こころの色 キラキラ重なって 揺れる夜(エッセイ編)
職員は午後1時頃から会場作りのほか、出店の準備にそれぞれ分かれ、サマーレクリエーションの準備に取り掛かる。開始時刻よりも早く来てくれた利用者さん数人と共に、忙しい。
私が担当したのは、地元の福祉大と専門学校生のボランティア学生4人と、利用者さんとヨーヨー作り、水の中で光る金魚と飴玉の商品袋詰めのほか、小学生以下の子供たちに配る整理券作り。(引き換え券)
利用者さんと一緒に、ハサミで切り取って、ノリ付けして…200枚くらい作った。
地元小学生や招待客、地域の人達などの受付開始時刻は夕方5時。それまでにヨーヨーに水を入れ、ゴムを付け、光る金魚を水の中で泳がせるのだ。開始時刻にやってきた他の利用者さんたちも、交代で受付とヨーヨー釣りの係をする。
やっと準備完了♪♪
それぞれの役割を時間制で行う過程で、さまざまな利用者さんの こころの色を見せて・・・いや、魅せてもらった。 中には、「利用者さん 対 スタッフ 心理戦」 みたいな笑えるものもあったけれど。
受付へ地元小学生や幼児の子供たちが来場すると、先を争うように「受付係」の福祉就労の利用者さんが声をかける。
「こんにちは♪ これはヨーヨー券と くじびき券です!」
それぞれ一人に一枚ずつ。 魚釣りのようにヨーヨーを釣ることが出来る出店では、福祉就労グループの利用者さん達が子供の登場を今か、今かと首を長くして待っている。
それからどのくらい時間が経ったのだろう。最初は王勢の係がいたのに、途中でみな、食べ物の出店へ出かけたり、ステージを観に行ったり。
そして誰も居なくなった・・・・
という事態が発生しそうになるたびに、時間割通りに次の係の人は交代してください! と職員が再確認。今年は誰一人居なくなることはなく、皆、それぞれの役割を楽しんで行っているように見えた。 熱心に数人でダダダダッ、、、、、と押し寄せるように子供たちに券を手渡すシーン。あまりの利用者さんの勢いに、一瞬たじろぐ小学生もいたりして、一緒にやっていて面白かったし、笑えた。
夕方とはいえ、8月の残暑が厳しい日。 昼下がりの熱気が空気中に残っていて、誰もが立っているだけで 汗ばんできた。
小学生が釣りを楽しんでいる横で、ちらっと私の耳元でつぶやく利用者さん。
「僕もこれ、やってもいい?」
「後で・・・・ね。券が余ったら」
「ヨーヨーが余ったら」
「金魚が余ったら」
「まだ、券を渡した小学生が全員、釣りをしていないから」と呟く。
時間の流れと共に、日差しが傾くにつれ、受付へ何度も顔を出しては、同じ質問をしにやってくる利用者さんの数も増えていった。
中でも一番熱心だったのは、ウォーキングのとき、「結婚しようよ!」 「全部やめて、これ にするよ!」と私の名札を指さしプロポーズをしてくれた利用者さんだった。
誰が渡したか定かではないものの、(多分、ボランティアで参加していた学生さん)『小学生以下の子供たちにのみ券を手渡す。利用者さんにせがまれても渡してはいけない』 筈の券を 彼は事前に手に入れて、15分ごとにやってくる。
「これ、あるよ」
ポケットから取り出し券をみせる。
「そうねぇ。6時半頃になったら、いいかなあ」
その都度、説明するものの、待ちきれない気持ちは抑えきれないらしい。
小学生が楽しんでいる姿に、一緒に喜びつつ、(自分もしたいなぁ)って光る金魚をつんつんしたりする仕草から 心の色が伺える。
夜になると、メインイベントの花火が打ち上げられる。
待ってました! と言わんばかりに皆、天を仰ぐ。
周囲は暗くなり、水面に浮かぶ光る金魚は折り重なって輝きを増す。
夜空の花火と水面の金魚と、
色々な色が重なり合うように 一人ひとりの想いも幾重にも重なり合う。
単純な こころの色。 楽しそうだから、やってみたい。
綺麗だから歓声を上げる。 もっとシンプルに生きていけたら。
幸せって、単純なことを心から楽しみ、喜びに感じられる、そんな天からの贈り物のような、豊かな感性がもたらすもののような気がした あの日の夜。
幼い頃は、確かに自分たちも、そうであった筈なのに。
お菓子一つを手の平にのせ、大喜びしていたのに。
いったい いつから冷めてしまったのだろう。
そんな瞬間に立ち合うことが出来て良かったと、今、思う自分が居る。
「もう時間を過ぎたし、小学生も殆ど会場には残っていないみたいだから、探しに行こう」
何度も『釣りがしたい』と申し出があった利用者さんたちを職員が探しに暗闇へ消えていく・・・・。
プロポーズの彼のほか、私の腕を強引に引っ張り、
「すずさんが すきですよ」と、すべて ひらがなでホワイトボードに書いて、私をうるっとさせた繊細な心の持ち主である彼女も。
(私の腕を力加減が分からず引っ張るので、多少、疲労感でうんざりしていた矢先の出来事だった。ちゃんと私の心理状態を読みとっているのだと、どきっとすると同時に嬉しかったものだ)
彼女は職員が会場内で見つけ出すことに成功!
大喜びでヨーヨーをバン! バン! バン!!!
あまりにも勢いがいいので、破裂してしまうんじゃ・・・と皆、心配顔。
「もっと 優しくした方がいいよ」とアドバイスされつつも 本人は全く構わない様子で嬉しそうにヨーヨーをしながら会場を去って行った。
問題は、一番楽しみに夜がくるのを待っていた プロポーズの彼だ。
いくら探しても見つからない。
「両親の姿も見えないってことは・・・もう帰られたのでしょうねぇ」
残念ながら、彼の分は他の利用者さんが持って帰った。
そして翌日。
「わしの分がないよ」
「ワシは昨日、最後まで会場にいなかったでしょ? みんな探したけど見つからないから、ほかの人にあげたの」
「ワシ、最後まで居たよ」
「いなかった」
「いたぞ」
「見つからなかった。また、来年ね!」
そう・・・・・。
半年後の夏。夏祭りで再会しましょう♪
http://goodbook.jp/newpage54.html この「しょうがい者 福祉就労施設」で起こった「ひとこま」を元に童話を書きました。出版社サイトにて是非、お読みください。掲載期間は今日、2月1日から1カ月間限定。販売予約数が800冊に達したら、商業出版されます。人々のこころに「しょうがい」となる物はない! 幼児・子供向け絵本ですが、誤解を解くカギとなれば。。。そういう意味では大人向きでもあります。一人でも多くの『理解者』および『支援者』が現れます様に・・・。周囲の人達に、この「輪」「和」を広げましょう、そう、一冊の絵本で。