もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

船舶の検疫について

2020年02月04日 | コロナ

 大型客船(クルーズ船)「ダイヤモンド・プリンセス」が、横浜港で立ち往生の憂き目に遭っている。

 同船は日本の会社が運航して、主としてアジア地域での観光クルーズに従事しているようであるが、乗客に新型肺炎罹患者が出たために横浜港に停泊しているものである。今回は船舶と検疫のあれこれである。船舶内で法定伝染病や1類指定の感染症が発生した場合には、検疫法で指定する検疫区域に留まり外部と接触することが禁止されている。検疫区域は、港域内の外縁域に設けられているために該当船は錨泊を余儀なくされることから通称「検疫錨地」と呼ばれている。検疫区域は特定港湾以上の港に指定されているが客船に対しては「検疫集約港」が検疫を行い、今回の新型肺炎等については厚労省の指針で横浜港、神戸港、関門港及び博多港の4港と指定されている。検疫は臨船検疫又は着岸検疫とされているが、空気感染する疾病に対しては乗客・乗員を缶詰め状態にして係員が直接船に乗り込んで検疫を行う臨船検疫が一般的である。今回の新型肺炎は潜伏期間が2週間(3週間との報道もある)とされているので、船内での発症がなくなるまで相当の期間停泊することになるものと思われる。船は、燃料・真水・食糧の補給を得るならば、ほぼ無限に船内生活を維持できるが、感染拡大のためにおそらく娯楽設備やホール等も閉鎖され、乗客は船内移動も局限された不自由な生活を強いられることと思う。家族の一人が風邪をひくと同居家族の全員が風邪をひくと云われることと同じで、冷暖房完備の船は船内の空気を循環(幾ばくかの外気は取り入れるが)して冷暖房効率を高めているため、1室で発生した患者からのウィルスは容易に船内の隅々まで拡散する危険性が有る。自衛艦でも疾病の蔓延を局限するために、医務室や病室は艦内空気を循環させる系統とは別の通風系統を装備しているのでダイヤモンド・プリンセス号も同様であると思うが、それでも船内全域が汚染されていると観るのが常識であろう。ダイヤモンド・プリンセス号の要目では乗客定員2,706人、乗組員数1,100人とされており、4000人近い人が狭い船内で今後2週間以上に亘って「ある意味不自由な生活」を強いられることになると思われるので、早晩、乗客の精神的苦痛を理由とした早期下船要求が船内外から出てくるものと思われるし、運航会社が経済的な理由から同様の要求を主張することも懸念される。しかしながら、新型肺炎の封じ込めには必要な措置と思われるので政府も方針を貫いて欲しいと思う。我々も、缶詰め乗客に同情はするものの、安易な妥協には与しない心構えが必要と思う。

 50年以上前の経験であるが、乗組んでいた艦に赤痢を疑われる患者が航海中に発生し、定係港(母港)に緊急帰港したものの検疫錨地に10日間留めおかれた経験がある。むなしく紅灯を見ながらの10日間、陸上の隔離病棟に収容された同輩をうらやましく思いながら勤務したことを思い出した今回の出来事である。