古稀からの手習い 水彩ブログ

人生の第4コーナー、水彩画で楽しみたいと思います

旋頭歌 誹諧歌(高野切第三種の練習まとめ)

2022-02-14 06:59:18 | 書道
旋頭歌 誹諧歌(半切縦略1/2大×2枚)(画像処理でフィルター掛け)
(根元からおろした小筆使用)

旋頭歌 
題知らず
初瀬川 布留川の辺に 二(ふた)もとある杉 年を経て またもあひ見む 二もとある杉

誹諧歌
題知らず 讀人知らず
梅の花見にこそきつれ鶯の ひとくひとくと厭ひしもをる

古今和歌集第十九巻に呼応する旋頭歌と誹諧歌のそれぞれ一首を練習しました。

旋頭歌(せどうか)は、五七七五七七を基本とする和歌の一形式とのことで、
古今和歌集には4首ほど掲載されています。
歌意は、“(ともに奈良県にある)初瀬川(現在の大和川)と布留川の合流点の岸辺にある二もと杉、
年月を経てまたここで会いたいものだ”
の意のようです。
二もと杉は根が分かれた杉で川の合流と再会とが重なる、とか。

誹諧歌(はいかいか)は、日常的で滑稽な趣を持つ和歌で、
万葉集の戯咲歌(ぎしょうか)の流れを汲み、
古今和歌集には58首ほど掲載されています。

手許の三省堂・古語辞典には、何と「ひとく」のところでこの歌が例歌として採られ、
そこでは小鳥の鳴き声「ピーチク」を模し、
“ただ梅の花を見にやってきただけなのだ、それなのに
鶯はヒトクヒトク(人来人来)と鳴いて嫌がっている”の意と。
また同辞典には、ピーチクは鶯に限らないが、
この和歌以後、文学作品で、鶯の鳴き声を「ひとく」と表現するようになった、とも。


今まで高野切第三種を数回やってきました。
第三種には、前回書きましたように四季折々の花鳥風月でも恋歌でもなく、
何か和歌の表舞台とは離れた歌が多いようにも映ります。

然らば、そもそも古今和歌集と高野切全体との関連性は一体どうなっているのか、
自分なりの整理も兼ねて、下のような表を作ってみました。
この際、この第三種の練習中に知った
「日本名跡叢刊『高野切古今集[第一種]』二玄社」(小松茂美氏監修)
新たに入手し(中古品)、
特に下表の右側の小松氏説のところではこれを参考にさせていただきました。
(小松茂美氏(1925~2010)は、古筆学、美術史学の権威。著書も多数。)


上の表から分かります様に、高野切でも『現存するもの』は極めて少ないことが分かります。
その現存するものの中でも、
「第一種」は第一巻と第二十巻を担当しており、小松氏によれば、
これは巻頭(筆初め)と巻末(筆止め)を書くのは高野切を書いた一座の中心人物で、
当時の第一等の能書家かあるいは身分の最も高貴な人であったはず、とされています。

「第二種」は春、夏、秋と四季の歌と離別歌を担当し、これも小松氏によれば
大和の守・源兼行の名をあげておられ、他書でも定説(?)になっているようです。

「第三種」はどうか。現存するのは第十八巻、第十九巻の二つです。
第十八巻は“雑歌”(ぞうか)と呼ばれるもので、
上表にある四季、賀、物名、恋などに入らない雑多な歌とされています。
第十八巻は冒頭から連続して(30首ほど)、“世の中”や“憂き世”などが入った歌が続きます。
人生の無常さなどを詠った歌です。
第十九巻は“雑体”(ざってい)と呼ばれ、
長歌、旋頭歌、誹諧歌などの総称で、正式な和歌以外の和歌を収める部分のようです。
今回この旋頭歌、誹諧歌の一首ずつを書きました。

なにやら第十八、第十九とも“雑”という文字が入り、“何でも屋”のイメージですが、
どの組織も『総務課』ぐらい重要で懐の深いセクションはなく、
今回の拙ブログでも味わい深い歌を紹介させていただきました。

以上現存ベースで書きましたが、小松氏は上表右側のように推論されています。
ここでは現存分以外の各巻についてもその書風を推定されており、
私にとっては全く目から鱗の話(この年になっても多いです)でした。

この場合、三者それぞれが七巻ずつを等しく担当したことになります。
また第三種も雑歌、雑体だけでなく恋歌(三巻)や哀傷歌も含まれています。

推定と言っても第一級の専門家がそれなりの論拠をもって発表されているのでしょう。
この著の初版は1,979年、その後どういう論争や研究がなされたのかは知りませんが、
ちょっぴり気になるところではあります。

「日本名跡叢刊『高野切古今集[第一種]』二玄社」を入手しましたら、
さすが約1,000年にわたり仮名のお手本中のお手本とされてきただけに、
この第一種も書きたくなりましたが、ちょっと間を置くこととします。




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2 コメント

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Unknown (mori)
2022-02-14 07:16:24
書は相変わらず、バランスよく力みのない流れるような筆さばきで(筆を根元からおろした成果)お見事だと思います。
説明文の「目から鱗」は、好奇心を持ってその道を深めるゆえの結果だと思います。
中身は一つ一つが初めてのお話ばかりで感心するのみです。
返信する
Unknown (サガミの介)
2022-02-14 07:32:18
またまた私にとって新しいジャンル、「旋頭歌」「誹諧歌」を知りました。
作品は、繊細な文字列と絶妙なバランスで一幅の絵のように鑑賞できます。
高野切れの第一種から第三種までの調査分析、日本文学に暗い私には難しいものですが、いつものことながら作者の向学心には感服です。
返信する

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