もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

ダイヤモンド・プリンセス浮かぶ監獄表現と高陞号

2020年02月09日 | 歴史

 「浮かぶ監獄」という表現が、あちこちに氾濫している。

 ダイヤモンド・プリンセス号に乗船している米国人女性が、船内は汚染されているので清潔な陸上施設への移動を訴える際にSNSで使用したのが始まりのようで、続けて「トランプ大統領助けて!」とツウィーとしたとされているとも報じられている。アメリカ本国でも、主要紙が同じ表現をしていると報じられているが、アメリカ政府は感染予備軍の転地や召還について特段の動きは見せていない。また、日本メディアも持病服用薬の欠乏、食事の時間と献立、衣類の洗濯等の不備から来る乗客のストレスなどを報じている。しかしながら、感染症の水際対策と船舶の検疫という目的のためには、耐え忍んで貰わなければならないのもと感じられる。米国人の主張するように4000人近い乗客・乗員を収容できる既存の陸上施設は無く、もしアメリカがアメリカ人を召還したとしても、潜伏期間中は軍施設に収容されるので今以上の快適な住環境は期待できないと思われる。現在、少なからぬクルーズ船が、各地・各国で入港を拒否されて洋上をさまよっていることを考えれば、陸上からの支援を受けられる位置に留まれる現状は「まだ恵まれている」のではないだろうか。古来「大の虫を生かすために、小の虫を殺す」と云われているように、為政者いや人間社会は、有史以来大多数の安全と福利を追及するためには少数の人権を無視してきたが、現在我々が注視・監視しなければならないのは、「虫の大小」の判断が、権力・地位・金銭に依らないことのみであると考える。また、古今東西を問わず、船(乗り物一般についても云えることであるが)は、乗り合わせた全員が一蓮托生の状態に置かれるもので、今回の措置が特別なものでは無いことを世論に影響力を持つ有識者が勇気を持って発言すべきであると思うし、現在の乗客は無論のこと、今後外洋クルーズを利用する人も船旅・船上生活という特殊性を認識・覚悟しておく必要があるものと思う。

 有識者の発信に関する挿話を一つ。日清戦争中、イギリス国旗を掲げて清国兵を輸送していた傭船「高陞(こうしょう)号」を帝国巡洋艦「浪速」(艦長:東郷平八郎大佐)が撃沈したことがあった。イギリス世論は激高・謝罪と賠償を要求し、日本も大国に忖度して東郷大佐を処分することも検討した。しかしながらイギリスの高名な法学者が、「高陞号」の兵員輸送には中立国イギリスの保護が及ばないとともに、乗船していた清国兵の抵抗から「東郷艦長」の撃沈処置は国際法上正当であると主張したことによって、イギリス世論は鎮静化したとされる。孔子も「良薬は口に苦けれど病に利あり、忠言は耳に逆らえども行いに利あり」と説いている。世論に追随・迎合することが有識者の責務ではないことを、TVのコメンテイターに提言したい。