アメリカの内幕もののつづき。
イラクの核開発疑惑を検証するためにイラクがウランを調達したとされるニジェールに派遣された元外交官のジョゼフ・ウィルソンは調査の結果核疑惑を否定する報告書を提出したが、ホワイトハウスはこれを握りつぶしされます。
これに対しウィルソンは2003年のイラク侵攻後にニューヨークタイムズ紙に核開発疑惑は根拠がないと政府を批判する寄稿をします。
その直後、ウィルソンの信用性を損なうかのようにウィルソンの妻がCIAのスパイであるとマスコミが暴露されます。 (詳細はWikipediaプレイム事件参照)
本書は、妻のヴァレリー・プレイム・ウィルソンが、政治の渦中に巻き込まれた夫妻が自らの正当性を主張する闘いを描いています。
著者は元CIA職員であるため、著作の公表に関してはCIAの出版物検討委員会の検閲を受けていて、ところどころ(場合によってはほとんど)墨消しになっているのが臨場感があります。
たとえばこんな感じ
印象に残っているのはイラク侵攻の時期にはCIA自身の情報収集力も十分でなかったこと。
ホワイトハウスの圧力に上層部が屈しただけでなく、そもそも劣化していたのではないかという印象を持ちます。
たとえば 寄せられた情報が無意味だと確認するのに、CIAは述べ何百時間と何千ドルを費やすことさえある。たとえば、1957年に国を出たイラク人、アームド・チャラビのマキャベリ的な仕事の全容はつかめていなかった。CIAを騙そうとして、そして民主主義のイラク(彼をトップとした)を予言する能力をペンタゴンに見せつけたくて、チャラビは、CIA宛てに、魅力的だがまったくの虚偽である情報をおそらく何十通と送りつけた。内容の重大さから、私たちはそのすべてを追跡せざるを得なかった(以下墨消し)
チャラビ(*)はイラク国民会議(INC)という会派の代表で、アメリカ占領後初の組織であるイラク統治評議会(これ自体各勢力の寄せ集めで月替わりで代表を持ちまわるという茶番のような会議でしたが)の1会派を占めましたが、『バグダッド・バーニング』(**)によれば、イラク人たちにはずっと海外に不正蓄財とともに逃げていて火事場泥棒のように戻ってきてアメリカに取り入ろうとしている輩と思われていたようです。
にもかかわらずこういう輩が取り入ってくるのを取捨選択できず、そしてそれ以上におそらく資金を提供していた(のではないでしょうか、少なくともイラクではそういう噂だったようです)というのは、情報収集ルートが細っていたことの証左のように思いました。
結局チャラビはほどなく化けの皮がはがれ、イラク暫定政権には参加でずに失脚しています。
* チャラビについては英語版Wipediaに記事がありますので興味のあるかたは)こちら参照)
** 他に『バグダッド・バーニング』 続き、『いま、イラクを生きる-バグダッド・バーニング』参照。そういえば『バグダッド・バーニング』の著者リバーベンド一家は2007年にシリアに脱出したのですが、今はまだシリアにいて混乱に巻き込まれてしまっているのでしょうか?
CIAの能力(資金・要員とその結果としての情報収集能力)が弱体化していたからこそ、ブッシュ政権はいくつかの報告書を握りつぶせば戦争に進むことができたのかもしれません。
このように内容は非常に面白いのですが、残念なのは翻訳がちょっと文章が硬いこと。
特に司法手続きのところが、用語が一般に使われている訳語とちょっと違う言葉が使われているようで、ところどころに理解しにくい部分があります(私は素人なので読解力不足のせいかもしれませんが)。
余談ですが、著者は事件当初「美人スパイ」と話題になりました。
ご尊顔はこちら。
確かに美人です。
しかも、ものすごく気が強そうです。
本書にも
採用試験の正確分析テスト(MBTI)で 未来の諜報員は私も含め、16タイプあるうちの"ENTJ"内のどこかに位置づけられた。つまり、外交的で直感力があり、思考力と判断力もあるタイプだ。このタイプは強いリーダーになりたがり、主導権を握ることを希望する。マイヤーズ-ブリッグスの説明には、”・・・疲れを知らずに仕事の打ち込み、仕事のためならば人生の他の部分はたやすく切り離す。ENTJの女性は、その強力な性格と意志に圧倒されない相手を選ぶのが難しいだろう”とある。
と、まさにそんな感じですね。