納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています
行き先を告げず姿消す
実はインタビューを予定していた日には永射投手に会えなかった。彼は宿泊先のホテルのフロントに「すみません、インタビューは明日に変更してください」と私へのメッセージを託して独りで大阪の夜の街に出掛けてしまったのだ。その日(7月31日)は日生球場の近鉄戦に永射投手は先発登板した。序盤からクラウン打線が爆発し7点リードしていたが、3回裏に羽田選手に3ラン本塁打を打たれたところで降板させられた。よほどショックだったのか誰にも行き先を告げず消えてしまった。「彼を許してやってください。悔しさと情けなさで自分が嫌になったんだと思います」と同僚の古賀投手が永射投手に代わって頭を下げた。
私も辛くなってきた。永射投手に会えないのは残念だったが、それより3ラン本塁打を浴びて降板させられ宿舎に帰るなり姿を消した気持ちがひしひしと伝わり気の毒な思いだった。翌日の昼に私は再びホテルを訪ねた。彼のショックはまだ癒えていないはずと思い、私は昨夜の件は口にしないと心に決めていた。顔を合わせるなり永射投手は「昨夜は申し訳ありませんでした」と謝罪した。「曽根崎のスナックで夜中の2時過ぎまで飲んでました」と話す永射投手の表情は意外にもスッキリしていた。いかにも若者らしく爽やかさと生気を取り戻していた永射投手に私はホッとした。
強く印象に残る1勝目
プロ入りは5年前。指宿商からカープに入団した。1年目は1試合に登板し0勝0敗。2年目は20試合に登板したが0勝0敗と結果が出ず、当時の別当監督(現大洋監督)は「今のままじゃ通用しないので投球フォームをサイドスローで投げてみろ」と命じた。左腕でサイドスローは珍しく、小柄な体格のハンデを克服しプロの世界で生き残るにはそれしかないとフォーム改造を決めた。「サイドに変えてみたらコントロールが良くなった。力まずに八分の力で投げても球のキレが良くなりました」と本人も手応えを感じた。だが現実は甘くなく、2年目のオフに太平洋クラブへトレードされたが移籍後も勝ち星をあげることは出来なかった。
やっと勝てたのは昨シーズンの藤井寺球場での近鉄戦で既にプロ入り5年が経っていた。「九州の両親に電話をしました。『よかったな』とうめくように言ってくれた親父の一言を今でも憶えている」と浅黒い顔に思わず笑みが滲み出た。父親は鹿児島県の大浦町で果樹園を経営している。スポーツ一家で父親も2人の兄もマラソンが得意だ。「実は僕もマラソンが得意で高校時代は県大会の駅伝に出たことがあるんです」と。そう言われてみると 身長171cm・体重76kgと小柄な体格の割に足腰と胸板の発達が目につく。そこに強靭なバイタリティが秘められているように思える。
念願を球宴で果たす
今シーズンの永射投手は既に8勝をあげ優勝候補の阪急を抑えて首位に躍り出たクラウン投手陣の貴重な支柱となっている。その左腕はオールスター戦で3連投し、全セが誇る王・張本選手のOH砲をピシャリと封じた。「第1戦で王さんをファーストゴロ、張本さんはセンターフライに抑えた。2戦目は2人から三振を奪い、3戦目はセカンドゴロと四球だった。3連投は批判もあったけど僕は大満足です」と過去5年の苦渋から一気に解放されたかのような活躍だった。「広島時代にワンポイントリリーフで王さんと対戦したんですけど打席の王さんと目が合った瞬間に体がすくんでしまった。まさに雲の上の存在なんです」と当時を振り返った。
その時の登板を含めて王選手に2本の本塁打を許した。「自分の力の無さを思い知らされました。でもいつか絶対にそのお返しはしたいと心に秘め続けてきました。その念願がオールスター戦の舞台で果たすことが出来て嬉しかったです」と感慨深げに話す。子供の頃に西鉄ライオンズに憧れプロ野球選手を目指した少年は、その夢を実現させ栄光のスターダムへの道を力強く歩み出している。インタビューを終えると近くにいた年輩の紳士が「クラウンの永射投手ですよね。頑張って下さい応援しています」と言うと「ハイ、ありがとうございます」と応じる永射投手を見て夢が叶ってよかったなぁと感激した。23歳の若者の将来は無限に広がっている。
大洋の川上哲治招聘の真実性
A記者…来シーズンから横浜に移転することが決まった大洋もミステリーじみた話が多いね。中でも
川上哲治氏の監督就任説には驚いた
B記者…これには根拠があるんだ。横浜スタジアム設立発起人会ができた時に大洋球団の累積赤字を
減らす為に西武グループが資本参加して45%の株式を保有した。それを機にユニフォームの
袖から「マルハ」のマークが消えたことから、いずれ大洋を西武が買収するのではという噂が
広まった。
D記者…でも西武グループの堤義明社長は球団経営には手を出さないと明言していた
B記者…そう。その代わりにV9監督の川上さんを招いて大洋を常に優勝争いが出来る強豪チームに
建て直して欲しいと堤義明社長が球団に要請したと言うんだ
C記者…川上さんが監督になればチームも強くなるだろうし球場経営も成功間違いなしという計算だね
D記者…ファンにとっても楽しみが倍増するだろうね、長嶋監督との師弟対決実現で。ただそうなると
別当監督の立場が微妙になってくる。田代選手や高木選手を育てて、万年Bクラスだった大洋を
勝率5割ラインまで引き上げた功労者だから
B記者…でも今シーズンの別当監督は失政もある。堀本投手コーチの起用だよ。ルーキーの斎藤明投手は
出てきたものの、エースとなるべき奥江・間柴の左右の両輪はサッパリ。理由は堀本コーチの
指導方法だと言われている。
D記者…いやそれはコーチが悪いんじゃなくて投手自身がだらしないんだ。大洋投手陣の伝統だよ
A記者…そうも言えるね。もし仮に川上監督が誕生したら別当さんはヘッドコーチが適任じゃないかな
クラウン勝って鬼頭監督の行方は
C記者…話題をパ・リーグに移そう。例年ならパ・リーグの方が怪談じみた話が多いが今シーズンは静かだね
D記者…前期は本命の阪急が優勝。後期はクラウンの躍進でパ・リーグ人気に火が点いた。本来なら鬼頭監督が
評価されておかしくないのに何故か今季限りの声が多い
B記者…ドローチャー監督の代役にしては長く続いた方でしょ。昨年は前後期ともに最下位。今年の前期も
最下位だったから後期シーズンが良くても来年も任せられるかは疑問だよ
A記者…後任候補は大洋同様に九州(熊本)出身の川上さん、西鉄黄金時代を築いた投打のスター稲尾さんと
中西太さんの名前が挙がっている
B記者…地元では稲尾さんを推す声が多い。中西さんはライオンズを去った時の印象が今でも悪い
C記者…例の黒い霧事件で逃げるようにヤクルトの打撃コーチになった件ね
D記者…鬼頭さんの他にもカネやんの動向が怪しいと耳にしたけど意外だね
A記者…重光オーナーがカネやんが監督に就任する時に「金田くんがロッテを去る時は私が球団を手放す時だ」と
言ったそうだからクビはないだろうけどロッテ本社筋でカネやんの信用は薄れてきている
B記者…話は飛ぶけど川上さんと鶴岡さんがセ・パ両リーグの会長になるかもという噂は聞いた?
C記者…鈴木セ・リーグ会長は高齢だし、岡野パ・リーグ会長は血圧が高く眼底出血の症状が出て、奥さんから
仕事を辞めるように説得されたそうだ
D記者…日本では選手出身の会長は過去にいないけど大リーグは当たり前になっている
A記者…日本のプロ野球界もそういう時代に来ている。この2人の会長さんが誕生するもしないも各球団の
オーナー達の胸算用ひとつ。是非とも実現して欲しいね
お盆の8月は怪談とミステリーの季節。プロ野球界も毎年この季節になると色々な怪談が生まれる。その真打が監督更迭のミステリー。担当記者諸氏にその怪談の出処など話してもらったのだが、その正体は実体はヒュ~・ドロドロ…
阪神・村山監督再出馬難航で吉田安泰?
A記者…お化けの季節だけど球界の幽霊話は聞かなくなったね
C記者…そうでもないよ。元巨人の湯浅投手の話とか
A記者…えっ、本当の幽霊話?
B記者…5年ほど前に急死した湯浅投手の幽霊がよみうりランドの合宿所に現れたって話ね
C記者…そうなんだ。2~3年くらい前から夏になると選手が考えられない怪我をするようになったのも
湯浅投手の祟りじゃないかと。湯浅投手が亡くなったのも夏だったから
D記者…言われてみればそうだね。新浦投手の右目に打球が当たり怪我したのもオールスター戦だったし
B記者…オールスター戦明けのヤクルト戦で河埜選手が背筋痛で離脱し後半戦は2勝4敗と苦しいスタート
C記者…でも巨人のV2は動かないだろうな。追う阪神がだらしない。吉田監督の首が怪しくなってきた
A記者…確かに今年の阪神は強い時は大リーグ級だけど弱い時は草野球並み。情けないよ
D記者…でも吉田監督の評価は本社のお偉いさん筋には受けが良い
B記者…元監督の藤本定義氏も田淵、ラインバックらの怪我は想定外で吉田監督を責めていない
A記者…しかも後任監督に目ぼしい候補がいない。人気では村山さんが一番でフロント陣の評価も悪くないが
村山さん本人にその気がない
B記者…そりゃまた何故?
A記者…村山さんはSSKを退社して自身で運動具会社を興したばかり。社長業と評論家の両立でスケジュールが
一杯だそう。消去法で吉田監督続投となりそうだ。
与那嶺の采配いかに、今年まで?
C記者…さて広島だが古葉監督は遂に8月5日に正式留任が決まった。でもルーツ監督時代の活気は無いね
D記者…トレードの失敗に尽きる。一時は山本一打撃コーチが監督代行になるのではと噂されていた
B記者…開幕前は広島と中日が優勝候補の双璧だった。それが揃って最下位争いするとはね
C記者…与那嶺さんも覚悟は出来てるみたい。ちょうど契約も切れるし潮時だよね
A記者…後見人でもある小山オーナーがバックアップしてるけど新聞業の商売敵である巨人に昨シーズンから
後楽園球場19連敗。今シーズンも2勝11敗1分けじゃ援護のしようがない。
D記者…後任は中利夫コーチの昇格が有力視されているけどネームバリューは今ひとつだし選手間の人気もない
C記者…牧野さん(元巨人)の名前も昨年あたりは盛んに挙がっていたけど、今の収入(推定5千万円)を
手放してまで火中の栗を拾うことはないだろうね
B記者…中コーチ、近藤貞夫氏の他にも地元(岐阜商)出身の森昌彦氏までリストアップしてるそうだ
A記者…森氏は面白いね。評論家としての評判も良いし長嶋政権がこの先も続きそうで巨人では出番が回って
来そうもないし、中日の監督として長嶋巨人との因縁対決は注目を浴びる
C記者…そういえば土屋亨球団総務が今年から東京駐在になったけど、さては森監督への口説き役かと
冷やかされてたね。本人はニヤニヤして肯定も否定もしなかったけど、あとは森氏の気持ち次第だね
D記者…" 森監督 " がお流れになったら高木選手のプレーイングマネジャー昇格も有り得る
「ホエールズ横浜へ移転表明」…川崎市民の反対署名運動も効果なく、大洋球団は横浜移転を決定した。
54万人の反対署名むなしく
大洋ホエールズの横浜移転が本決まりになった。8月2日、大洋球団の横田球団社長が伊藤川崎市長に「前オーナー(謙吉氏)の遺志を継いで横浜市に本拠地を移すことを決めました」と通告した。伊藤市長は移転反対運動の先頭に立っていたのでガッカリした表情のままだった。「川崎市民の心と企業の論理の違いを冷酷無残に見せつけられた思いだ」と市民感情を代弁した。川崎市民はホエールズが横浜に出来る新球場に移転する話を聞いて、なんと54万人もの反対署名を集めた。川崎市民は103万人。その半数を超える人数を巻き込んだのだから凄い。大洋球団は移転通告する機会を幾度か先送りし市民に淡い期待を持たせたが結局、本拠地移転を表明した。
横田社長は球団も企業であるから営業成績を第一義に考えなくてはと語った。川崎に本拠地を置いて以来、22年間ついに儲からない川崎を出て横浜に行くのだという。横浜に移ることは早くから予測されていた。昨秋、西武グループの国土計画が横浜スタジアム建設を発表した際、建設費用の一部を賄うとして一口250万円の指定席を売るにあたって「巨人戦が観戦できます。向こう45年間に渡りセ・リーグの試合を観戦できます」とPRすると250万円×800口が瞬く間に売れた。その時点で大洋球団の横浜移転は決まっていた筈である。そうでなければ計20億円分の詐欺行為になってしまう恐れがあるからだ。
反対運動の中心は川崎市と労働組合だった。「プロ野球が無くなったら川崎には健全な娯楽が無くなってしまう。競輪と競馬の街になってしまう」なにも競輪や競馬が不健全娯楽ということではないが、未成年の子供たちが楽しめるプロ野球ほど市民に浸透していない。去り行くものに対する情の大きさが反対運動を盛り上げたのだろう。「大洋ホエールズは川崎ホエールズだった。選手は川崎市民のシンボルでもあった。昭和35年に優勝した時の感激は忘れられない」と存在して当たり前で普段は気に留めない大洋ホエールズが無くなる寂しさ。プロ野球と市民との繋がりが鮮明に浮き出たフランチャイズ意識の発掘になった。
大洋の代わりにロッテが進出?
8月2日に最終的な決定を川崎市に通告した横田球団社長は「今までお世話になった恩は忘れない。巨人戦も何試合かは川崎球場でやるようにしたい」と話すと伊藤市長は「どうしても出て行くのなら代わりのプロ野球球団を川崎に誘致することに大洋球団も協力して欲しい。巨人戦も川崎球場でより多く開催するよう努力して下さい」と申し入れた。現時点では巨人戦を川崎球場で何試合やるかは決まっておらず、川崎市が納得できる提案を大洋球団が出来るかは未知数である。
一方で他球団の川崎誘致に関してはロッテオリオンズの移転が有力視されている。ロッテは仙台に準本拠地を置かざるを得なくてジプシー生活を送っていたが、これでようやく地の利のいい本拠地を持つことになりそうだ。だが仙台市では早くもロッテ移転反対の声が一部で上がっているが、大洋球団が去る川崎市ほどの動きはない。現実問題として巨人戦がないパ・リーグだけにロッテが去ることに仙台市民の間では運動の盛り上がりは欠けている感じだ。
プロ野球に新時代到来?
新球場の横浜スタジアムの前身は平和球場。それ以前にはルー・ゲーリック球場と呼ばれていて、日本で最初のナイター(進駐軍主催)が行われた由緒ある球場だ。昨年10月以来、改装工事が進められ全面人工芝で観客席を移動させて野球以外のスポーツや催し物にも使用できる3万人収容の総合スタジアムである。スタジアム建設は横浜市と国土計画が主体になって進められている。来年3月20日の完成予定でこけら落としには巨人や阪神を招いてオープン戦を開催する予定だという。
建設主との関係から大洋ホエールズの移転が正式に完了した暁には、オーナー企業が大洋漁業から西武(国土計画)に変更するのではという見方がある。既に大洋球団の株の45%を西武グループが保有しているといわれていることからそういった見方があるのだろう。だが堤義明国土計画社長は「球団経営には全く野心がない」と全面否定している。しかし大洋ホエールズの横浜移転はどこか新時代の到来を匂わせている気がしてならない。
攻守に溌剌プレーのレン・サカタ
大リーグ史上初の日系人選手、ミルウォーキーブリュワーズのレン・サカタ選手(24歳)は連日攻守に大ハッスルし早くもチームの人気者になっている。ただし「日系選手ということではなく、いちプレーヤーとして注目して欲しい」と現状の " ルーツ探し " 喧噪に注文をつける。7月下旬に正二塁手だったドン・マネー選手(30歳)が怪我で離脱した為、3Aのスポーケンインディアンスから大リーグに昇格した。サカタ選手の3Aでの成績は317打数95安打・4本塁打・68打点。昇格直後の7月25日のオリオールズ戦で先発のマルチネス投手から嬉しい大リーグ第1号本塁打を放った。
8月7日、地元カウンティスタジアムでのダブルヘッダー対ブルージェイズ戦で第1ゲームは4打数3安打・1打点、第2ゲームは3打数1安打・1打点と活躍しチームは連勝した。だがチーム状態は良くなく東地区で53勝70敗と勝率5割を下回り首位のレッドソックスから21ゲームの大差をつけられ7球団中6位と低迷している。それでもフレッシュなサカタ選手の話題が影響したのか1万2千人のファンが球場を訪れた。あのベーブルースの本塁打記録を破ったハンクアーロンが在籍していた昨年ですら1万人を割る試合が多かったことを考えるとサカタ選手の人気ぶりが分かろうというものだ。
14日のインディアンス戦では第2号本塁打をマーク。これにはサカタ選手の育ての親であり、かつて太平洋クラブライオンズにも在籍したハワードコーチも「Good Job!」と大喜びした。攻守の中心だったマネー選手が怪我で離脱した時にサカタ選手の昇格を強く推したのが昨年まで3Aのスポーケンインディアンスで監督をしていたハワードコーチだった。身長1m75cm・体重73kg と決して恵まれた体ではないが、こと守りに関してはプレーイングコーチだったレイノルズ選手に鍛えられ「レンの右に出る二塁手はいない」とまでになった。何しろ今巨人で活躍しているリンド選手をブリュワーズから追いやったのはサカタ選手なのだ。
今から13年前の1964年9月1日に " マッシー " こと村上投手(現日ハム)がサンフランシスコジャイアンツでデビューし、大リーグの日系人選手第1号として話題を集めたがアメリカ本土では日系人選手はサカタ選手が最初と認識されており、アメリカンリーグ・ナショナルリーグともに連盟関係者はサカタ選手が日系人選手第1号だと公式に表明している。怪我で戦列を離れていたマネー選手は1ヶ月ぶりに復帰したが二塁のポジション争いに敗れて嫌がっていたDHに回されてしまった。それほど現在のサカタ選手は周囲の信頼を得ているのである。ハワイはホノルル生まれの正真正銘 " 日系人選手第1号 " サカタ選手の活躍ぶりは楽しみである。