納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています
確実なのは巨人のV2くらいで個人タイトルの行方も混沌としている今年のプロ野球。なかでも首位打者ほど激しく火花を散らしている争いはない(記録は8月17日現在)。昨年と一味ちがうバットマンレースを分析すると…
首位打者へ派手に逆転!ブルーム
昭和26年から51年までのセ・パ両リーグ首位打者53人(昭和44年のパ・リーグは同率で2人)のうち90%近い47人がオールスター戦までの前半戦で打撃10傑の上位に位置し、23人はトップに立っていた。セ・リーグでは昭和30年から7年連続で前半戦のトップ選手がそのままタイトルを獲得した。一方でトップと打率5分以上の差をひっくり返したのは昭和34年の杉山選手(南海)、37年のブルーム選手(近鉄)、44年の張本選手(東映)、51年の吉岡選手(太平洋ク)の4人しかいない。
中でも派手に逆転したのがブルーム選手と張本選手。ブルーム選手は前半戦では打撃10傑8位だったが終わってみたら2位の選手に4分以上の差をつけた。後半戦は166打数77安打・打率は4割6分6厘だった。張本選手は前年まで2年連続でタイトルを獲っていたが、この年はトップの永淵選手(近鉄)に6分5厘差の7位で前半戦を終えた。それが後半戦再開後、4打数4安打するとジリジリと打率を上げて最終的に永淵選手と同率でタイトルを分け合った。
掛布にも充分ある首位打者の資格
過去の例を参考にすれば今年も打撃10傑上位から首位打者が誕生すると考えて良さそうだがセ・リーグでは、いま規定打席不足で潜航している掛布選手を見逃してはいけない。掛布選手の打率3割4分4厘は第4位に相当する。規定打席数はチーム試合数の3.1倍。あと10試合、8月末には堂々ランクインするはずだ。今シーズンの掛布選手は開幕戦で満塁本塁打を放つなど快調なスタートを切り打ちまくったが4月17日の広島戦でアクシデントに襲われた。あの死球禍である。この試合でも2回に4号本塁打を打っていた。ところが4回の打席で松原投手から右ヒジに、次の打席では渡辺投手から左手首に死球を受けた。
当日の診断では全治2~3日の打撲だったので一軍登録は抹消されず代打で試合に出続けた。それが裏目に出た。4月24日のヤクルト戦ダブルヘッダー(神宮)の第2ゲームに先発でフル出場した後に「どうも手首に違和感がある」と慶応大学病院で診察を受けるとドクターストップがかかった。欠場は1ヶ月続き復帰できたのは5月27日の巨人戦だった。長いブランクの影響で試合勘が鈍り、復帰戦は4打数無安打。結局、対巨人3連戦は11打数1安打に終わり周囲は不安顔だったが本人は「久しぶりのナイターで緊張しましたがもう大丈夫」と一安心。徐々に試合勘も戻り6月4日の巨人戦では3打数3安打の猛打賞で復活をアピールできた。
掛布選手と同じく規定打席数不足でランキングから外れていた昨シーズンのパ・リーグ首位打者の吉岡選手(クラウン)は8月中旬に規定打席に達したが打率は2割8分7厘で11位だった。開幕から5月頃までは控え選手で5安打しか放っていなかったが基選手の戦線離脱で正二塁手となった。プロ入り8年間で32安打しか打っていない選手だったが、規定打席到達後の後半戦は124打数47安打・打率 .379 と打ちまくり首位打者になった。この吉岡選手に比べたら掛布選手は昨シーズン打率5位の実績がありタイトル獲得の資格は充分にある。
ひしめく新顔、笑うのは誰か?
最近は毎年のように新顔が首位打者争いに参戦するようになった。昭和50年のセ・リーグは山本浩選手(広島)、パ・リーグは白選手(太平洋ク)。翌51年のセ・リーグは谷沢選手(中日)、パ・リーグは吉岡選手(当時太平洋ク)と2年連続で両リーグともに新顔がタイトルを奪取した。今シーズンもパ・リーグの上位5人のうち過去に首位打者になった経験があるのは4位の加藤秀選手(阪急)だけ。現在トップの門田選手(南海)は昨シーズンの3位がキャリアハイだ。2位で頑張っている島谷選手(阪急)に至っては昨シーズンまでの中日時代の8年間で打撃10傑入りすらしたことがない。
現在のセ・リーグのトップは昭和47年に首位打者になった若松選手(ヤクルト)。3位には過去7度の経験者である張本選手がいるが、その間で奮闘しているのが2位の大島選手(中日)。打率は若松選手と1分5厘差だが2ヶ月前は4分の差があったのをここまで追い上げてきた。大島選手は昨シーズンまで専ら代打要員だっただけに大躍進である。もう一人、高木選手(大洋)の存在も忘れてはならない。現在5位につけている6年目の苦労人で昨シーズンの201打数56安打・打率 .279 がこれまでの最高成績。果たして最後に笑うのは若松選手ら常連か、掛布選手や大島選手らの新顔か首位打者争いから目が離せない。
流れ流れてどうなんの…
猛暑が続いたと思ったら今度は秋の長雨が連日シトシト。この影響を良きにつけ悪しきにつけ受けたのが大洋ナインだ。12日の巨人戦を平松投手の力投で勝ち、「さぁ残りの試合も頂きだ(別当監督)」と意気上がったのも束の間、13・14日の巨人戦が雨天中止に。「まぁいい休養になる」とここまでは大洋ナインの表情も穏やかだった。だが後が悪かった。16日の練習は3日分の練習不足を取り返そうと多摩川で泥まみれになって猛練習となり大洋ナインはヘトヘトになり、翌日は18日の静岡での阪神戦の為に新幹線で移動した。曇り空を眺めながら「阪神戦は大丈夫かな」と不安な表情を浮かべた。
その不安は的中した。大洋ナインが草薙球場に入ったとたんに待っていたかのように土砂降りとなり試合は中止に。「俺たちは何しに静岡まで来たんだ」と愚痴った。しかもお盆の時期と重なって全員一緒に帰京する新幹線のチケット入手が難しく、牛込マネージャーは「各自めいめい帰って下さい!」とヤケ気味に指示をしたが、なんと大半の選手が座れず立ちっ放しで帰京する有り様だった。ツイてないのはこれだけではない。翌19日の阪神戦(川崎)も雨天中止となり7日連続の休養となり、手持ち無沙汰の大洋ナインを横目に頭を悩ませているのが堀本投手コーチだ。
投手のやり繰りは普段でも大変なのにこの雨の影響で苦労は増した。「雨でグラウンドが使えず走り込み不足、投げ込み不足になってしまった。かといって登板予定の投手に無理な練習はさせられない。どうすりゃいいんだ」と堀本コーチは雨空を見上げてブツブツ。投手陣の中でも最大の被害者は斎藤明夫投手。新人ながらローテーション入りしているが何度か先発起用を告げられてもその都度雨で中止になり精神的に追い込まれた。「胃の当たりがキリキリと痛い。食べ物にあたったわけじゃあるまいし何でやろう。こんなの初めての経験」と日頃の強気な態度も消えてダンマリを決め込んだ肝っ玉ルーキー。
貫 禄
にぎやかな選手が帰って来た。今シーズン開幕当初に二軍落ちしていた関本投手が8月11日のヤクルト戦から一軍に復帰した。10日に合流した関本投手は先ずは「やぁ君たち俺の留守中は元気だったかい?」と二軍暮らしもなんのその、得意の舌先での先制攻撃に大洋ナインは意表を突かれた。特に投手陣は若手主体なので関本投手の貫禄ぶりに返す言葉もなかった。「そろそろ働かないとオマンマの食い上げ。せっかく大洋に来て戦力にならずじゃチームに申し訳ない。今までの分も取り返すよ」と言うが、肝心の直球のスピードは往年には程遠く首脳陣の評価も芳しくない。関本投手にとって前途は多難のようである。
生涯忘れえぬ米田からの一発
大杉選手が去る8月11日の大洋戦で史上8人目の通算350号本塁打を達成した。「いろいろあったなぁ」と13年間のプロ生活を振り返って感慨深げに投手との駆け引きやタイトル争いの心理状態を披露した。大杉選手自身が一番印象に残っているのは東映フライヤーズに在籍し、初めて本塁打王になった昭和46年のシーズン。ホームランダービー常連の野村監督(南海)は残り3試合、大杉選手は2試合で共に42本塁打と並び終盤まで競り合った。野村監督は42本のままシーズンを終えたが大杉選手は最終戦となる対阪急ダブルヘッダーで2発放って44本塁打でタイトルを獲得した。
「神サマにすがる思いで打席に入る時に米田さんに声を掛けたんだ。『フォークボールを投げて下さい』って。言っておくけど僕はフォークボールが大の苦手で全く打てなかった。そうしたら本当にフォークボールが来た。苦手の球を打ってこそタイトルを獲らなきゃ意味ないじゃん」と。米田投手から43号を放ったのに続き、第2ゲームでも足立投手から44号を連発して野村監督との本塁打王争いに決着をつけた。「野村さんに勝った感激で涙が止まらず、汗にかこつけて溢れ出る涙を何度も拭った」と回顧する。念の為に言っておくが米田投手は " 打たせるため " にフォークボールを投げたのではあるまい。苦手な球を要求する大杉選手を意気に感じたのだろう。
プロ初本塁打は昭和40年9月17日の東京オリオンズ戦で迫田投手から。「シュートに詰まってバットが折れるかと思ったので慌てて左手一本で打ったらレフトスタンドに飛び込んだ。当時の東京球場は狭かったからホームランになったんだと思う」当時の月給は7万円。13年前とはいえバット1本は2千円ほど。簡単にバットを折るわけにはいかなかったので、咄嗟に右手を離してスイングしたことが柵越えにつながったようだ。こうなると次なる目標は史上3人目となる通算500号本塁打。「僕はいま32歳。あと5年はバリバリ働けると思う。年間30本なら軽くいけますよ」と腕をぶす。
ドロボー
神宮球場の右翼場外にあるクラブハウスがまた泥棒の狙い撃ちに遭った。去る8月13日午後4時頃、新宿区霞ヶ丘13にある「ヤクルトクラブハウス」内の更衣室が荒らされ、倉田投手ら選手5人が計6万1千円の窃盗被害に。これまでも毎年のように空き巣に入られて警戒をしているのだがプロフェッショナルの手口にはお手上げ状態なのである。
たまたま一軍選手は広島に遠征中で小森二軍監督以下、二軍の選手たちが練習中に忍び込まれて被害に遭った。高給取りが多い一軍選手がゴソッと狙われたら被害額はもっと多かったに違いない。一昨年には熱狂的なファンがクラブハウスに侵入して選手のグローブ、帽子、ストッキングなど練習用具一式を盗んだこともあった。
タイガース?キャッツだろう
「星野っちゅう男は役者やのう」これは野球評論家の鶴岡一人氏の言葉。またこうも続ける。「阪神と試合をやっとる中日を見てるとこれが5位あたりをウロチョロしているチームやとはどうしても思えまへんなぁ」と中日が阪神をカモにしている今シーズンを代弁している。西京極球場での阪神戦も2勝1敗とまたしても勝ち越した。その代表格は虎キラーの星野投手である。「コラー、星野ええかげんにしとけッ」と虎キチの絶叫が聞こえたのか分からないがマウンド上の星野投手は声のした方向に目をやり「うん、うん」と頷いた。これを見た阪神ナインは余計にカリカリ。こうなれば戦う前に勝負アリだった。阪神は1対8で惨敗した。
星野投手はこの勝利で今シーズン9勝目。阪神からはオール完投の6勝、うち完封が2試合。セーブも2つ稼いでいる。「今年の俺は阪神さんから給料をもらっているようなもの。この分では西の方向に足を向けて寝れんゾ」とニヤリ。阪神戦は通算でも24勝11敗とお得意さんにしている。「本当はね俺はいつもビクビクして投げているんだ。今年は体調が万全ではなくスピードが出ないからさ」と自分の右太モモをさすった。肉離れを起こした右足を庇うあまり投球フォームを崩して直球の伸びを欠いているのだ。
スピード不足をスライダーやフォークボールなど変化球を駆使してしのいでいる。これが強振する打者が多い阪神打線にはかわす投球が功を奏しているのかもしれない。中日ナインは「阪神相手に仙ちゃんが投げたら勝ったも同然」とばかりノビノビとプレーして思い切りの良い好打や守備でもファインプレーを披露する。逆に阪神ナインは「中日の連中はウチとやると、どうしてあんなによく打つんだろ。ホント不思議だわ」と嘆く。人間なにが幸いするかわからないものだ。
板についてきた田尾
デービス選手が8月2日の広島戦で三村選手が放った打球を捕球した際にフェンスに激突し左手首を骨折して戦線離脱した。その穴を埋めるべく後釜に入った田尾選手がようやく板についてきた。特に最近の守備について師匠役の中コーチが「短期間であれだけこなせるようになったのは大したもの。良いセンスの持ち主だね」と舌を巻く急成長ぶり。ただしバッティングについてはもう一息といったところ。「投球から早く目を離してしまうのが欠点。顎が上がりボール球に手を出してしまう」というのがネット裏の共通した田尾評だ。
ダイヤモンドグラブ
「実は僕、ダイヤモンドグラブ賞を狙っているんですよ」と冗談を飛ばすのは対広島18回戦で13勝目をマークした鈴木孝政投手。この試合、2対2の同点で迎えた7回に広島が一死三塁と勝ち越しのピンチに鈴木孝投手は好調のライトル選手と対戦した。初球、なんとライトル選手はバントの構えをした。スクイズである。意表を突かれた鈴木孝投手は一瞬出遅れたがすぐにダッシュでマウンドを駆け下り捕球するとバックホームし、間一髪でアウトにして失点を防いだ。
「てっきり打ってくるもんだと思っていたので驚いた。ライトルがバントの構えをした時は『エッ、送りバント?』と直ぐにスクイズだと分からなかった。ビックリして出遅れたけど運良く目の前に球が転がって来たので間に合った。ちょっとでも横に行っていたら負けていたでしょうね」と振り返った。調子の良い時は何でも好転する。果たして鈴木孝投手の幸運がいつまで続くのか。ダイヤモンドグラブ賞を獲るという軽い冗談が実現するかもしれない。
見えたぞ大記録達成の日
" 大記録 " といっても不名誉な方で、池谷投手が " 本塁打配球王 " に邁進中である。15日のヤクルト戦に先発し6回までは散発5安打と見事な投球を見せたが、7回二死一塁で若松選手に左翼ポール直撃の同点本塁打を浴びて試合は引き分けとなり勝利を逃した。この引き分けでチームの今シーズンの引き分けが12試合となりセ・リーグ記録を更新した。150球の完投をフイにした池谷投手は「若松さんにまたやられたなぁ。打たれた球は悪くなかったのに…」と何とも割り切れない様子。
決して失投ではなく外角低目いっぱいの左打者の死角に投げたのだが見事に弾き返された。この一発は池谷投手にとって今シーズン39本目の被本塁打。2位以下を大きく引き離す、不名誉な断トツのホームラン配球王である。これまでのセ・リーグ記録は昨年の平松投手(大洋)が記録した40本だから記録更新は時間の問題。「だからといって登板しないわけにはいかないし…もう覚悟はしているので開き直って思い切り投げるだけです」と少々ヤケ気味の池谷投手。
王の一発は我が広島市民球場で
" 世紀の本塁打 " をどこで打つのか。あと7本(8月19日現在)に迫った王選手の本塁打世界記録は話題となっているが、23日から地元で巨人戦を控えている広島もその余波を受けている。「ひょっとしたらウチの投手が打たれる場面があるかも」と球団関係者はソワソワしている。だからといって世紀の一発を打たれては困るというわけではないようだ。「勝負だから負けられはしないが記念となる本塁打がこの広島で見られるのは地元のファンにとって幸せだと思う」と関係者は寧ろ歓迎?している。
タイトル
6回途中で雨の為にコールドゲームとなった16日のヤクルト戦。勝ち投手となった高橋里投手は「これぞまさに天の恵み。調子が悪かったので、かわすピッチングに終始したけどそれ以上に雨がかわしてくれたね」とご満悦な様子。この勝利で4連勝の11勝目。ハーラーダービーで13勝でトップを走る安田投手(ヤクルト)を射程圏内に捉える一方で防御率も良くなり「こうなったら両方のタイトルを狙っちゃおうかな」と目を輝かせる。