獄中死した星野文昭無期懲役囚(73歳)の遺族が損害賠償を求めて提訴したことを知った。
提訴は、収監された刑務所(実際は東日本成人矯正医療センターに収容中に癌で死亡)での医療過誤が原因として国に5500万円の損害賠償を求めていると報じられている。犯行は昭和46(1971)年の沖縄返還協定反対闘争で警察官を殺害したもので、昨年5月に死亡するまで48年間服役していたことになる。刑法改正まで有期刑の上限は懲役25年であったと思うので、上限を20年以上超えても仮釈放されなかったのは、改悛の情はもとより中核派としての武力闘争(革命)の意志が衰えていなかったことが原因であろうと推測する。犯行については警官殺害の実行者として7人が特定され、星野受刑者を含む6人が逮捕・起訴され、6人は収監先で死亡した者、刑期を終えて出所した者と様々であるが、首謀者とされる大阪正明被告は2017年5月に潜伏先の広島で逮捕されるまで、支援者の庇護を受けて50年近くも逃げおおせている。犯行後50年間も武力闘争の意志を変えない闘士にも驚きであるが、大阪被告が警官殺しの首謀者であることを知りながら匿った支援者が存在することの方が驚きである。犯人隠避の容疑で送検された者の中には地方議員もいることから、裏の顔を隠した活動家が、平和な市民、正義感あふれる弁護士、柔和な老人として隣人にもいるのかも知れない。現在も”大坂同志を解放せよ”””日帝・国家権力を獄内外一体となった闘いで必ず粉砕”との主張がネット上にも散見されることから、彼等の闘争意欲はいささかも衰えていないどころか、老人に変わる新たな若い支持者も存在するようである。主題に戻って、5500万円の損害賠償にも驚きである。医療過誤として刑事告訴することは無理と考えた遺族(支援弁護士)が、ハードルの低い民事訴訟を起こしたものであろうが、損害賠償額は原告が平均余命まで生きたと仮定してその間の逸失利益を基に算定されるものと思っていたので、73歳の無期懲役囚である男性が仮釈放されて後10年存命したとしても5500万円は稼げないだろうと思うところである。まして仮釈放が認められない場合には逸失利益はないと考えられる。弁護士には別の算定方法があるのだろうが、なんとも不思議な金額に思われる。星野徒刑囚の犯罪は国家転覆罪がある中国や反逆罪を設けている国にあっては死刑に該当するもので損害賠償請求など思いもよらないだろう。同種の法律がない日本では警官殺害という罪一等を加算された無期懲役で済まされ、しかも損害賠償請求が許されている。その体制を覆そうとした者が体制の法律に縋ろうとするレトリックがそもそも理解できない。
「晩節を汚す」「驎騏も老いぬれば駑馬に劣る」と格言があるように、老人・老境にあるものには世情に迷惑を掛けない密やかな矜持を以て生きなければならないと思う。星野徒刑囚や大阪被告は、夢に描いた政体が全世界で破綻した事実と、その政体が永遠に実現しないことも理解していると思う。革命家の矜持としては理解できるものの、永遠に実現できない理想(妄想)を後世に託そうとする妄執には賛成できかねる。ダグラス・マッカーサーが表舞台から身を引くときに「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」と述べたが、国に尽くした兵士としての矜持は保ち続けるがひっそりと生きていく覚悟を述べたものであろうとおもえば、現在の日本の全ての老人が瞑すべき言葉に見えてくる。