阿布ら蝉乏しく松尓那くこゑも 安都支可故二可禮に介らし毛
あぶら蝉乏しく松になくこえも あつきが故にかれにけらしも
(半切大)
かな書道界の大御所 杉岡華邨先生の作品「あぶら蝉」(長塚節歌)
を臨書させていただきました。
書道において、きれいに書きたい、上手に書きたい、というところから一歩を進め、
書の作品には立体感とか奥行き感とか、
三次元的な空間としての見方、捉え方があるということを
初めて教えていただいたのが高木厚人先生の教本でした。
(2015.7.20付拙ブログ「天の原ふりさけ見れば春日なる・・・」)
同先生の「書の幅を広げる『大字かな創作法』」の、
「現代作品に学ぶという方法」というコーナーで
最初に採り上げられた書家が杉岡華邨先生で、
そのお手本として掲載されているのが
この「あぶら蝉」という作品でした。
先生は、この作品について
「縦線と横線、複雑と簡素、大と小、潤筆と渇筆など、
逆の性質の文字を隣り合わせてそれぞれの特徴を高めあう、
狙いのはっきりした表現。
こうした明快な表現をもとに展開を考えるとよい。」
と添えておられました。
臨書に当たっても大事な着眼点になります。
この書を見て杉岡先生のことがもっと知りたくなり、
「かな書の美を拓く『杉岡華邨』書と人」(ビジョン企画出版社)
なる本を入手しました。
その著書の、半切作品の最初の作品もこの「あぶら蝉」でした。
また同著では、作品だけではなく、
先生の書道の美意識やや芸術論など開陳されていました。
その中に、「絵画的な書の美」として、
書の作品を創作するにあたっては、
一人の画家が見る目を基準とした『立体性』(左右、高低、遠近)
が強調されていました。
本作、臨書させていただきながら感心したのは、
上下左右の隣あわせにおける、縦横、粗密、大小、潤渇など
、その見事な対比でした。
まさに高木先生がお添えになっていた着眼点そのものでした。
行や文字群の流れにも感心しました。
軸線が右に左にと躍動する様は、書が活きているなあ、と。
因みに、本作は最近練習を始めた羊毛筆ではなく、
普通の筆(イタチ毛)で書きました。
ただ、羊毛筆の運筆で自分なりに捉えかかった技法、
・・・その線の終りや屈折部では、“筆を立てて筆先を揃える”
すなわち
小休止時に、筆の態勢を出来るだけ元の状態に戻し、次の線などへ
・・・を応用いたしました。
今日の午前中には、再開後2回目の絵画の教室です。
書道の方は10月は中止と相成りました。
説明を読むと、なるほど・なるほど、この書の奥深さや作者の想いを知ることができました。
益々のご精進を祈念いたします。
深める前に興味と言うか注意心と言うか関心があり、そこに向かって解明の並々ならぬ努力を惜しまずされ、それを作品に具現されるその姿勢そのものに感心します。