「今一番興味があるのは何?」との問いに「UFOですよ。空飛ぶ円盤」「世間の人はこの世には男と女しかいないと思っているけど僕はそうだとは思わない。第3の人間、つまり宇宙人は存在する。案外、江川も宇宙人かもよ」最初は冗談を言っていると思ったが本人はいたって真面目だ。「野球を見物しにUFOが来るんじゃないかと甲子園のマウンドで夜空を見上げる事もよくあるよ」プロ野球選手とUFOとは何とも奇妙な取り合わせだがこうした会話が山本という選手に興味を持たせるきっかけだった。
地味で無口。報道関係者との付き合いも深入りしない。「自分を飾るのが嫌いなんだ。人気商売だから注目されたい気持ちはある、あるけど無理をして目立ちたいとは思わないし、ちゃんとした成績を残せば自然と人は寄ってくる。成績より人気が先行するのは間違っていると思うよ、たとえ人気商売でも」人気球団の阪神では少し活躍しただけでマスコミによって大スターに祭り上げられる事がしばしばある。しかし、その「人気」がいかに儚いものかも阪神一筋11年の山本は知っている。
昭和47年のドラフトで山本は1位指名で阪神に入団した。広島商業2年時にエースとして夏の甲子園大会に出場して注目を浴び、高校卒業時は東京六大学や社会人野球の名門チームからの勧誘を受けたが選んだのは当時はマイナーとも言える亜細亜大学だった。「亜細亜大に行った第1の理由は弱小チームを強くしてやろうと言う反発心で第2は経済的な事。家は経済的に苦しかったから学費免除などの条件が魅力的だった。当時から六大学は学費が高かったからね」昔から強い者に対する反骨精神が旺盛だった。4年生の秋に大学野球選手権大会で優勝し亜細亜大を初の日本一の座につかせるなどプロも注目する投手に成長した。
従来の反骨精神ゆえ「巨人以外のセ球団ならOK」と宣言。最も熱心だったのは中日だったが結果は阪神が1位指名。打倒巨人の宣言通り7月5日の巨人戦でプロ初勝利を飾った。「当時はONが健在でV9真っ只中と強い巨人相手に勝てたのだから鼻高々だった。でもね本心は恐怖心でいっぱいだった。ON、特に打席の王さんに睨まれた時は本当に怖かった。あんな凍りつく様な視線を投手に浴びせる打者はもう現れないいんじゃないかな」
その王にベーブ・ルースを抜く715本目の本塁打を献上している。「あの時は逃げようと思えば幾らでも逃げられた。でも俺の腕が少しも言う事を聞いてくれなかった。馬鹿な奴だと思われるかもしれないけど真正面から立ち向かって打たれたんだから納得している。恥をかくのを恐れて逃げるよりベストを尽くして恥をかく方がマシ、投手は恥を売って生きているんだよ。でもねあの時の打球はライトポール直撃だったでしょ?ホームランになるかファールか、その辺が持ってる運の強さの差だね王さんと俺との」と語る。ちなみに山本がプロ入り後に浴びた本塁打は194本、球質が軽い事もあるが逃げる事を嫌う山本の気質が一番の要因だろう。
一昨年は15勝、昨年は12勝をあげ山本は2千万円プレーヤーの仲間入りを果たした。それでも小林との差は勝ち星・年俸ともにまだ大きい。「恐らく今年が本当の勝負の年になると思うな、コバとは。人間的には好感を持てる男だけどライバルだし今年こそ彼を上回る成績を残したい。そうすればマスコミも少しは俺に注目するでしょ」という言葉の裏には阪神一筋でプレーしながら必ずしも正当な評価を受けてきたとは言えない男の叫びがある。生え抜き選手の中では最古参で自分だけを見つめて来た男が自らの存在を周囲に強く訴え始め出した。久々に生え抜きの安藤監督が就任し新人の自分を鍛えてくれた小山投手コーチが復帰、これまでとはガラリと変わった環境が山本の意識に変化をもたらしたのかもしれない。少し風変わりなプロ野球選手に注目である。
山本投手も好きな選手の一人でした。飄々としたマウンド捌きと、細かい事ですが捕手からの返球を受取る仕草が格好良かったです。普通の投手は返球されるボールをグローブの網の部分か少し下のポケットで捕球するのですが、山本投手はグローブの土手に近い手の平部分でパチーンと音を立てて捕球していました。テレビで観ていても音が聞こえていましたねぇ。マニアック過ぎる話でスンマセン・・・