一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『奇跡のリンゴ』

2009-01-21 | 乱読日記

オバマ大統領の就任式は病み上がりのため早めに寝たので見られませんでした。
かわりにというのもなんですが、年明けに読んだいい話を。


「不可能」と言われたリンゴの無農薬栽培を成功させた青森県の農家木村秋則さんのドキュメンタリーです。
NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」で取り上げられ大反響を巻き起こしたことをきっかけに、追加取材をして書籍としてまとめたものです。
無農薬栽培に狂気のようにのめりこんだ木村さんの生き方と、どん底での発見、それを「農業」として成り立たせるまでのドラマは「出来すぎ」と思われるくらい感動的なものがあります。

素直に感動できる本で、読んで損はないです。
(幻冬舎の煽りに乗ってしまうようでちょっと悔しいのですが、編集者の勝利であることは間違いないでしょう。)
僕はNHKの番組は見ていないのですが、本としても番組に寄りかからず、きちんと取材・構成されています。

・・・自然か不自然かということで言うなら、コーカサス山脈生まれのリンゴの木がここにあるということが、そもそも不自然なのだ。

・・・リンゴの木を植えたのは人であり、リンゴの木を必要としているのは、あくまでも人だ。自然の摂理に従うなら、おそらく枯れるしかないだろう。そのリンゴの木をなんとか生かそうとするのは、人間の都合なのだ。
 それが農業というものであり、農薬を使おうが使うまいがそれは同じことだった。

「・・・農薬を使っていると、リンゴの木が病気や虫と戦う力を衰えさせてしまうのさ。楽するから行けないんだと思う。・・・それでな、リンゴの木だけじゃなくて、農薬を使っている人間まで病気や虫に弱くなるんだよ。・・・農薬さえ撒けばいいから、病気や虫をちゃんと見る必要がなくなるわけだ。」

木村さんは農薬を使わない代わりに、リンゴの木や土壌の状態や天候、虫の生態系などを細かく観察しながら、リンゴの木の力を引き出す農法にたどり着きました。

実は、木村さんが無農薬のリンゴ栽培で結果が出なかった6年間でも、リンゴ畑の間に植えた野菜(もちろん無農薬)は立派に育っていたそうです。
つまり「あえてリンゴを無農薬で栽培する」という一番困難な選択をすることことで人間が自然を開墾して食物を栽培するという農業の「原罪」と向き合ったといえます。

木村さんは現在、全国で農業指導しながら、無農薬栽培を広げるためには出来るだけ安く出荷することが大切だ、特殊なものでなく普通の農作物として競争力を持つことが必要だ、と説いています。
ただ、無農薬・自然栽培で収量をあげるには、農家の人の農薬散布に代わる努力が必要で、それは農業従事者にとって負担の大きいことでもあります。

「金持ちだけが安全な食材を手に出来る」というのはたしかに不健全な世の中ですが「運のいい(コネのある)人だけが安全な食材を手に出来る」というのもおかしな話ですし、「安くて安全な食材が国民全体にいきわたる」というのも理想論ではありますがその「安さ」が円高を背景にした輸入食品を基準にしたものであるならそれは農業従事者への負荷を前提にするわけで、長続きするものではありません。

改めて『日本の「食」は安すぎる』が提起した「(適正な品質のものを適正な価格で)消費者が買い支える」という問題も含めて考えさせられました。


感動を人任せにしていちゃいけないんだ、という自戒も含めて、新年にふさわしい読み物だったのではないかと思います。




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