大阪の大衆酒場には、冬のメニューとしてこの「湯豆腐」は欠かせない。
京都の奥丹や順正や西山艸堂やという、そんな大層な湯豆腐をしようというのではない。
注文したらまず2分以内。大鍋で温めた豆腐を丼に入れ、熱いだしを満たして、
薬味をパラリと散らしたら仕舞い。そういうプリミティブで肩の凝らない奴。
アベノ「明治屋」の湯どうふ
常連はまずこれから始める。この濃い目のうどんだしがいいのだ。
昆布とかつおのだし。これにちろりで温めた燗酒はベストマッチだ。
千日前相合橋「正宗屋」の湯どうふ。
だしとのなじみ方が浅いが、これはこれでよしとしよう。
何でもないようだが、明治屋のとろろ昆布とはちがうのが解る。
大阪駅前第1ビル「銀座屋」の湯豆腐。
ここはとろろ昆布も入りながら、削りガツオが印象的。
けどどう食おうとも、絶好の酒肴となる。
さて、天六「上川南店」の湯豆腐。
最澄が京都洛中の鬼門に比叡山延暦寺を置いて、都の護りとしたのと同様、
大阪の鬼門にあたる天六に「上川屋」あり。
ここで上川屋が踏ん張ってくれていたから、酒飲みはフ~ラフラとあっちこっち
動き回れる気さえしていた。
その上川屋閉めて数年、今も弟さんの店が看板の湯豆腐を守る。
というか…上川屋の湯豆腐を発展させているといってもいいだろう。
酒飲みにはだしがいい。
利尻昆布と高級イリコを使っただし。
だしと同化しているがおぼろ昆布にも気を使っている。
上川屋時代から、ハチマキというと、ここの二合徳利。
ナショナルブランドの大関の燗酒が、ここでは妙に美味い。
後ろの豆腐の鍋。ただ温めているのとは訳が違う。
だしの中でじっくりと、3時間から5時間。
豆腐が脱水~だしを吸うまでにはそれだけ時間をかける。
なまじのお手軽メニューの湯豆腐とはちがうのだ。
聞けば、この丼で出す湯豆腐。 上川屋の初代が始めたようである。
そのうち、丸一屋はじめ、あちこちに広がって行った。
こんな簡単に見えるものでも、コツもこだわりもある。
その証拠に家でやってみるといい。ちっとも美味しく出来上がらないのだから。