
◆岡田彰布(阪神)…昨年暮れ第22代監督に就任した安藤監督も「岡田・掛布・佐野でクリーンアップを組みたい」と所信表明し現に開幕オーダーの三番には岡田の名前があった。109安打・ 18本塁打・54打点(1年目)、140安打・20本塁打・76打点(2年目)と順調に成績を伸ばし「3年目の今年こそタイトルを」と周囲の期待も大きかった。しかし開幕2試合目に初アーチを放ったまでは良かったがその後は惨憺たる状態で打率は1割台をウロウロし打順も三番→五番→七番と下がる一方。3月1日に婚約を発表して幸せ一杯の天国から地獄へ突き落された。どちらかと言えば普段から口数の多い選手ではないが野球人生初の大スランプとあって更に口数は減りチーム内での存在感さえ失いつつある。
「岡田はこんなモンだよ」…ある評論家は容赦なく吐き捨てた。「元々プルヒッターの岡田に『やれ右打ちとかチームバッティングを』などと注文し過ぎ」また別の評論家も「岡田に二塁を守らせている間は3割&30本塁打を求めるのは酷。守備の負担が大きい二塁手なら2割5分&20本塁打で御の字」と。確かに今年の岡田は守備に神経を注いでいる。甲子園球場の一・二塁間の芝生を2.9mも後方に刈り込んでもらい守り易くした。本職の三塁には掛布がドンと構えている以上、岡田が阪神でスタメン出場するには二塁手として活路を見い出すしかない。
5月17日の巨人戦で今シーズン初の猛打賞(4安打)と打撃上昇の気配を期待させたが「原が13本も14本も本塁打を打てるのは守り慣れた三塁に固定されているから。気楽な三塁を守っている原がポロポロとエラーしまくっても誰も文句は言わないのは本塁打王争いしている選手に守備の上手さまで求めないから。チームバッティングを強いられ、更に守りまで完璧を要求される岡田は気の毒だよ」との声も多い。
◆島田 誠(日ハム)…昨年の今頃は近所のチビっ子が「サインを下さい」と島田のマンションまで押しかけたがファンは正直だ。怪我に泣き打撃が湿りっぱなしの現在、逸子夫人が子供たちの来襲に悲鳴を上げていたのが嘘のように静まりかえっている。暖かい沖縄の名護キャンプで古傷の右ヒジを痛めたのが躓きの始まり。痛むから右脇が開き、開くから振り切れず速球に詰まり凡打を繰り返す。昨年前期だけで27盗塁した足も宝の持ち腐れ状態。悪い事は重なるもので「打撃がダメなら守備力向上を…」と特守をしているうちに左ヒジまで痛めてしまい満身創痍のままシーズンに突入してしまった。
「古葉じゃね~けどよ、ビンタのひとつも喰らわしてやりてぇよ。あれだけのセンスの持ち主がチョンボばっかりしやがって…」と大沢監督は嘆くが、あるベテラン投手は「あの体格でやるのは大変だと思うけど去年までは怪我をしても直ぐに戻って来た。オフの間にやるべき身体の手入れをサボっていたんじゃないかな。自業自得だよ」と更に手厳しい。打率.179 盗塁4個は昨年、右足を怪我するまで落合や石毛と首位打者争いをし、一時は盗塁王の福本を脅かす存在であった男と同じ選手とは思えぬ成績だ。見かねた大沢監督は8試合も一番から外す荒療治をうったが効果は無かった。
業を煮やした大沢監督が「痛いの痒いのと御託を並べてんじゃねぇ。性根を入れ替えてやらね~とクビだ!」と叱責し一番に復帰させた。「エエ、僕自身にも甘えがありました。一歩一歩借りを返して行きます」と再出発を誓った。その御蔭か阪急戦で山田投手から16試合・33打席ぶりの安打に続き西武戦でも2安打するなど微かではあるが復調の兆しを見せ始めた。「将来は生まれ育った福岡へ帰って子供を育てたい。その為にも広い土地を買わなくちゃならない。こっちで狭いマンションで我慢しているのも将来の為に貯えたいから」最初は住みにくかった東京のマンションも近頃では逸子夫人は住めば都らしく快適に暮らしている。早朝からまたチビっ子たちがサインをねだりに島田家のブザーを鳴らし逸子夫人が「福岡に帰りたい」と愚痴をこぼす日が来るのも近い?
◆柳田 豊(近鉄)…投球の際にピョンピョン飛び跳ねる「ニャロメダンス」が今年はどこか物寂しい。強靭な下半身のバネを生かした特異な投球フォームなのだが「腕の振りと下半身の動きがバラバラで手投げになってしまう…」と柳田は自己分析する。一方で首脳陣は「投球フォームもだが今年は気持ちが空回りしている」とメンタル面を指摘する。
今年の沖縄キャンプは「プロ入りして一番練習をした」と振り返るほど充実していた。開幕投手を念頭に置き質量ともに体をいじめ抜いた。記録上は昨年柳田はプロ12年目にして初めて開幕投手を務めた。だがそれは雨で2試合が流れた末の「補欠の補欠の開幕投手」だった。今年こそ正真正銘の開幕投手を目指しキャンプ・オープン戦を怪我なく過ごし見事にその座を射止めた。しかし7失点で4回KOの憂き目を見る結果に。スタートに躓いた影響は大きく5月21日時点でも勝ち星はゼロと浮上の気配は見られない。もう一人のエース候補だった井本も出遅れているが井本の場合は右肩痛と原因がハッキリしているだけに気持ちの整理はつくが柳田の場合は身体の故障が原因でない分、焦りは大きい。
ハーラートップの久保を筆頭に谷、村田、橘ら若手・中堅投手が踏ん張って優勝戦線に食い込んでいるだけに心中は余計に複雑だ。「自分なりに一生懸命やってきたつもりなのにこんな情けない結果にイライラする」焦れば焦るほど泥沼に嵌っていくのが現状だ。不振打開に縁起担ぎをしないのもまた柳田らしい。「そんな事が通じるのならスランプになるプロ野球選手なんかいるもんか」ただ「他人に後ろ指をさされたくないから」とチーム一の酒豪が遠征先での外出は一切断っている。
◆田代富雄(横浜大洋)…「目標は40本塁打。それをクリアしたら1本づつ積み重ねてタイトル争いに加わりたい」契約更改の席でもキャンプ初日にも、そして開幕前にも同じ台詞を繰り返してきた。自分のバットがチームの浮沈を左右する立場となったプロ入り10年目の決意表明だった。だが開幕から7週間を経て田代の心境は重い。空転とまでは言えないが思い描いていた本塁打数には程遠い。開幕当初は本塁打こそ出なかったが13試合を経過した時点で無安打試合は2試合だけの打率.333 と好調だったが徐々に下降し始め、5月17日現在で打率.202・6本塁打とスランプに陥ってしまった。
技術的には「球を迎えに重心の位置が投手寄りに移動している。だから後ろ足が伸びきって左肩が早く開いてしまいスイングにパワーが伝わっていない(関根監督)」「体の開きが早くてヘッドスピードがつかない(松原打撃コーチ)」と指摘しているが本人も重々分かっていて本人としては修正出来ていると感じているだけに始末が悪い。年間40本塁打をクリアするには3.2試合に1本のペースで打つ必要があるが、現在の5.7試合ペースだと達成は難しい。
新外人・ラムの活躍で活性化した打線に煽られて必要以上に力みが生まれ打撃フォームに僅かな狂いが生じ当たりが止まり、それが焦りを呼び更にフォームを崩し長期間のスランプに陥る悪循環にはまってしまった。しかし、ここへきて立ち直りの兆しが見えてきた。関根監督の何気ない一言「評論家時代から見ていてアイツは1年のうち必ず1ヶ月くらいのスランプになるのは分かっていたから心配はしていないよ」がきっかけだった。「まさに目からウロコだったよ。言われてみれば確かに毎シーズン必ず打てない時期があったんだ。今年は巨人の原クンが快調に飛ばしているのが気になって我を忘れていた。スランプがたまたま今にやって来たんで例年通りじきに打てるようになる、と考えたら気が楽になった」と田代に笑顔が戻ってきた。