自分の工程が原因で発生したことを隠そうとします。しかし、日本の工場では、その原因を徹底的に分析して再度起こらない方法を皆で考えていました。

 これが日本の工業製品の品質の高さであり、世界を席巻した工業力の原動力でありました。このようなメンタリティーの工場労働者達が居なければ、おそらく日本は単なる開発途上国で、水が豊富で魚が美味しいだけの小国であったのかもしれません。

 では、どうして日本の製造部門の労働者の質が極めて高いのかというと、やはり日本独特の終身雇用制やら、「のれん分け」のような末端からでも這い上がれるシステム、それに社会階級に囚われない、山下飛びのような出世システムといった日本独特の社会階級システム抜きには到底考えられないと私は思います。

 私の知る限り、創業者でない工場労働者が大企業の社長になったりするような事が日本という国では希ですが起こりえます。しかし、海外の企業ではまずあり得ない話だからです。フォードやGMの自動車の工場労働者で重役になった人が居たでしょうか?ホンダ自動車で起こった話をすると、大抵の外国人労働者は感激し、日本という国を羨望します。

 日本が優秀なのは日本に天才的な職人が多く居たからではないと私は思います。日本では、一人の天才による技術や技能を多くの人達でシェアーして、分散して平準化しようとする集団力が日本の工場労働者にはあったからだと思います。一人か数人の、ずば抜けた天才に頼る店舗は多々あっても、中堅以上の製造企業となると、そうゆう会社は日本では殆ど無いのです。それは、その技能や技術を社内で伝承して、平準化して来たからなのです。

 ところが、海外では飛び抜けたスーパーマンのような技能者、技術者、営業マン、そして経営者に頼るメーカーが意外に多いのです。そして、そういった人々に払うギャラも図抜けて高額です。いや、海外と書きましただが、最近は我が日本でもこういった図抜けた高額なギャラで働く人々が段々と増えたようです。つまり、これが今の日本の国際化やグローバルスタンダードの正体のようです。

 天才といわれる人々は確かに居ますし、彼等にはそれなりの対価は払われるべきであろう思います。しかし、彼等のような突然変異的なスタッフの力量だけに企業が頼るというのは、企業の存続性からして極めてリスキーです。企業経営的に言えば、この天才によって得られた技能や技術は、社内に素早く普及させなれば、会社として安定的な利益の確保は困難となります。その為には、この天才を厚遇する事は極めて大事な事でありますが、更にもっと大切な事は、企業がどこまで、この天才の技能・技術を素早く平準化させるかなのです。そして、この天才を長く天才として生かせるかという点なのですが・・・。

 この最後の点について言えば、日本企業は決して上手いとは言えず、寧ろ潰してしまっていた可能性が極めて高かったようです。これがいわゆる横並び的な考えの弊害だったようです。それでも、日本の製造現場のレベルは世界的に見て、未だにずば抜けて高いのです。そして、それがいつまで続くかは、今後の未来の日本の経営者の方々次第なのですが・・・。

 もし、貴方の知っているどこかの工場で、粗悪品が製造されていても、見て見ぬふりをする労働者が多かったら、きっとその会社に未来は無いでしょう。どこかの、超高級料亭で高級肉と称して普通の肉を使い、お客様の食べ残しを使い回ししていても、誰も見て見ぬふりをしていたそうな。この料亭の行く末は明らかですよね!我がニッポン、一体どこへ行くのでしょうか?

 次回は、本テーマの最終回として、日本の今後の行くべき航路について考えてみたいと思います。

http://www.afpbb.com/article/economy/2391888/2929686 

 

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日本の製造業が国際的に強い、本当の理由とは! (中)

2008-05-07 03:42:33 | 国際・政治

 1987年、私はラテンアメリカでも米国に隣接する某国にある、日本政府とM国それに民間企業が加わった国家プロジェクトによって立ち上げられた大径管製造会社という鉄鋼製品の工場での技術移転現場通訳として赴任したのでした。

 大径管とは、原油産出国に敷設されている直径が1メートル以上もあるような原油や石油製品を大量輸送する為のパイプラインに使われる鋼鉄製のパイプの事です。ところで、鋼鉄は常温(5~25℃位)で、湿気が少なく酸化しにくい条件にあれば、固く強いという特性があるのですが、高温(35℃以上)になると急に柔らかくなり、また低温(0℃以下)になると今度は急に脆くなってしまうのです。つまり、飴などと非常によく似た物質特性なのです。おそらく、一般の方々で、鋼鉄がちょっとの温度変化で、脆く変化する事は意外にご存じないと思います。

 例えば、サウジアラビアやクウェートなどの砂漠で使われるパイプラインでの温度は、40℃~50℃でありますから、この温度だと通常鋼では柔らかくなって強度が落ちてしまいます。そこで、当初からそれを想定して、高温に強い特殊な厚板(自動車などに使われる薄い材料に対して、鋼管などを作る鉄板の事を総じてこう呼んでいる)を材料段階から設計し、その厚板を使った鋼管を作るのです。一方、ロシアのシベリアになどに敷設されるパイプラインでは、逆に零下20℃~零下30℃になると、鋼鉄は脆く割れたり折れたりし易くなるので、やはり当初から極寒温度を想定して、今度は低温に強い特殊な鋼鉄厚板で鋼管を作るのです。

 そして、パイプラインによって輸送されるのは引火性のある原油や石油製品がほとんどですから、パイプの溶接接合面や継ぎ目などの割れ目やヒビあっては危険ですので許されない事ですし、ピンポールなどの僅かな穴や異物混入箇所などの僅かな脆弱部分でも、これらの箇所から引火物質が漏れて、大爆発による大惨事を招く可能性があるのです。従って、こういった鉄鋼製品の多くは、真っ赤に溶けた鉄を固めただけの単純な製品ではなく、実は非常に緻密で、デリケートな設計によって作り出されるハイテク製品なのです。こういった高温や低温に耐えられる鋼管を作れるハイテク技術は、当時世界でも日本とドイツしか無かったのでした。それほどの難しい技術の集約によってのみはじめて製造が可能な製品だったのでした。

 さて、私が着任した当時は、工場での基礎的な技術の習得が既に完了しており、実践での製造現場に於けるノウハウ指導が始まったばかりの頃でした。そして実際の受注製造が始まったばかりの頃、ある工程が原因の不良品多発のトラブルが起きたのでした。その問題発生箇所の原因を探すために、日本人技術者が電子、電気、機械のすべての面から原因の追及に入ったのでした。そして、その原因が、ある人為的なミスによるものだと分かったのでした。そして、そのトラブル再発防止のための対策が取られ、同じ事を原因とするトラブルはこれでもう発生させないシステムを構築したのでした。勿論、人的なミスですから、その担当者、管理者の問題点も明確となり、彼らには再発させないようなシムテムも導入させたのでした。この一部始終の経過や顛末は、当然ですがレポートとして詳細が文書化され、今後人員が入れ替わっても誰でも分かるようにメンテナンス記録として残されたのでした。当然、M国側の技術スタッフも同じようなレポートを作成して、上司に提出していたのでしたが・・・。

 このトラブルの数日後、M国人の工場長との定例ミーティングで、この件が議題にあがり、M国サイドが作成したレポートを見せて貰ってビックリしたのでした。それは、そのトラブルの原因についての弁明とその後の対策(抽象的な説明し終始していた)によって、このような事態は今後は起こりえないというまったくの言い訳のような内容だったのです。そして、勿論そのトラブルがどうゆう経緯で発生したのか、或いは、どうゆう因果関係にあったのか、そして今後の具体的な諸対策などは一切書かれていないのです。要するに、単なる美辞麗句を並び立てた記事のような報告書だったのです。これには、日本人技術者達が皆驚きました。そして、こういったレポートがその後も続いたのでした。どうして、こういった誤魔化しのような報告書しか書かないのか?どうして、こういった貴重なトラブル処理方法を記録として残して会社のノウハウとして蓄積できないのか?日本人だけのミーティングで何度も議論されましたが、結論としてその理由は単純明快でした。

 それは、1:彼らはミスをすると責任を取らなければならない為に、特に人為的なミスが絡む内容については敢えて上司に詳しい報告はしない習性があること。2:彼らは現地の作業員から部門長まで、基本的には会社対個人として契約している感覚があり、ミスは失職に繋がるという意識が強いこと。3:技術指導によってそれぞれ担当者が覚えた事柄は会社として残すという感覚ではなく、覚えた個人が習得した技術や知識として思っている事。4:会社は、ミスを起こした者に対して、即刻解雇する傾向があること。5:習得技術を後進の者へ伝えても、会社としては何らかの評価をするどころか、逆に教えた者自らの地位を危うくしてしてしまう可能性が高いこと。6:習得技術を持った者は、他社から条件の良いオファーがあれば当然転職するものと思っていること。

 つまり、彼らM国の技術者や技術作業員達には、従業員個人が習得した実務経験や実務知識などを会社資産として蓄積して伝承して行くシステムがほとんど無かったのでした。つまり、品質管理でいうところの現場でのQC運動やカイゼン運動が全くなかったのでした。これを、従業員の意識の低さと言い捨てる専門家や評論家は、おそらく現場をまったく知らないお馬鹿な人々としか言いようがありません。会社として、こういったカイゼン活動やQC活動を評価し、昇級やら昇進の対象にしなければ、誰もそんな事を自ら進んで行う者はいません。むしろ、当時のM国で、自らの習得知識を会社にきちんと残し、後進の者達に継承して行く者がいたとしたならば、それで会社からポイ捨てになる訳ですから、単なる馬鹿者として扱われて終わるしかなかったのが当時の現実だったのでした。

 日本人技術者のNさんなどは、「俺だってさぁ、会社が定年まで面倒みてくれるから、若い奴らにも今までの経験とか覚えた事などを教えてやったりするけれどさぁ、M国のここの会社みたいなところに勤めていたら、きっと誰にも教えたりしねぇなぁ。覚えたりした事は、転職する為の武器として誰にも教えないでいるなぁ。きっと!」 更に別の日本人技術者に至っては、「彼等にはさぁ、いくら教えたって、転職しちまうしさぁ、会社として何も残らないから、俺達何回でもここに来てさぁ、同じ事を教えに来られるんでねぇの?」

 1970年代、「金曜日に作られた自動車を買ってはいけない」という言い伝えがあったのをご存じでしょうか?つまり、アメリカでもこのM国と同じで、カイゼン活動やQC運動とは上からマニュアルとして指示される事であり、自分たちで見つけたり提案したりすることではなかったのでした。そんな、工場での週末休み前の金曜日の製造作業などでは、日頃より余計に気が散ってミスが多かったに違いありません。冗談のような話で、金曜日に作られた車のドアーの中の空間にコーラの瓶が入っていたなんて話があったくらいなのですから。

 次回は、日本の製造メーカーと外国の製造メーカーとの違いを、更に具体的に比較して行きたいと思います。

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