長年地域の産業振興に携わってきた研究者である著者が、東日本大震災の被災地復興の現場から、地域産業の復興へのポイントと課題を語ります。
著者は「人の姿の見える地域」という単位の重要性を語ります。
「人の姿の見える地域」とは一つの地勢的、経済的、文化的まとまりをもった範囲で、人々が生まれ、育ち、暮らし、都会に出た人が戻ってくる単位を言います。
そこでの産業振興とは、500人、1000人という規模の工場を誘致する(それは現実的でない)のでなく、50~100人規模の地元企業や中堅・中小企業の拠点展開が重要で、それらの拠点と地元の人材との相互作用で産業を振興することで持続的な成長が可能になると説きます。
本書では、被災地でいち早く復旧した地元企業とそれらを支援する企業のネットワークの事例が紹介されています。
著者は以前から地域経済の置かれていた厳しい現状とそのなかでの自律した取り組みの萌芽を知っているだけに、持続的な復興の難しさも承知のうえで、それに取り組むことが日本の将来にとっても重要だと言います。
常日頃、私は周りにいる日本の若者たちに「現在、世界で最も熱い『現場』に身を置きなさい」と忠告しています。少し前までは、それはイコール中国の「現場」ということでした。
(中略)
現在、「世界で最も熱い『現場』」は東日本大震災の被災地なのです。そこに身を置き、暮らしとは何か、生きるとは何か、地域とは何かを考え、自らの進むべき道を見定め、そこに向かって行くことです。
日本は戦後、思いもかけぬ経済的な成功を収めました。冷戦構造の中でアメリカの傘の下に身を置き、「若くて貧しかった」父親世代がひたすら「アメリカの背中を見て頑張る」という構図でした。汗の量がポイントであり、汗を多くかいた人が経済的に成功するあたかも「一次方程式」の時代でした。それは85年のプラザ合意の頃まで続きました。20世紀後半型の発展モデルというものでした。
しかし、冷戦が終結し、バブル経済も崩壊した以降、日本は以前とは全く異なった枠組みの中にいます。 ・・・かつての「アメリカ」「若くて貧しい」という「一次方程式の時代」から「アジア」「豊かで、高齢」「IT」「環境」という四つのキーワードから構成される「連立方程式の時代」に踏み込んでいるのです。
しかも、この「連立方程式」は自分で作っていかなければならないのです。・・・この「問題発見」「連立方程式」に踏み込む場合、かつての単純な「一次方程式の時代」を生きてきた前の世代は対応できそうにありません。以前の成功体験が強すぎるのです。新たな「問題発見」をし、前例のない「連立方程式」を組み立て、それを解いていくのはバブル経済も経験していない新たな世代に違いありません。そして、そのきっかけになるのが「世界で最も熱い『現場』」ということになります。
私自身も、ここでいう「一次方程式」すなわち昭和のビジネスモデルの末端で恩恵を受けた世代でもあり、来年は、もっと若い人にチャンスを与えることに貢献せねばいかんなと思う年の瀬であります。
そして、実はより大きな問題は、著者の期待している20代、学生の世代でなく、もうすぐ40歳を迎える就職氷河期の世代だったり、バブル期に大量採用されて企業の中でポスト不足に直面している世代だったりするわけで、団塊の世代が逃げ切りをはかる中で、中間の我々の世代がどう身を処すかというのは、世代論としても、個人の生き方としても大事なんですよね。