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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

#305 若きエース候補たち

2014年01月15日 | 1983 年 



小松辰雄(中日)… 飢えた狼の様なギラついた眼で小松が投げている。まだ肩馴らし程度の投手が多い中、既に連日50~60球も全力投球している。さすがに飛ばし過ぎを心配した権藤コーチがストップをかけても「もうちょっと、あと10球」と投げ続けた。思い起こせば昨年の串間キャンプでは早々に風邪を引いてリタイア。3日ほど休んだ影響はことのほか大きく本調子を取り戻せぬままシーズンに突入したが初登板の広島戦で無惨にKO。悪い事は重なるもので翌日の練習中に右内股肉離れを起こして結局シーズン半分を棒に振ってしまった。昨年はエースとして一本立ちする期待をかけられながらも終わってみればエースの座は都投手に、人気の面でも牛島投手に取って代わられてしまった。

契約更改ではトップバッターを務めたがリーグ優勝の御褒美でアップする選手が続出するなか数少ないダウン更改の憂き目にあった。シーズン当初は先発に起用されたが復帰後は病み上がりの負担を考慮して近藤監督は小松を短いイニングしか使わなかった。しかし今年は先発に戻す事が決まっている。「昨年の優勝は巨人を捻じ伏せて勝ったものではなく勝手に巨人がコケて転がり込んで来たもの。巨人を倒すには江川相手に勝たなくてはならず、それには絶対に小松の力が必要」と近藤監督は連覇のキーマンに小松をあげている。

昨年の二の舞はゴメンとばかりオフの間に扁桃腺除去の手術までして予防措置をしたのだが、風邪だと思っていたのは実はスギの花粉症が原因のアレルギーだった事が判明。山々に囲まれた串間はスギ花粉が大量に舞っていたが今年のキャンプ地は周りが海の石垣市とあって花粉症の心配はなく「ここは天国ですね。今年はクシャミが全く出ない」と調整は順調のようだ。キャンプでは変化球の精度を上げる練習を黙々と取り組んでいる。スピードガンの申し子と言われるだけに直球の威力は申し分ないが制球力と変化球は「並み」もしくはそれ以下で、近藤監督曰く「直球は日本一だが変化球は高校生レベル」と手厳しい。

課題はカーブの制球力向上とフォークボールの完全マスターだ。特にフォークは速球投手には絶対必要な武器で小松も昨年まで投げてはいたがフォークと呼ぶにはおこがましい程度のものだった。そこで先輩の鈴木や牛島に頭を下げて球の握り方から教えを請うた。15日から紅白戦が始まり小松は実戦でフォークを試したいと登板を志願しているが、故障を心配する権藤コーチに「主力クラスが投げるのは20日以降でも遅くない」とストップをかけられている。2年連続開幕投手とエース奪回に小松は南の島で汗を流している。




尾花高夫(ヤクルト)… 尾花ほど手を抜く事をしない若者も珍しいのではないか。手を抜かないというより自分を虐めるタイプと言った方が正しいかもしれない。プロ入り当初は「あんな投手はプロではバッティング投手でも務まらない」と酷評を受けた。実際、PL学園時代は目立たず新日鉄堺時代でも誇るべき実績はゼロ。そんな投手のどこに可能性を見出しドラフト4位指名に踏み切ったのか?「簡単な事ですよ、新日鉄堺・宮崎監督が『尾花はやめろと言うまで練習を続けるんですよ』と言ったのを聞いてコイツは伸びると思ったんです」と片岡スカウトは当時を振り返る。

尾花は「やる事をやって負けたら納得いくじゃないですか。だから練習で手を抜くのが嫌なんです」とサラッと言ってのけるが、その姿勢はプロの集団の中にあってもひときわ目立つようになってきた。甲子園のアイドル・荒木大輔の入団で取材に訪れるマスコミの数が増えて大フィーバーのヤクルトだが尾花はどこ吹く風。「別に荒木の加入で自分の調整法は変わらないし関係ない。それよりもあんなに大騒ぎされちゃ落ち着いて練習出来ないでしょ。気の毒ですよ」 仮に荒木が入団していなかったら若きエースとして自分にもっと注目が集まっていただろう…などとは決して考えない。

昨年の成績は12勝16敗4S 防御率 2.60 と負け数の方が多かった。しかし完投負け7試合中、1点差が6試合もあった。「打線の援護があれば20勝も可能だった」と武上監督。その尾花が虎視眈眈と狙っているのがプロ6年目にして初の開幕投手だ。「投手である限り開幕投手は夢で一度はやってみたい。その経験はこれからの野球人生に必ずプラスになる筈で野球を辞めた後にも残る財産だと思います」と熱く語る。

ユマキャンプではノドの痛みを訴えて練習中に熱を計ると36度7分と平熱だったが「風邪の前兆かもしれない」と早退を申し出た。トレーナーは心配ないと言ったが武上監督は「あれだけ自己管理に厳しい尾花がそう言うのなら風邪に間違いない」と早退を許可した。しかし翌日には早々に復帰しブルペンで110球を投げ込み周囲の心配を払拭した。「今年の目標は20勝」と普段は寡黙な男が熱く燃えている。




津田恒美(広島)… 11勝をあげて堂々の新人王なのだが、口さがない連中は「Bクラス専用投手」と卑下する。確かに対ヤクルト戦5勝、大洋戦5勝、巨人戦1勝で中日と阪神には勝てなかった。上位チーム相手に登板して早い回にKOされると次の対戦を避けたのが勝ち星をあげる事が出来なかった要因の一つだ。ただ対戦相手に偏りが出るのは古葉監督の投手起用法も関係していて先発投手陣は対戦チーム担当制を敷いている。先ずお得意さんを作って勝ちパターンのリズムを整えてから新チーム開拓に向かわせるというもので、この起用法で北別府も一人前に成長し遂に昨年は江川を抜き20勝をあげ最多勝と沢村賞のタイトルを手にした。

もう一つの要因はフォームの癖を見抜かれて球種がバレていた点だ。実は首脳陣は癖を見破られていた事を認識していたが古葉監督が「シーズン中にフォームをいじると故障につながる」として敢えてフォームの修正を行なわなかった。秋季キャンプでは球団OBの長谷川良平氏が付きっきりでフォーム改造に着手した。「どうせフォームを変えるなら制球も良くしたい。今までは直球の威力が増すように、より大きな投球フォームを追及してきた。今度はチカラ任せではなく肩やヒジに負担がかからない省エネでもキレのある球が放れるようなフォームにしたい」と津田も意欲的に改造に取り組んだ。

昨年末には生まれ故郷の徳山に後援会が発足した。社会人時代に在籍した協和発酵のCMにも出演してお茶の間に「カープの津田」をしっかり売り込んでいる。「どうして中日や阪神に勝てなかったのか自分でも不思議に思っています。あまり深くは考えず、たまたま調子が悪い時に対戦したと思うようにしています。新しいフォームに手応えを感じていますので今年こそ各球団まんべんなく勝てる投手になりたいです」と闘志をたぎらせる。あの江川と対等に真正面からぶつかり勝ってこそ初めて大投手への道を歩む事になるのも十分知っている。 "ニュー・ツネゴン" は昨年の新人王候補からエース候補へと着実に進化している。
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