枇杷の葉なし

枇杷の生育や、葉・花芽・種のことを日々の生活のなかで書いていく。

連載3・キャベツ畑・・・

2022年04月20日 | Weblog
 拓也の驚きは、桃の木よりも栗の木を通り越し一三里前で止まった。おばあちゃんは、すました顔でキャベツ畑へと歩いて行くので拓也も後を追った。イバラの繁みが両脇にわかれて行く手を開けるのに、拓也はこれもおばあちゃんのしていたことと分る。うちのキャベツの出来も、他所んちとは差があるけど。それは違うよ、太陽や月に風と雨のおかげだよ。

 えっ?おばあちゃん、今僕の考えていたことどうしてわかったの。おまえの考えることって直ぐに顔に出てるじゃないか、何年一緒に暮らしているんだい?9歳だから…おばあちゃんは、キャベツ畑に置いていた水筒を持つと斜面を家へと下りて行く。自宅の庭には軽トラが停まっていて、荷台から町で仕入れてきたキャベツの箱や他の荷物を納屋に運んでいた。

 拓也は裏口に回ると、そこから台所に上がってガスコンロのスイッチを入れた。時計を見ると2時30分だった。薬缶のお湯が沸くと同時に、おばあちゃんに父さんと母さんがやって来た。拓也、パセリを採った?ううん、僕知らない。母さんは外を見るそぶりをして、小さく頷いていた。父さんはおばあちゃんの淹れた珈琲に、目を細め口元を緩めご機嫌だった。

 とし子さん、明日の出荷なの?いいえそうじゃないんですけど1本も無くて、まるでごっそり消えているんです。それにねお義母さん、そこら中に緑の固まりがあるんです。ふ~ん、なるほどねぇ。そろそろ来るかな、父さんがぼそっと言った。拓也は、父さんをじっと見ながら柚子の木にも葉が無かったことを思い出した。今日は変な日だと拓也の心が騒ぐ。

 夕方、母さんが庭で悲鳴を上げた。拓也は、コミック本を夢中で読んでいたが放り出した。庭にいるのは母さんと…誰?物凄く派手な衣装での、ウルトラマンの撮影でもしに来たかの恰好の方。拓也はちょっと声が震えていたが、母さんを放せ!と叫んだ。するとそのド派手な方は、マリナ姫を出せ。さもないとこいつを人質で連れて行く、と拓也の頭にしてきた。

 マリナ姫?知らないし、それは誰のことなの?人質なら僕がなるから、母さんを放して。駄目だ、子どもは相手にしない。わが女王さまのやり方ではない。女王さまって、どこの誰だか知らないけど子どもだってあまく見んなよな。これでも宇宙人なんだから、と拓也は少し得意気に言った。その時。何もしゃべるんじゃないよ、おばあちゃんの声だった。
 
 二十四節気 穀雨 春の太陽が強さを増すこの頃の雨は、五穀の成長に天の慈雨と言う意で、穀雨と呼ばれる。毎年、四月二十日頃である。昨夜から鉢の移動をしていたら、今朝は大騒動に掃除となる。水遣りをしながら木香バラが咲き出したのに気づいた。ドイツスズランが香り、リナリアが風に揺れて薔薇の蕾も沢山見える。心が自然に満たされていく。
コメント (8)
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