日々のあれこれ

現在は仕事に関わること以外の日々の「あれこれ」を綴っております♪
ここ数年は 主に楽器演奏🎹🎻🎸と読書📚

月と六ペンス  ウィリアム・サマセット・モーム

2021-06-01 23:13:03 | 読書

 

 

フランス生まれのイギリス人作家、モーム。恥ずかしながら、私はこの作家名を全く知りませんでした。『新訳シリーズ』一覧表を見ながら、次はどれを読もうか~ 月つながりで、「月と六ペンス」にしよう、と思い、『予約貸し出しカード』に記入したのは先週のこと。翌々日、図書館へ立ち寄り、受け取ってきました。最初の方こそ、物語が始まるというよりは、ストリックランドという名の画家と芸術作品について、「理解不能な人物だが、偉大な芸術家だった」という説明が延々と続くかと思われ...少し退屈しかけたところで、作家の卵である主人公の「私」の目を通して、(晩年をタヒチで過ごしたゴーギャンがモデルと言われる)ストリックランドの人生が語られ...物語の幕が開く...♪ 

 気付けば、のめり込むように物語の世界へ入っていき、主人公と同じく ストリックランド、という人物について、その言動、精神性、人を人とも思っていないかのような人となりについて、考察し始めました。

 ”人生や人間観察に関わる深遠なメッセージを探したい読者”には、十分すぎる手応えがあります。モームという作家を今の今まで知らずにいたことを残念にすら思いました。これまでの疑問に対する答えがすべて、ここにある!と言っても過言ではないほどなのに!

 ストリックランド… 類まれな才能の持ち主であったか、そうでないか?という点を除くと、そっくりな人を実際に数人知っています。不可解な言動には傷付きもし、ずっと振り回されてきました。

 「芸の為なら女房も泣かす♪」という演歌があったと思いますが、ここでいう芸は美。 絵画でも、戯曲でも、小説でも、芸術であれば何でも。泣かす相手は女房・女でなくとも、同性でも子供でも親でも知人でも、通りすがりの人でも誰でも..です。

 佐藤浩市さんが父親について語っていた日を思い出しました。「世間にとって父は偉大は俳優だったかもしれない。しかし、子供だった自分も母も寂しい思いをしてきた。自分も父親になった今、余計にそう思う。父の存在は、反面教師」

 

 ストリックランド... stric land 厳しい島 なんて名前。 カタカナ名はすぐ忘れる自分でも、こりゃ、記憶に残る!実際には翻訳を読んでいるため、英語でどう綴るかは不明ではありますが。

 主人公の「私」は若い作家であり、読者「すず」でもあります。主人公「私」の目を通して、読者もストリックランドと 望むと望まないと、関わりを持っていくのです。相手が嫌がっていると悟ると、ニヤニヤしながら食事に誘ったり、関わりを持とうとするストリックランド。嫌悪感を持って、無視しようとしても、しつこい相手に最後は押し通されてしまう。

 ある日、突然パリへ行くと宣言した手紙のみを妻に送ったストリックランド。それまで17年間も一般人として家族と生活をしてきたというのに。一方的に、理由も告げず、何の説明もせず、妻も子供も捨てたのですよ! もし、自分の身にこんなことが起きたら、納得できますか?

 ここから少し、あらすじを~

 「私」はストリックランドの妻から、自宅へ戻るよう夫を説得してほしいと託されるが一蹴される。 ストリックランドは絵さえ描ければそれでよいらしく、物欲はない。まともな食事もしない、お金もない、よってガリガリに痩せ、遂には衰弱して死にかける。そんな彼を自宅へ運び出し、献身的に看病した人がいた。彼の才能を 世間が彼の死後に認めるずっと前から崇拝していた善良な画家(しかし、売れてはいない)ストルーブと、その妻、ブランチだった。ところが、献身的な看護で回復したストリックランドは、夫ストルーブの留守中、ブランチを寝取り、彼女を自殺に追い込む。善良な二人の恩に報いるどころか、死に追いやったストリックランドに対して、「私」は順を追って説明していく。

 ①まず、貴方は死にかけていた。

 ②そこをストルーブと妻ブランチが介抱し、死の淵から蘇った。

 ③善良な夫婦の幸せを 気まぐれで妻を寝取ることで、滅茶滅茶にした。(ストルーブは失意の後、故郷オランダへ戻り、画家を諦める)

 イギリスへ残してきた、いや、一方的に捨てた家族といい、今回の夫婦といい...

 あなたには良心というものがないのか? 

この問いに対する、ストリックランドの答えが、ホモサピエンス誕生の頃、或はもっと後でも良いものの、文明社会を無視したかのような、しかし、「原始的」で、「真実」故に誰もが一般的には認めないことを 言葉にして述べている... 暴言にも聞こえるものの... 

ストローブもブランチも、人助けが好きでやっている。勝手にやらせておけば良い。自分にゃ関係ねぇ。ブランチが死んだのは、自分のせいではない。彼女が弱いからだ。愚かで不安定な女だからだ。

「女ってのは、愛したら相手の魂を所有するまで満足せんのだ。弱いくせに ー いや、だからかー 支配力は激烈で、魂の支配までいかんと気がすまん。知性も劣るぞ。抽象的な話題なんぞ持ち出してみろ。理解できんと言って憎まれる。理想なんて説いたところで妬みを買うのが関の山だ。男の魂は宇宙の果てまでさまよう。だが女はそれを家計簿の中に閉じ込めたがる。俺の女房を覚えているか?ブランチも同じさ。おれを罠にかけ縛ろうとした。自分が立つ地面まで引きずり下ろそうとした。おれのために何かをしたかったんじゃない。ただおれを自分のものにしたかっただけだ。おれはほっといてもらうことが望みなのに、何でもすると言いながら、それだけは絶対にしてくれなかった」(266ページ10行~)

 

そしてー 主人公「私」が言う。「なぜ私に構うんです? あなたを嫌い、軽蔑していると分っていながら」

ストリックランドは言う、腹立たしく感じるのは、「君が気に入らんのは、君にどう思われようと、おれが気にしないってことだけじゃないのか?」(269ページ)

要するに「無関心」ですね。人に対して関心がない。己のみ。いるな...このタイプ。小説は次のように続きます。折角なので抜粋します:

 突然の怒りで頬が紅潮するのが分かった。無神経な身勝手さに我慢できない人間もいるーそれをこの男にわからせることは どうやら不可能だ。徹底した無関心がこの男の鎧。私はいつかそれを突き破りたいと願いながら、ストリックランドの言葉の真実を認めざるを得なかった。私たちは相手がこちらの意見に耳を傾け、こちらの影響下に入ることを たとえ無意識であれ期待している。期待が裏切られると相手を憎む。

「他人を完全に無視するなんて、人間に出来るでしょうか。」と私はーストリックランドにというより自分自身に言った。「人間は存在のすべてを他者に負っています。自分だけで自分のためだけに生きようとするのは、無謀な試みというしかありません。いつか疲れ果て、老い、群れに戻るしかない...略」(270ページ)

 この作家、凄い、と思わず唸ってしまいました。人は、皆がみな、言葉を使って適格に表現できる能力が備わっているわけではありません。なので、遂、何が言いたいんだか! と日常生活では思考回路がぐるぐるしがち。理解しようと努力はしても、成功したためしがなく、価値観の違い、で終了。

 

「月と六ペンス」を読み終わり、アダムとイブを思い出し、「野生のゴリラだって森で群れるよね」と思い... 

 主人公「私」の問いかけ(270ページ)は最もで、殆どの人は日頃、感じている事だろうし、「自分は介抱されても人の介抱はしたくない」のであれば、最初から結婚するな、無人島へ行ってくれ!とストリックランドに暴言....あれ? ほんとに南の島へ行ったんだ...。

 

 最終的に、群れに戻ったかどうか?は、本を読み、「その後」のご確認を~

 

 

Comments (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする