蕎麦屋で一杯っていうのは至上の悦びですな。
ちょっと前まではどうもキザでいけなかったが、(それでも臆することなくやってましたが)
もうそういうのが似合う年齢になっちまったというんですかね。
というわけで、西天満のいつもの蕎麦屋さんへ。
「なにわ翁」。尊大に聞こえるだろうが、常連みたいな顔が出来るほぼ唯一の店。
というか…常連みたいなふりをさせてもらってるだけですな。
そんなしょっちゅう来れるほどの日常の蕎麦屋とは異なる、いうなれば上等蕎麦屋。
ここではいつも、島根の豊の秋というお酒をいただく。
酒だ酒だという主張をしない、蕎麦を惹き立てる酒だと思ってる。
肴は…と。 春だから、蛍烏賊の酢味噌。
この酢というのがまた、日本酒と相性がいいとくる。
ぬた、〆鯖、たこ酢、南蛮漬け、梅干し、らっきょう…なんだって酸だ。
季節は、浅蜊と蛍烏賊。
濃いつけ汁にプカプカと蛍烏賊が浮いているざるっていうのも美味いが、
ここは温かい浅蜊そばにしようかな、と思ってると、
「浅蜊そばはヌキにして、ざるを召上ったら…」と若女将に言われた。
そいつはいい。 ヌキという手があったか。
但し、これも若いのが背伸びして「ヌキで…」なんて言うのは五万光年早い。
アタシだって、キザになるから今までよう頼まなんだ。
程なく来た、浅蜊のぬきがこちら。
大ぶりの浅蜊がたっぷり入っている。
今日の浅蜊は熊本らしく、来月には浜名湖に切り替わるという。
こいつをグビリとやりつつ、酒を飲む。 これは堪らない。
身はやわらかく、香りがいい。
となりに座った中国人カップル客には悪いが、
蕎麦好きの日本人てのは、こうして、酒を楽しむ訳だよ。 わかる?
蕎麦は翁、高橋邦弘譲りだが、温かいかけ系に限っては、
昭和5年創業、初代譲りのだしを守っている。
このだしは東京にはないね。 東京中食ったようなこと言うけど。
蕎麦はやっぱりここの定番、二八をいただく。 味もさることながら、喉越しが重要だからね。
香りは申し分ない。
なんていうのかな、野の香り。 ナッツともちがうが、野っ原にひっくり返って
いろんな野草や土の入り混じった、野生の香り。 これが最も大事だと思っている。
スルスルと小気味よく啜って、間合いに一杯。 これがまたいい。
うどんぢゃこうはいかない。 やっぱり先人達が言ってるように蕎麦と酒は引き合う。
蕎麦が少なくなったら、蕎麦猪口の中へ入れて、余ったネギと蕎麦湯をちょいと入れる。
へっへ、これで一口のかけそばが楽しめるってわけ。
ざるに蕎麦の一本二本、残しなさんな。
箸を立てて、きれいに摘まみあげるんだ。 な、外国人観光客よ。 オレのざるを見な!
さっと洗えば、お職人だって手間が省けるてぇもんぢゃねぇか。 ありゃ、いつの間にか江戸っ子だ。
これは最低限のエチケットってぇもんですよ。そこのアジアの観光客よぉ。
ガイドブックに書いておけえ。
そうそう、ここには十割の太打ちだってある。
ちょっと摘まんで塩でやるのもいいけど、もちろんつゆでも。
小気味よく啜るって芸当はこれはムリ。
啜ろうとすると、空気がうわっ滑りして、むせるね。
こいつはしっかり噛んでやることによって、食感と甘み風味が出て、蕎麦の香りが鼻から抜けて行く。
ぜひ一興だから、この太打ちは試してみることをお勧めしたい。
3月も終わり。いよいよ新年度かぁ、関係ないけど。
この3月で閉める店が4、5軒あって、事情はそれぞれ違うんだろうけど、
アベノミクスとやらの失策がつまりはジワジワ効いてきたということか。
ったく世知辛い世の中になったもんである。
キショーメ、もう一本!