夜勤上がり、朝のバス停には ほんの数人しか人がいない。
殆どの人は、これから出勤という時間帯。
満杯のバスが終点ひとつ前のバス停に停まると、ダダダッーーーと高校生達や会社員がバスを降りる。
巡回バスなので、次の終点は、バスセンターでは始発になるのだ。
このバスに乗ると、決まって数人の『知っている人』に会った。
次のバスセンターが乗り換えのため、そこからバスに乗り込んでくる数人の利用者さん達だ。
勿論、夜勤が長引き、帰りが遅くなると、バスが違うので、会わないこともあるが、大抵、夜勤明けは、このバスで顔を合わせたものだった。
皆、椅子取り競争の様に、バタバタとバスに乗り込んでくる。
彼らは大抵、一人で座る座席で、運転手さんに近い方を好んで座る。
私は空いている時間帯なので、(通勤とは逆方向だから)二人掛けの座席に座り、荷物を置きたいタイプ。
人が多いときは、荷物は膝上に置くが、こういうときは特に、後ろの方の座席を好んだ。
この日も バスの扉が開くと、「彼」がバタバタと乗り込んできた。
一瞬、私の方を見る。
「私」が「彼」の視界に入ったようだ。
それから彼は、何度も、何度も、後ろを振り向き、こちらを見ている。
「あ! 鈴木さんだ!」
彼の声が聴こえる。
「お・は・よ!」
と、座席に座ったまま、口バクをする私。
彼は嬉しそうに瞬きすると、斜め前に座っている利用者さんに、声をかけた。
「すずきさん! すずきさんがいる! ほら!」
「ほんとだ! すずきさんだ!」
私も思わず嬉しくなって、ほほ笑んだ。
やがて私が降りるバス停でバスは停まった。
「宮田くん、(仮名)元気だった?」
「うん。元気!」
「福祉就労の皆も元気?」
「元気、元気! あ・・・えっとね。職員のマイコさんが赤ちゃん、生まれるたよ。知ってた?」
「あ~そうだったね。育児休暇中だったよね。生まれたんだー良かったねぇ」
こんな話をバタバタとしながら、「じゃ、降りるから。みんなに宜しく伝えといて!」
と慌てて言った。
実際、話は尽きない。
宮田くんは、私を呼びとめ、早口で言った。
「すずきさん! サマーレクリエーション(夏祭り)、今度の土曜日だけど、来る?」
「うんうん! 行くよ。そのとき、会おうね!」
「分かった!」
通所施設での半年間の研修を終え、あの場所を去ってから、一度だけ、冬のコンサートに行ったことがある。
あのときも、利用者さんたちの招待を受け、いそいそと出かけて行ったのだった。
あの日以来、半年ぶりの再会だ。
一年前に、みんなで金魚やヨーヨー釣りの出し物を成功させたっけ。。。
バスを降りて、彼に手を振りながら、あの日のことを思い出していた。
バスの中。
街の中。
彼らと 突然 すれ違う度に、思うことがある。
「あ! 鈴木さんだ!」
跳びはねるように、駆け寄ってくる。
男も女も関係なく、気がつくと、相手が手を握り締めている。
「げんきぃ~?」
距離感なんて、
スペースなんて、
そんなのお構いなし!だ。
懐かしいから。 そしてきっと、好きでいてくれるから。
それが たまらなく嬉しい。
そして、一週間後。
一年ぶりに参加するサマーリクリエーション会場に到着した。
「何人かが、 鈴木さんも来るって言っていたよ!」 とスタッフ。
思わず、にんまりした。
そこへ女性利用者さんが やって来た。
「あ~! 鈴木さんっ! バスの中で、こないだ会ったんよ。ねえ~っ!」
男性職員に嬉しそうに報告している。
「また、大きな声で、 あ~! 鈴木さんだ!って叫んだんじゃないやろうね?」
笑いながら問う職員に、彼女は
「そんな いっぱいバスの中には 他にもお客さんがいるのに、言うわけないやん。ね~っ!」
と、私に同意を求める。
「そうだよね。小さな声で喋ったよね」
ーでも、、、、結構、目立っていたかも・・・しれないー
そう思いながら…心の中は、いつしか ほんわかとなる。
この日も皆の心が宝石のように光ってみえた。
http://goodbook.jp/newpage54.html この「しょうがい者 福祉就労施設」で起こった「ひとこま」を元に童話を書きました。出版社サイトにて是非、お読みください。掲載期間は今日、2月1日から1カ月間限定。販売予約数が800冊に達したら、商業出版されます。人々のこころに「しょうがい」となる物はない! 幼児・子供向け絵本ですが、誤解を解くカギとなれば。。。そういう意味では大人向きでもあります。一人でも多くの『理解者』および『支援者』が現れます様に・・・。周囲の人達に、この「輪」「和」を広げましょう、そう、一冊の絵本で。