一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『海賊とよばれた男』

2012-09-04 | 乱読日記
素材はいいのだが、調理の仕方に芸がないのが惜しい。

出光興産の創業者出光佐三をモデルにした「ノンフィクション・ノベル」。
独立系の石油会社を一代で立ち上げた人物だけあって感動的なエピソードには事欠かないののはわかるが、書下ろしにもかかわらず各章ごとに感動的なシーンでしめくくるのは、連載小説のようで安っぽく見えてしまう。
第1章から感動的なのだが、それが各章で続くとお腹いっぱいになってしまう。

「ノンフィクション」にするには事実関係の正確さに自信がなかったのかもしれないが、それにしても礼賛の仕方が過剰で逆効果になってしまっている。
全てにおいて主人公は常に正しく先を見通してたというような科白や表現が至るところは悪い意味で「龍馬伝」に似ている。

小説でも吉村昭のように事実とエピソードの積み重ねで徐々に圧倒していくスタイルや、司馬遼太郎のように「余談だが」と一拍置いて自分の視点を挟み込むというスタイルなどいろんなやりかたがあったと思う。
また、泣かせるつもりなら、浅田次郎のように思いっきり盛り上げて頂点で涙腺を決壊させるような芸が欲しかった。

人物伝として影の部分も書かないといけないとまでは言わないが、出光佐三という素材を発見した時点で成功を確信して先を急いだのか、素材に圧倒されてしまったのかわからないが、ちょっと残念である。


人物像にしても経営者としても素材としてはとても魅力的だと思うので、できれば本書をきっかけに出光佐三ブームが起きて、改めて別の人に取り上げてもらえるといいと思う。





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