社員の多くが博士号を持つような、某会社の社長に、外国人社員の転職でボヤかれてしまいました、
「先生、ご無沙汰しております。実は、昨年先生に在留資格の手続をして頂いた△△人のXXの件でちょっと伺いたいのですが・・・」
「はい、何でしょうか?」と私。
「本人は、帰国すると云っているのですが退職証明書を出してくれって云うのですよ。多分転職するような気がするのですが、先生、何かご存じないでしょうか。」
退職証明書は、新しい勤務先で取得する就労資格証明書の申請や在留期間更新申請の時に必ず必要となる書類である。本当に帰国するのならば、退職証明書などは不要なのである。寧ろ、次の就職先用の英文推薦状でも書いて欲しいと言う筈である。
「退職証明書ですか・・・。うう・・・んんん。これは、やはり転職でしょうね。」
「やっぱり、あんなに面倒を看てやったのに。それに、もう少ししたら待遇も考えてやるつもりだったのに・・・。やっぱり、外国人は使い難い・・・。」
「社長!おそらく、XXさんは社長がちっとも認めてくれないと勘違いしていたところに、条件の良い話が舞い込んだのだと思いますよ!きっと。」
「外国人は、どうも我慢が足りない!もう少し待てば、それなりの待遇にしてやるつもりだったのに・・・。そうか、今の若い奴らも同じようなものだしなあ・・・」と、さすがにご自分のコミュニケーション不足に気付かれたようでした。
経営者と外国人社員との価値観のズレや意思疎通不足による、人材流失の典型例です。
彼等、外国人は一般的には業務成績を上げた場合、給料やらインセンティブなど即時の結果を求める傾向にあります。それは、終身雇用制度が長かった日本企業の経営者の方々からみれば、実に短絡的に見え、”がめつい”との誤解を受け易いのですが、必ずしもそうではありません。
彼等は、必ずしも金銭的な評価のみを期待している訳では無いのです。しかし、日本人的な評価方法による、”この功績は遠くない将来、必ず評価する”という手法は、実は日本でしか通用しない評価方法であり、結果として彼等外国人を失望させることになってしまう可能性が高い手法なのです。
残念ながら、この会社さんとは在留資格手続きの個別契約だけで、外国人社員に関わる顧問契約はさせて頂いておりませんでした。
一方、別なケースで、今度はC国のM君から相談を受けたのでした。
「先生、僕、転職しようと思うのです。もっと時給の良い会社に転職しようと思うのですが・・・。」
私は、彼の上司でもある日本人のY氏から、彼を高く評価しており、近い将来彼を引き上げるつもりだと聞いていたので、ちょっと驚いたのでした。
「どうしてなの?だって、M君はYさんの重要なアシスタントだし、Yさんの評価も高いと思うのだけど・・・」
「いやぁ、そんな事は無いと思う。Yさんは、課長から今は取締役◇◇になったのに、僕は未だに正社員じゃないし、給料も上がってない!Yさんは、僕を評価はしてくれていないと思う。」
実は私、この会社さんとは顧問契約をしていて、YさんがM君を社員として引き上げる為に、今現在様子を見ている事をYさんから聞いて知っていたのでした。そこで、
「M君さあ、日本ではね。社員に対する評価ってのはね、直ぐには行われないんだよ!評価はね、場合によっては、数年後になる場合もあるんだよ。石の上にも3年っていう格言があってね。直ぐに評価しない会社が多いんだよ。知っている?」
「本当ですか?何か信じられないなあ。今のままでは、一生懸命頑張り続けても、いつになったら評価してくれるのだろうか・・・先生。僕の奥さん(日本人)も、転職した方が良いと言っているし・・・。」
「M君さあ、私は日本人ではあるけれど、M君の国のC国やM国、S国、それにこの日本でも勤めた経験があるんだよ。だから、M君よりもず~と日本の会社や世界の会社の事を知っているんだよ。だからさ、騙されたと思って、あと1年間だけ我慢して、Yさんの下で頑張ってみてご覧よ。」
「ん~~」と、ちょっと躊躇していたM君でしたが、
「分かった先生。もう少し頑張ってみるよ。」
そして、私がM君にこの様にアドバイスしてから半年後、幸いにもM君は正社員になりました。しかも、その後6ヶ月も経たない内にあのリーマンショックが起こったのでした。そんな事があった後のある日、M君に早々と永住許可が降りたので旅券を受取に再び事務所にやって来たのでした。
「先生にアドバイスされた事を守って良かったよ!本当に感謝している。」
「それは良かったね。もし、高い時給に目が眩んで転職していたら、今頃は他の日系人と同じように失業していたかもしれないね。」
「本当に、そのとおりです。ありがとうございました。先生、また何かあったら相談してもいいですか?」
「ああ、どうぞどうぞ。M君は古いクライアントでもあるし、会社さんもクライアントだからね。どうぞ、何か心配事があったらいつでも来て下さい!」
この様に、有望な外国人スタッフの流失を防ぐための、目に見えないカウンセリングも、外国人雇用・採用コンサルタントの仕事なのです。