一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか? 』

2017-07-09 | 乱読日記

帯では巻末の糸井重里との対談を売り物にしているがこれは完全な釣り。ただしそういう出版社のあざとさをを割り引いても十二分に面白い。 


金融の門外漢でしかもオランダ人の著者が、なぜ金融危機が起きたのかを探りにロンドンのシティで金融機関に勤める人々にインタビューをおこない、英ガーディアン紙にブログを連載した。
本書はブログとその後のインタビューをもとに、シティの人々の実態と金融危機の原因を考察した本。

金融街の人々は、自分たちが嫌われているという自覚があるために、インタビュー対象者探しは難航する。ただ、だんだんブログが有名になるにつれ、インタビューに応じる人々も増えてきて、様々な職種、経歴、立場の人の話を聞くことになる。

著者がそれらの人々をタイプ別に分類するところが面白い。

「中立派」
「苦々しい思いを抱えたタイプ」
「宇宙の支配者」
「金融一筋タイプ」
「妄想タイプ」
「無感情タイプ」

日本の知り合いの分類にも役立つ。

そして著者は、金融危機をもたらしたものは特定の犯人ではなく、金融街の人事・雇用システムと報酬体系がもたらす利益相反と「逆インセンティブ」が問題の根源であり、したがって、各種の再発防止のための規制にもかかわらず、同じようなことはまた起きうる、と結論付ける。

はじめに僕は、シティについてよそ者が理解できないことは何でしょう、と訊ねた。すると彼は、企業文化に飲み込まれてしまうところだ、と答えた。「バンカーはチームで動くし、そこでの原則は、見方か敵かってことしかない。異論を唱えれば攻撃にさらされる。どこかやましことを隠していれば、それを暴かれる。もし何かを表沙汰にすれば、必ず仕返しされる。すぐにやられることはなくても、次の解雇の時期にはクビになる」だから、とてつもなく倫理観が高くてキャリアを棒に振ってもいいと思っている人しか内部告発はできない。

インタビューから金融街の人々の姿を浮き彫りにさせる手際はとても鮮やかで、読んでいて面白い。

ただ、改めて考えてみると、この「企業文化に飲み込まれる」というのは、金融業に限ったことではなく、日本企業でも起きてることだったりするんだよね。


* 巻末の糸井重里とのインタビューは、本書の前の著作についての昔のもので、金融については全く語られていない。なのでほぼ日のIPOについての話なども全然ないのでそれを期待するとがっかりします。

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『本当の戦争の話をしよう: 世界の「対立」を仕切る』

2017-06-25 | 乱読日記

国連PKO幹部として東ティモール暫定政府の知事、シエラレオネで武装解除、アフガニスタンでは日本政府特別代表として武装解除を指揮した著者が、高校生に相手におこなった授業を本にまとめたものだが、大人が読んでも面白い。

タイトルとは逆に、いかに「仕切る」ことができないか、という反省や失敗談から、「自衛」が「戦争」に変わる力学、国を作り直すことの困難さ、国連という組織の限界までを飾らずにわかりやすい言葉で語っている。

本書で初めて知ったのが、安全保障の分野で、戦争の意思形成がどのように作られるかに着目した「セキュリタイゼーション」という概念。

戦争が起こる前に社会は必ずセキュリタイぜーション--この敵を放っておいたら大変なことになる、という世論形成--が起きる。 「仕掛け人」が言葉で聴衆に対して恐怖を煽る。そして民衆が「恐怖」の状態でいるときに何か事件が起こると、それが戦争への契機となる、というようなことらしい(日本語での適切な訳語が定着していないとのことで、確かにググってもヒットしなかった)。

具体的には、イラクのクウェート侵攻時におけるナイラの証言があげられている。

しかも、このセキュリタイゼーションがやっかいなところを著者は説明する。

 セキュリタイゼーションの「仕掛け人」を攻めたって無理です。だって、罪悪感がないんだから。でも、すべては「仕掛け人」が育む、極めて主観的な正義感から始まるのです。それに、より多くの支持を集めるため、大衆が抱く危機意識が操作される。そうして主観的な正義感は、客観的な政治意思へと昇華するのです。このメカニズムを理解することこそが、僕たち自身が、脱セキュリタイゼーションを身につけることなのだと思います。
 セキュリタイゼーションを成功させてしまうのは、実は「仕掛け人」ではなく、「聴衆」である僕たち自身なのですから。

元の授業は2012年、本書の刊行は2015年だが、それから以後も、世界各地での移民排斥運動や、米国大統領選挙など、例示に事欠かない。
ただ、大統領選で登場した”Fake News” や"Post-truth"という概念が広まったことは、逆に一定の抑止力になるのかもしれない。


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『風邪の効用』

2017-06-23 | 乱読日記
風邪は治すべきものではない、経過するものである。
風邪を自然に経過させることで、身体が自然に自らを整えなおすことが重要、と説く。

著者の野口晴哉氏は戦後の整体の世界を代表する方だったらしい。

いくつかの講演録をまとめたもので、重複も多いが、逆にくり返されることで頭に入りやすい。

自分自身整体は好きで結構通っているが、こういうものは施術者の力量とか相性によるところが大きく、なかなか一般化できないし、「万病に効く」というのは眉唾なので、ちょっとずつよさげなところを試してみて、自分に合ったものがあれば取り入れればいいと思う。


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『熊と踊れ』

2017-06-21 | 乱読日記
犯罪小説の形をとって、親子・兄弟の血のつながり、暴力の連鎖を描いた小説。

それは、犯人側だけでなく、捜査に当たる刑事にとっても重い意味を持っている。

場面場面で「それ以外の選択肢は何があったのか」を考えさせられながらも、一気に読ませる。

読後感が爽快とは決して言えないが、面白い。


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『捨てられる銀行2 非産運用』

2017-06-19 | 乱読日記
タイトル通り、前著『捨てられる銀行』に続き、森金融庁長官(3年目続投になりましたね)の目指す金融改革を解説した提灯本。

今回は金融庁が使うようになった「フィデューシャリー・デューティ」(日本語だと「顧客本位の業務運営に関する原則」)の概念を軸に、資産運用改革についてまとめている。


確かに新興国通貨建てや元本取り崩し毎月分配型など自分は怖くて買えないのだが、実際にはけっこう売れている。
このへん、銀行窓販の力もあるのかもしれないが、自分で貯金を取り崩すより「分配金」という名目でもらった方が高齢者にとっては心理的な抵抗が少ないというあたりにフィットしている部分もあるのかもしれない。

そして1,800兆円と言われる個人金融資産の大半が未だに現預金だとすると、まだまだ焼畑農業を広げても全然大丈夫なんだろうけど、それでは健全な「貯蓄から投資へ」という流れにつながらないよね、と金融庁も言い出しているという話。


この影響で毎月分配型投信は販売を自粛?したために残高が急減しているわけだが、これを買い支えるのが日銀、というのも市場の価格形成としてはどうかと思うのだが、そのへんは金融庁の所管ではない、ということなんだろうか。



PS
英国における信託の歴史の説明に紙数を割いていて、『フィデュシャリー「信認」の時代―信託と契約』(今は絶版になっていて中古ではいい値段がついているようです)などからも引用されていたのが懐かしかった。

丸の内の三菱UFJ信託銀行本店の脇にある信託博物館、いつも横目で通り過ぎていたんだが、一度覗いてみようと思う。


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『本日は、お日柄もよく』

2017-06-18 | 乱読日記

友人が面白い、とくれたので。
原田マハは初めて。

スピーチライターという仕事を軸にした、主人公のアラサーOLの恋愛と成長の話、と書くと軽い感じになるし、実際テンポよく読みやすいのだが、折々に出てくるスピーチがいちいちツボをついていて、言葉の力を感じさせてくれる。

政権交代前夜の選挙が舞台になっているのだが、現実の政治家のスピーチは、上からの借り物だったり、型どおりでその場のお約束にのっとって「目黒のさんま」よろしく小骨が(どころか背骨も)抜けてるか、逆にやたら感情的になってるのが多いのだが、ライターを入れるかはさておき、もうちょっときちんと話せる人が出てきてほしい。

本書は2010年8月発行だが、このセリフが既に重い。

「いい?スピーチは魔法じゃないのよ。そりゃあ今回の総選挙はうまくいったかもしれない。でもそれは聴衆がたまたま変革を求めていた時期と選挙の時期が重なって、それを民衆党がうまく誘導できたから。タイミングも、運もあったと思う。私たちが作ったスピーチがすべてを変えた、なんて思い上がらないことよ」

 

 

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『小商いのすすめ』

2017-04-02 | 乱読日記

面白い本ではある、ただ、別の人にこの本を引いてわかった風な講釈を垂れられると反発したくなりそうでもある。

「小商い」というキャッチ―なタイトルや、副題の「『経済成長』から『縮小均衡』の時代へ」、帯には

「いま・ここ」に責任をもつ。
地に足をつけて、互いに支え合い、ヒューマンスケールで考える。 

などスッと入ってくる言葉が並んでいるが、著者の理路を辿った後に、それらのフレーズやキーワード以外に何が残るかが大事なのだろう。

著者の論考には納得するところも多いが、その「構え」から行動に出るときに具体的にどうするかというところの取捨選択は非常に難しいと思う。


  

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『無葬社会』

2017-03-31 | 乱読日記

『寺院消滅』の続編。

今回は葬儀と墓に焦点を当て、少子高齢化の中での孤独死や厄介者扱いされる遺骨の問題、また、最近の新しい葬儀や墓の姿とそれにとまどいつつ試行錯誤する寺院を描いている。(ハイテク納骨堂の固定資産税課税問題(参照)などについても触れられてる)

前著とも通じることだが、寺院が「葬式仏教」と化し、死と向き合うことに対して頼るべき存在でなくなっているというところが根源にある。
「葬式仏教」の寺院が葬儀の変質で消滅の危機にあるのか、寺院の求心力の喪失が葬儀の在り方に影響を与えているのか、これはニワトリと卵の関係なのだろう。

本書では僧侶の国際ボランティア団体の創設者の言を引いている。

・・・ところが、江戸時代は、お寺の機能が檀家との関係に縛り付けられて、活力をそがれていったのです。さらに、近代とくに現代になって都市集中や都市化が起きたり、<遅延共同体>というのが壊れてきます。それと同時に、寺というものが機能を果たせなくなったのです。
 でも、こうなったのは、お坊さん自身が、僧侶である以前に、一人の人間としての市民意識を持っていなかったからなのです。そのために安住した共同体の崩壊と一緒に役割を見失ってしまったのです。お寺をどうするか、仏教をどうするかということはどっちだっていいのです。永遠に続くものは、この世の中には一つもないというのが、お釈迦さんの教えなのです。とすると、仏教も世の中に役立たない、存在意義を失っているとするならば、無常の流れの中で消えていくのはきわめて当然でしょう。
 大事なのは、宗教者の一人一人が時代の苦悩というものを、自分の課題としてどう受け止めるのか。それが問われているのだと思います。

この考えを極端にすすめて、もはや寺院には期待できないと考ええるのが『0(ゼロ)葬--あっさり死ぬ』のスタンスになろう。


一方で著者は(寺の出身ということもあってか)一縷の希望を持っているように思える。

 鎌倉新書(注:葬儀、仏壇、お墓のポータルサイト運営会社、マザーズ上場!)の総裁担当者は、「それでも葬式と仏教(寺院)が切り離されることはないと思います」と指摘する。同社によれば、現在、葬儀の九割が仏式、あとは神式やキリスト教式で、無宗教式はまだわずかだという。
  「死に対する説明ができるのは、宗教家だけです。遺族としっかり向き合い、感動する葬式をお坊さんが取り仕切れば、結果的に寺と葬儀社の両方の評価が上がります。逆に、お坊さんがいい加減だと、業者の責任にもなり、顧客離れにつながっていきます」(同社)
 死は逃れようがないが、僧侶が死の意味を説くことができれば、寺院も仏具店も葬儀社もきっと蘇る。1500年、日本仏教の歴史とともに歩んできたモノづくりやサービスの現場にも活力が生まれる。ひいては地縁の回復にもつながる。 

最後は贔屓の引き倒し風ではあるが、それに代わるも何かが登場するまでに寺院自体も変わらなければ、本当に消滅の道を歩むことになろう。

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『傷だらけのカミーユ』

2017-03-29 | 乱読日記

『その女アレックス』の続編でカミーユ警部が主人公の3部作の3作目。

1作目の『悲しみのイレーヌ』でカミーユ警部の亡き妻の物語が語られているので、それ読むとより主人公への思い入れと行動の背後への理解が深くなると思うがそれがなくても楽しめる。
「楽しめる」というのは語弊があるくらい、本作では主人公は精神的にも組織的にも追いつめられて、さらに最後に著者お得意の読むのもつらいどんでん返しが待っているところも前作同様。

ただ、『その女アレックス』の方がインパクトは大きかった。

間に『天国でまた会おう』も含め、こういう作風の作家はなかなかいない。



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『罪の声』

2017-03-27 | 乱読日記
面白かった。

グリコ・森永事件は証拠の多さや犯人(グループ?)の行動の特異さから、格好の小説の題材になりそうだが、実際には高村薫の『レディー・ジョーカー』くらいしかないのは、陳腐にならない犯人像の造形が難しいということもあるのかもしれない。

本書は、身代金取引の声が幼少期の自分の声であることに気づいた男性と、事件特集の企画に駆り出された畑違いの文化部の新聞記者が31年前の事件の謎を追う、という構成で、事実関係や証拠を一つ一つ辿りながら犯人像に迫る、という構成をとっている。

証拠に現れた犯人の行動の不自然な点から、犯人グループの全体像を導くところは圧巻の迫力がある。

電子書籍で通勤の合間に読もうと思ったが一気読みしてしまった。
各賞やランキングで上位に入るのも納得。


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『フリー』

2017-03-25 | 乱読日記
かれこれ10年前の本だが、今になって読み返すと、ここで取り上げられた企業の「その後」、この本が書かれてから生まれた企業がどうなったかを見る視点としても面白い。

この10年間でそれらのビジネスは生活様式を変えてきたことは確かだが、時価総額や買収価格だけでなく、利益も上げられている会社はいまだ一握りに過ぎないのも事実。

日本では軒並みキュレーションサイトに走って、ライターの賃金だをFREEに近くしながら広告料を稼ぐというのは筋悪な方向へ行ってしまったわけだが、なかなか著者のいう方向性でのビジネスが生まれてこないようだ(自分が知らないだけかもしれないが)。

たとえば鳴り物入りで始まったソニー不動産も鳴かず飛ばずだが、(参照:ヤフーとソニー不動産の新サービスが伸び悩む理由)本書の文脈でいうと「アトム」の世界をデジタルの世界に置き換えるようなビジネスモデルではないというあたりに問題があるんじゃなかろうか。


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『野村證券第2事業法人部』

2017-03-01 | 乱読日記
珍しく話題の本を早速読む。

オリンパス事件に関する潔白の主張が著者の出版の動機なのだろうが、それでは一般受けしないだろうと考えて、タイトルも含め著者の野村證券在籍時のエピソードを中心にした編集者の意図は見事に当たっている。

証券会社が「金融商品取引業者」でなく「株屋」でなんでもありだった頃の話が極めつけに面白い。
『狭小邸宅』のような「決め台詞」が随所に出てくる。

野村證券時代は相当無茶をやったが、窮地に立っても細部をきちんと詰めながら結果を出してきたことを前半部で誇る著者ではあるが、野村證券を退職した後のオリンパス事件がらみになると、一転して「~だと思ってた」などと急に脇の甘いことを言い出す(一方で関係者の証言の矛盾点には舌鋒鋭い)というコントラストが印象に残る。



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『人工知能と経済の未来』

2017-02-05 | 乱読日記
AIと縁遠い生活をしているので、昨年話題になった(らしい)本書を今頃読んだ。

前半のAIの現状をさらっと説明しているところと、後半のベーシックインカム(BI)の政策としての有用性のところは理解できたが、間をつなぐ経済学のところがしっくりこなかった。


AIの進化の究極系はあらゆる産業で労働力が不必要となる「純粋機械化経済」であり、そこでは労働力が必要とされなくなるのでほとんどの人間が失業する。一方で「純粋機械化経済」では限界生産力が逓減しないので潜在成長率は上昇を続ける。
著者はそこには需要による制約があると主張し、さらに所得がない労働者は生活ができないのでBIが必要、というところから、現在の制度を前提としたBIのメリットの説明にはいってしまう。

自分が期待していたのは、もし労働力が不要となり、資本=設備だけで生産が完結できるようになったときに、国家と企業と国民のありかた(特に税体系と企業・資本のインセンティブの関係)がどうなるのか、国家間の競争力を左右する要因は何か(たとえば天然資源?)という大きなデザインだったのだが、そこは期待外れだった。
なのでAIとBIの間の経済学の議論が個別の当てはめになっていて、しっくりこなかったのだろう。


まあ、そんなことが新書1冊で簡単に解説できるわけもないか。



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『「健康食品」のことがよくわかる本』

2017-02-03 | 乱読日記

これも良書。

著者は国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室長(なんだか後半はインテリジェンス部門みたいだが)。

一言で言えば、
「健康食品」というものは健康上の効果が科学的に証明されてはいない。
「食品」だから副作用がないとも限らない。
厳重な承認手続きを経た医薬品と普通の食品との間にあるものは、各国でさまざまな(中間的な)規制を受けている。
中でも日本では健康食品の広告表示の規制や「トクホ(特定保健用食品)」「機能性表示食品」などの基準も緩いのは問題である。
という注意喚起の本。


たとえば、日本でトクホとして許可されているものでEFSA(欧州食品安全機関)の評価では科学的根拠がないとして却下されたものが複数ある。これは必要とされる科学的根拠のレベルが相当違うためである、など、各国の制度や実際には効果がなかったり逆に有害だった健康食品の具体例や誤解を生じさせる広告表示の例をこれでもか、というくらいあげている。

また、「国際学会」や「学術出版」といっても実態の伴わない詐欺的なものは世界中いたるところにあり、広告の謳い文句に使われているという話。

さらにドイツの学者が意図的に欠陥を含ませた論文を投稿した実験では、大手出版社や大学(それも神戸大学)の雑誌にも掲載され、それらの雑誌でもピアレビューが機能していないことがある、など、最初から最後までコテンパンである。


同じサプリメントやトクホ製品を買うにしても、こういうことを知っていた上で買う方が、極端に入れ込むよりも経済的にも精神衛生的にもいいと思う。


最後にいくつか象徴的なものを抜粋。

(英国の消費者向け助言:「誰がサプリメントを必要としているのか」)
・妊娠を予定している女性にとって葉酸
・高齢者や肌の色の濃いイスラム教徒、授乳中や妊娠中および6か月未満の子どもにちってビタミンD
・医師から処方された人 それ以外の人は必要ない。

・ビタミンCや亜鉛が風邪を予防するという根拠はない
・グルコサミンやコンドロイチン硫酸に関節への効果はない
・朝鮮人参やイチョウが高齢者に有効だという根拠はない。しかし有害影響はあり得る
・どうしても使用したければ十分な情報を得て、医師に相談してから。


(米国FDA(食品医薬品局):詐欺を見破るための6つの方法)
・一つで何にでも効く:そんなに都合の良いものはまずない
・個人の体験談:科学的根拠がないことを白状している
・簡単に問題が解決できる:たとえば食事制限や運動なしで痩せられるなど
・オールナチュラル:天然物が安全とは限らない
・魔法の治療法:革新的や新発見という用語には警戒
・陰謀論:医薬品業界や政府が情報を隠している、という主張は消費者に不信を抱かせ(業者にとって都合の悪い)正しい情報を遠ざけるために使われる

(著者:「抗酸化作用」について)
・・・がんや慢性疾患の原因は酸化だから、抗酸化物質を摂れば病気予防になる、という説です。確かに一部の発がん物質は酸化反応で生じますし、DNAやたんぱく質のような生体内高分子が参加的影響を受けて機能を損なうことはあります。しかし酸化還元反応は生体の機能にとって必須の反応であり、それをすべて抑制することはできません。 (中略)
いつ、どの組織で、どの反応が問題なのかを同定することなく「抗酸化」が良いと言っていること自体、科学ではないと白状しているようなものですが、一般人のみならず研究者にもこの手の主張に疑問を持たず受け容れているように見える場合があります。
さてその抗酸化作用に関連して、野菜などの食品の抗酸化活性を測定し評価しようという試みがありました。その一つが1990年代に米農務省(USDA)と国立老化研究所の研究者らにより開発された酸素ラジカル吸収能(ORAC)です。 (中略)
ところが2012年、USDAはこのデータベースをウェブから削除します。 以下が削除の理由です。

最近、USDAの栄養データベースを提供している栄養データラボ(NDL)は、ポリフェノールを含む特定の生理活性化合物のヒト健康影響に、抗酸化能を示す指標が関係ないことを示す根拠が増加したため、USDAのORACデータベースをNDLのウェブサイトから取り下げた。 (中略)
ORAC値は食品やサプリメント業者によって製品の宣伝に常に誤用されてきた。(中略)
ポリフェノールをたくさん含む食品の健康への良い影響が、抗酸化能によるという根拠はない。(中略)
我々は今や、食品の抗酸化分子には幅広い機能があり、その多くがフリーラジカルの吸収能力とは関係ないことを知っている。

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『家族のための高齢者住宅・老人ホーム基礎講座 失敗しない選び方』

2017-01-31 | 乱読日記
良書。

高齢者住宅・施設の種類、契約形態(一時金と月額費用、入居条件)、介護保険制度との関係(施設の種類によるサービス内容と追加負担)などが網羅的・体系的にまとめてある本は少ないと思う。
(少なくとも丸善と八重洲ブックセンターに並んでいる中ではダントツだった。多くの本がQ&A形式で紙幅を水増ししていて逆に全体像をとらえにくいものになっている)


「第2部 実務編」では、入居者・家族の状況の把握から、高齢者住宅選びの比較検討の仕方や見学時のチェックポイントなどが詳しく解説されている。

差し迫った必要がなくても「第1部 基礎知識編」だけでも読んでおく価値はあると思う。



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