聖護院を西へ歩き、静かな路地にある『河道屋養老』。この路地を歩けばどこからか肉桂の匂いが漂う。八ツ橋の工場があるのだ。時折自転車の主婦が通ったりする、そんな閑静な通りに門を構えている。
江戸時代から続く晦庵河道屋の暖簾分けとして、昭和の初めの開店。まず格として申し分なし。
玄関先は掃き清められ、料亭然としている。こういう場所でごく普通に蕎麦を食べられるのは嬉しいところだ。
履物を脱いで、入れ込みの座敷に通される。
ここには養老鍋というのがあって、本家の芳香炉を引き継いだ鍋がある。だがランチタイム。一人で鍋つついてる場合ではない。
まだ少し早かったと見え、空いているので床柱を背負う席に。侍の気分になる。苦しゅうない。ざると花巻、それにお銚子を一本所望す。
庭が美しい。こういう贅沢な道具立ては、なかなか他ではお目にかかれない。これだから京都はよそ者の心をつかむのだ。
待つことしばし、ざると銚子が運ばれてくる。
レレッ…これ完璧に機械打ちではないか。それに粉山葵かぇ。まぁいいか。海苔は邪魔なのでまとめて先に食う。蕎麦の香りはするのかな…ハハ、しねぇなぁ…頑固だね、また。こんなデパートの大食堂みたいな蕎麦久しぶりだ。蕎麦打ってるのはこの数軒先の作業場。旨そうな気配はあったのだがな。つゆは悪くないよ、つゆは。
きょうび自家製粉手打ちが主流のような蕎麦の世界で、頑なに機械打ちの蕎麦を守るってのはどういう料簡してんだろうね。酒もこだわりなどなさそうだな、こりゃ。
その気になれば贅沢な手打ち蕎麦屋に切り替えることなど簡単なことだろうに、一向にそんな意見も出ないとしたら、何なんだい、ここの経営者もここへ来る客も。
まぁいいや、花巻に賭けよう。
来たよ、来ました、花巻が!
焼き海苔がどっちゃりと乗って、その上にどれだけ乗せるのかっていうほどの山葵!粉だからって、こんなに乗せることはないだろう。ほどってものがある。
ゲンナリしてピントまでボケてしまったぜよ。よって小さく載っける。
この蕎麦は炙り立ての海苔の風味と、それを持ち上げるおろし立ての山葵がポイントなんだから、さすがに山葵をどけました。取り立てて薫り高い海苔でもなし、蕎麦はさっきと同様の機械打ちだし。逃げ出したい気分になった。
常連だったという勝新太郎よ、アンタ、何食ってたんだい・・・
出て、東山四条まで来て、傘忘れたことに気付いた。ついてねぇ。
野暮用を済ませて、傘を取りに行った頃には薄暮。
ぼんやりと玄関先に灯りがついてやがんだ。ほんとにいい佇まいなんだがな。泣いてますぜぇ、お道具が。
「ゲゲゲの鬼太郎」は元々、「墓場の鬼太郎」という名前で連載が始まった。これが鬼太郎が生れ落ちる前の写真だッ!世の中の悪意を全て孕んだが如き面構え。ギョロリと見据えた目にただならぬ妖気と覇気を見ることができる。行くのぢゃ!鬼太郎!!
と、いうのは真っ赤なウソで、
我が右手首のMRIによる断面図なのである。
以前、手術した場所を半年ぶりに検査しに。
この巨大なドーナツがMRIの機械。フィリップスはコーヒーメーカーかなんか作ってると思ったら、こんなものまで作っているとは。ストリップの張り出しのような部分に横になり、動かぬように括られて、このドーナツの中に吸い込まれてゆく。耳にはガ~ンガ~ンガ~ンという工事現場のくい打ちのような音。閉所恐怖症の桂Z師匠は「やめてくれぇ」と逃げ出したそうな。その恐怖心も判らぬではない。
これを京大近くの吉川病院で撮って、6千なんぼ払って、京大整形の医師に診てもらう。
担当医はDr.戸口田淳也氏。無精ヒゲの美術の先生タイプの名医。センセイさまぁ~命預けますゥ! 結果は・・・異常なし。ホッ
よし!安心したら途端に腹が減ってきた。昼飯だ、昼飯だ!
ここは聖護院。八ツ橋?おたべで腹が膨れるか!ここらに有名な蕎麦屋があったはずだ・・・
佇まいはいい。昼間っから一杯やりたくなってくる。
だが、こいつがロクでもない蕎麦を食わせるのだから、腹が立つのである。 ~つづくのだ!
早朝の英虞湾。朝の景色が見たくてカーテンは開けておいた。
朝の空気を胸いっぱい吸って、再びベッドへ。
朝食前にホテルの周辺を散歩でもと思ったが、それ様の靴などないし、やめた。
で、朝食に。地元の素材たっぷりの和食も魅力的だったが、山口さんだけに「ヨーロピアン・プティ・デジュネ・コンプレ」にする。
何がプチなのか、よくわからんでちゅね~。まぁ全体に小ぶり。
バイキングで欲張って何種類も取って来たんぢゃねぇぞ。
4種のジュース(グレープフルーツ・オレンヂ・ヨーグルト・チョコレートドリンク) 二口サイズぐらいのグラス。
ヨーグルトはグラスの底に栗のハチミツがしのばせてある。シュワシュワする不思議な食感のヨーグルト。季節のフルーツのコンポート(マンゴー、洋梨、アプリコット、プリン)焼き立てパン。
卵はスクランブルと、サニーサイドアップ。これも多すぎないのがいい。
トーストはこんな小せぇの。舞妓のおちょぼ口でもよござんすよ。
バターにバニラを混ぜ込んだ香りバターにママレードなど。
これにコーヒーいただき、のんびりした朝食。
さぁ、荷物まとめてズラかるとしますか・・・
プライムリゾート賢島
三重県志摩市阿児町鵜方 0599-43-7211
帰りに再び伊賀に寄る。今度は「モクモクファーム」という場所。
木酢酸の餌で育てた伊賀豚を広めようと、ハムソーセージを作る施設を一般にも公開。それがどんどん大きくなって、団体客まで来るようになった。バーベキューに温泉に豚のショーがあったり、地物市場があったり、ほどを心得た施設である。何にもないところで、観光客の誘致によく健闘しているといえる。
さっそく昼はバーベキュー。河原かなんかでやるのかと思ってたら、入れ込みの席だった。まぁいいや、で地ビールをグイッ。
ガキどもに混じって、ソーセージ作りに参加。
ガキには負けられない。こっちはおまえらの何倍もソーセージは食って来てんだ。
伊賀豚のミンチ肉をこねる。こねて粘りが出たら、白い脂の方を入れてさらに練る。白く脂が全体にまわった辺りが頃合い。
ボクは報道班と称し、手を出さないでいた。ホントはぐじゅぐじゅの手になるのが気色悪いので。いくつも手があるのだから、わざわざオッサン、やるこたぁねぇ。
そいつを羊の腸でできたケーシングに詰め込んでゆく。ピストル型の充填機みたいなのがあって、簡単に押し込んでいける。さすがにここは二人一組の作業なのでお手伝いした。いかに空気を入れないで詰め込んで行くのかが問題だ。口を結わえ、熱湯で20分程度茹でれば完成だ。
出来上がり!湯掻きたてのを粒辛子をつけて食う。「旨い!」
だが、今になって顧みるとそんなに旨かったのだろうか…。ま、雰囲気である。それに無添加なのは保証済み。でもパンチはない。
これを鉄板で即座に炒めて、ドイツ風の硬めのパンに挟んで食うとどれだけ旨いか。この施設でビールが飲めなきゃなぁ。
伊賀 手作りの里モクモクファーム
三重県伊賀市西湯舟3609
休日、賢島に遊ぶ。賢島でバカになる。あ、最初から賢くなかった…。
宿は『プライムリゾート賢島』。大仰で恥ずかしい名前だが、都ホテル系列で近年リニューアルして、いかにもリゾートというホテルになった。
レストランのプロデュースをしているのは、神戸北野ホテルの総料理長山口浩さん。こいつは楽しみである。
暮れ行く英虞湾。あごわんと読む。養殖牡蛎のいかだだろうか。
夕景を眺めながらバーでアペリティフを。
見えにくい位置にソファがあるのだが、サービスが気付くのが遅い。
こっちが言いに行かなきゃいけねぇのか…?
それと隣りのレストランの食器の音やさんざめきが耳に届きすぎ。
子供の声がして、ここは高島屋の大食堂ぢゃねぇ!
まぁまぁ・・・着いたとこぢゃないか。そう青筋立てなさんな。
気分を直して、いそいそとメインレストラン「アッシュ・ドール」へ。
まずは・・・やっぱり、これからですな!!
シュワシュワシュワ・・・万国共通で歓迎のしるしは泡!
スペインのカヴァ、ドイツのゼクト、イタリアのスプマンテ、フランスのクレマンしかり・・・しかし、世界最高峰のヴァン・ムスー(泡の酒)となると、シャンパーニュということになる。
ラベルがきれいな、ディアボロ-バロア・フルール・ド・パッション>Diebolt-Vallois Fleur de Passion 2000 2000年のヴィンテージ。
細やかな泡、気品あり。
アミューズブッシュ 的矢牡蛎のポッシェ(pocher)>
白と赤ワインのソース。おそらく、すぐ近くの佐藤養蠣場の牡蛎。白には刻んだトリュフ。
amuse bushとは「お口の愉しみ」ってところ。オードブル以前、ちょいおつまみって感じ。これって充分オードブルだけど。
pocherというのは湯またはブイヨンの中で材料に火を通す料理法。さっと熱湯にくぐらせる感じか。ポーチドエッグのポーチはこれですな。フレンチは料理法に合点が行くまで時間がかかるので、あ~面倒だが明記して行くぞ。
白に切り替える。バンドール・ブラン・2004・シャトー・ド・ピバルノン >
Bandol Chateau de Pibarnon 2004 南仏プロヴァンスというと赤やロゼばかりが有名だが、ごく小規模に白もある。ピバルノンはそんなトップシャトーだという。南仏の太陽がふりそそぐ下で育つユニ・ブラン、クレレットという葡萄からできるバンドール。このホテルの持つ南仏系リゾートにはコレ!と決めているのかもしれない。酸がさわやかで辛口でOKである。
オードブル 手長海老のポワレ>
poelee フライパンや鍋で焼くという料理法。ラングスティーヌは塩だけでカリッと焼き上げてある。メロン、キュウリ?ペパーミント、キャビアなどを同じ細かさに刻み、セルクルで抜いてある。ドライトマトのジュ。上に金時人参をカリカリに揚げたもの。
ホワイトアスパラと桧扇貝のスープ>
桧扇貝は紫・オレンジ・黄色のホタテに似た貝。毒々しいが天然の色らしい。http://homepage2.nifty.com/7k4pbj/cook_12.htm
この貝を2時間マリネすると聞いたが、何に漬け込むのかは聞きそびれた。ものすげ~薄く削ったトリュフが浮く。
ドメーヌ・ジャン・マルク・モレ、サントーバン・レ・シャルモワ・ブラン>
ブルゴーニュの銘醸モレ家。今度は少しコクのあるしっかりした白。
伊勢えびのロティ>
rotirとはロースト、魚を一匹丸ごとオーブンで焼き上げる料理法。
バラせば、こんな格好に。ふんわりと被っていたのは薄いアワビ。
伊勢神宮ののしアワビか!?中からは数種類のキノコと、伊勢えびの尾の肉。
頭の部分は甲羅焼きのよう。海老の味噌とドライトマト、オリーブなどを加えて詰め物にしてある。
そして赤にチェンジ。ボーヌ・ピエール・ブレ 1erクリュ・レ・ゼプノ。
評価はなかなかいいようだが、悪いけどあんまりよく覚えていない。
松阪牛フィレ肉のポワレ>フライパンなどで焼き上げたもの。ガルニチュールは芽キャベツ、アピオス、むらさき葉の花、小玉ネギ。
アピオスはインディオの栄養源といわれ、芋なのにラッカセイの味がすることで評判になった。
腕をふるってくれた山口浩さんとアッシュ・ドール総料理長ジャン・ジャック・ブラン氏。山口さんはますます巨漢ぶりを発揮。それだけ仕事熱心だということ。シェフは痩せてちゃ旨くない。
デザート リキュール漬にしたサクラの花びらを散らしてある。
紅茶のアイスクリーム?忘れました。
ショコラ、マカロン、タルト、コーヒー。
今となればフロマージュは…食後にコニャックなんかはどうなの?と思うが、その場では天を仰ぐばかり。いやはや満足な眠りを得たのでありました、とさ。
伊賀焼きの長谷製陶のある里「長谷園」へ。
そこの二百年を経過した母屋で食事が出来る。
座敷の外は手入れの行き届いた庭。
濡れ縁の側には水琴窟の音がする甕がある。
鉢山亭虎魚こと佐藤隆介氏の筆による屏風。
佐藤氏肝煎りの窯元だったと、あとで合点が行く。
佐藤氏は池波正太郎の弟子で料理や酒に関する著作も多い。
前菜に出てきたのは菜の花、田芹、土筆の佃煮に野蒜、酸葉。
焼味噌をコンロで炙って、それを野蒜につけて食べる。
春に芽吹く野草の力で清浄な心持になる。
酒は地元青山の地酒、純米吟醸義左衛門。器は全て長谷製。
昼食なのだが、今回は運転手もいる。ズンズン飲む。
伊賀、山麓豚のベーコンを使ういぶし鍋。これが主菜。
木酢酸を飼料に入れて肥育しているため、脂にクセがない。
まずは焼いて食べる。うめぇ!
鰹昆布のだしに、まずベーコンを入れると、洋風の味に
変わって行く。野菜にレタスが入るのも面白い。
コショーをふっていただく。だしがいける。
鍋の合間には豆腐の蕗味噌焼。
揚げの田舎焼(写真、中に葱がたっぷり)。
鍋のベーコンがなくなると、豚肉を追加して豚しゃぶにした。
仕上げには麺。中華麺を入れてニラ、メンマ、海苔。
料理評論家K氏が私を目掛けて投げた麺の端くれが、鴨居に!
このうつけ者めが、伊賀の旧家をなんと心得るッ…!
世が世なら、お手打ちにいたされたか。
食った食った…真っ直ぐ座ってられない一行。
隣り合うショールーム(って言葉は使いたくないが)で焼き物が
売っており、ご飯炊きの土鍋「かまどさん」を買って帰る。
こんなに有名な土鍋だとは、帰ってから気付いた。ふたを開けるともう一枚中蓋があり、そいつがドッシリと重くて、圧力鍋の役割を果たすという。
七代目はなかなかの策士とみた。アイデアを凝らした製品を送り出している。かまどさんで炊いたご飯は、旨いの旨くねぇの。(どっちだ!)
三重県伊賀市丸柱569 「なが谷 母や」