東京電力女性社員殺害事件で、無期懲役の刑に服していた、
ネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリ元被告に対して、
6月7日、東京高等裁判所は再審開始の決定と、
無期懲役の刑の執行停止を認めた。
分かり易く言えば、裁判のやり直しと、
ゴビンダさんが無罪である可能性が限りなく高いことから、
刑の執行停止となった訳である。
ところが、ゴビンダさんは、釈放されたにも係わらず、
東京入管横浜支局に収容されているという。
(東京入管横浜支局↑)
普通の受刑者であれば、釈放されれば、
即日いわゆる娑婆に出られる筈なのであるが、
ゴビンダさんは入管に収容(逮捕のようなもの)されているというのだ。
不法在留者であったゴビンダさんの入管法違反の刑も、
執行猶予付きの刑が既に確定しており、
だったらなぜ収容されなければいけないのか?
と思われる方々も多いと思う。
実は、ゴビンダさんは今も不法残留者なのである。
従って、東京高裁が刑の執行停止を命じて、検察庁が釈放した場合、
不法残留状態の外国人を再び放置することが出来ないのである。
そこで、一時的に行政処分庁である入管の収容施設に収容するのだ。
つまり、入管の収容とは、行政処分であり、刑事処分とは大きく異なる。
確かに収容施設での面会では、拘置所と同じように分厚いアクリル樹脂製の
穴の空いた透明な遮蔽板越しに、収容者と会話を交わすことにはなるが、
行政処分であるので、収容施設の中には公衆電話があり、収容施設から
外部で電話連絡することが出来る。また、売店もあるのである。
(今まで、数十回面会に行ったことのある東京入管↑)
一方、警察の留置場などでは、メモ書きした書籍や
開封した歯磨きなどは差し入れできないし、公衆電話や売店などはない。
つまり、収容者への差し入れは、現金はもとより、衣類、書籍なども
かなり自由に差し入れでき、基本的には危険物以外の物品
であれば差し入れが出来るのが入管の収容施設なのである。
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さて、ではこの後、ゴビンダさんは、どうなるかといえば、
入国警備官による不法残留に係わる違反事実調査が行われ、
その後、入国審査官によって、処分審査が行われる。
一般的には、強制退去処分が下されるのだが、
ゴビンダさんの場合、無実の罪で15年もの間、
気の毒にも刑を執行されていた事情もあるので、
おそらく、引き続き日本での残留を希望するかどうかを聞かれる筈である。
仮に、帰国を希望した場合には、強制退去処分が下され、
空港まで移送され、強制退去者として帰国は出来ても、
ゴビンダさんは入管法上の汚点を残すことになる。
つまり、入管法第5条により、日本への再入国が、原則として出来なくなる。
一方、ゴビンダさんが、再審裁判を見届けたいと希望する場合、
入管法50条に従って、特別に在留を認めるかどうかの審査、
いわゆる、「在留特別許可」を出すかどうかの審査が行われる。
この間、おそらく入管は職権で、仮放免(仮釈放のようなもの)を決定して、
ゴビンダさんは、ここではじめて一般の日本社会に出て来られことになる。
もっとも、「在留特別許可」を出すかどうかは、国の自由な判断によるが、
おそらく再審無罪が確定した場合、「特定活動」又は「定住者」が付与される
可能性が高いと考えられる。
とは言え、この再審裁判のあいだは、仮放免の身である以上、
ゴビンダさんの立場は、やはり不安定であることには変わりがない。
また、今回訪れているご家族の滞在期限(通常、90日以上は認められない)
の在留期間の伸張問題や精神的かつ経済的な問題もあるであろうことから、
おそらく、ゴビンダさんは帰国の道を選ぶであろうと想像できる。
最後に、ゴビンダさんは、入管法5条によって永久に来日できないか?
といえば、上陸特別許可という制度もあるので、将来、マスコミの要請で
再度来日する可能性も多々あろうかと思う。