一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

三品和弘 『経営戦略を問いなおす』『どうする?日本企業』(その1)

2011-10-27 | 乱読日記

著者の三品和弘氏は神戸大学大学院経営学研究科教授 もともとは一ツ橋大学・大学院出身です。
一ツ橋の経営学系の先生は面白い一般書をよく書いていますが(最近では『ストーリーとしての競争戦略』など)、本書も読みやすく、目からウロコや膝を打つ部分の多い本です。

余談ですが、マスコミへの露出も多く(野中郁次郎氏や米倉誠一郎氏企業の研修でも顧客の囲い込みが上手なので、その経営戦略自体をケーススタディにしてほしいと○大系の先生が自嘲気味に話していました。


『経営戦略を問いなおす』は2006年の発行で、「経営戦略」に関する一般の理解が誤っていて、日本の多くの企業(製造業を分析の材料にしています)において本来の意味での戦略が不在だという指摘をしています。
『どうする?日本企業』はこの8月の発行で、を中心に最近の日本企業の「成長戦略」の危険性に焦点をあてています。

両方に共通する著者の指摘をまとめるとこうなります。


日本企業(製造業)の利益率は1960年から現在まで一貫して下降トレンドをたどっている。



一方で実質売上高は一貫して増え続けている。


つまり、1960年以降、日本企業はずっと「利益なき成長」をしている。

この原因をたどると、戦災からの復興は1970年代にはひと段落して、高度成長期以降の展望を真剣に描かなければならない時期に第一次オイルショックという一過性の混乱に巻き込まれたために、ソフトランディングの方途から注意がそれてしまったことにさかのぼる。
その後も米国市場の開拓と日米経済摩擦など目の前の成長を追い求める過程で「利益なき成長」が定着してしまった。

それぞれの企業について見ると、1950年代から戦時生産体制に代わる新たな事業立地を求めはじめ、それが1960年代に成功を収め高度経済成長を実現した。
しかし、この成功が各企業横並びで起きたために、1970年代以降は立地戦略を問うことなく個々の製品やオペレーションについての競争に注力するようになっていった。
このため1980年代以降製品やオペレーションについてのイノベーションと成長戦略への信仰が定着し、戦略的立地を変えて異次元競争を仕掛けてくる海外勢の前に「利益なき成長」を余儀なくされることになった。

どの企業も横並びでイノベーション、品質、多角化、国際化、をうたう「成長戦略」は既存の事業立地にしがみついた管理主導の利益なき成長戦略であり、不毛な努力、経営戦略の不在である。

となります。


1冊目の『経営戦略を問いなおす』では、「経営戦略とは何か」について丁寧に説明しています。

著者は経営戦略のポイントは「立地」(誰に何を売るか)「構え」(タテ(垂直統合)、とヨコ(多角化)、地域についてどこに経営資源を投入するか)、「均整」(ボトルネックはないか)であるといい、成功例や「戦略もどき」の失敗例をあげています。

そして、管理をマスターしたら次は経営、事業部長から経営者候補を選ぶという日本企業の経営者選定のやり方は、事業部長と経営者は求められる資質が異なるということを理解しておらず、その結果経営トップが管理(=目標達成志向)の発想になってしまい長期的な経営戦略を考えることができない、と批判します。

端的に言えば実務は知識でするものです。経営は、知識でするものではありません。知識の本質は過去の経験にありますが、経営は不確定な未来に向かって作用するものなのです。そこで求められる対極的な判断に、広い教養は役に立つとしても、実務の知識は必ずしも必要ないでしょう。  

事業部制や「○○畑」の弊害については納得するところも多いのですが、終身雇用、内部昇格が多いの日本企業の人事システムとの関係をどうするかは難題だと思います。
実際、画期的な経営戦略を打ち出した経営者の多くは、その会社の人材育成システムによるものではなく、前任者の急逝などによって若くして社長に就任した人が多いということが象徴的です。 

著者はここについてもアイデアを出しています。
それを実際に行なうには抵抗が多そうな感じがしましたが、たぶん一番のボトルネックが経営者の選抜というところにあるという指摘は正鵠を得ていると思います。

(とりあえず今日はここまで)








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