同じく1983年に日本にやって来たバース(阪神)よりも先に三冠王を達成、それも落合(ロッテ)という強敵を倒して。にもかかわらず、阪急という地味な球団に在籍していた為かメディアへの露出も少なく実績の割に評価が低かった選手です。日本での実績では格下のクロマティ(巨人)が運動具メーカーと3千万円でアドバイザリー契約を結んだと聞いて「何で俺にはオファーが無いんだ?」と記者に問うと「阪急だから」とアッサリ言われたそうで…気の毒でした。
本名 グレッグ・ウェルズを「ブーマー」で選手登録した理由、世の中にブームを巻き起こす選手になって欲しい…との思いが実現しつつある。高知キャンプ入りの翌日に早くもフリー打撃に登場したブーマーは、いきなり93スイングで柵越えが21本。その内6本が場外へ消えて行く怪力を見せつけた。隣のゲージで打っていた蓑田や中沢が「冗談やない、こんな化け物と一緒にやってられるか。自分の打球が中学生レベルに感じてやる気無くすわ」と呆れ顔。それも自分のバットは配送が間に合わず他の選手の借り物であったにもかかわらず、まさにピンポン玉のように弾丸ライナーで柵越えを連発した。
「いったい何㍍飛んだんだ?」と報道陣は大騒ぎとなり確認する為に球場関係者から巻尺を借りて球場の外へ飛び出して行った。高知球場の両翼は92㍍、その後方に芝生席があり防御ネットが張り巡らされている。球場の外には駐車場があり、そのまた後方には市営プールがある。地上から高さ8㍍の所にある管理事務所の窓ガラスが割れていて「突然ガラスが割れてビックリした。その後も何球かがプールの中に飛び込んだ。これが夏場で人がいたら…」と話す市営プール職員の顔色は真っ青だった。報道陣とすれば正確な数字を出す必要があり球場周辺の地図を引っ張り出して計算したところ160㍍を軽く超えていた。
「昭和47年のオープン戦で長嶋さんが駐車する車に当たる本塁打を打ったのを見た憶えがありますがプールに飛び込むなんて前代未聞です」と増井球団広報も驚きを隠せない。ひと口に160㍍と言われてもピンとこないかもしれないが後楽園球場に当てはめれば左翼場外にあるスカイタワーに届いてしまう。スカイタワーに乗って景色を楽しんでいるお客さんに直撃なんて事が起こったら一大事だ。「とりあえずは今後の推移を見てからの判断となりますが通行人に当たったりしたら大事故になりますので防護ネットの設置を検討しなくてはいけないかもしれません」とは後楽園球場の丸井支配人。
場外本塁打はめったに出ないだろうがファールボール直撃の可能性は有ると判断して早速、球団は日新火災海上保険の賠償責任保険に加入した。対物1事故当たり1千万円、対人は1人当たり1億円、対人対物は2億円で保険料は30万円と余計な出費がかさむが球団PR宣伝料と考えれば安いものだ。でもこれで一安心と思いきや「保険金目当てにわざと当りにくる良からぬ人に気をつけなくては」と新たな心配も。前代未聞の打球保険だが本場アメリカにも前例は無い。ブーマー本人は「アメリカで打球が当たって死亡したケースは3回くらいあったらしい。でもアイム・ソーリーで済むよ、不運だったのさ」と当初は関心が薄かったが最高2億円と聞いて「場外に飛び出さないように加減して打つから2億円をボクにくれないかなぁ」と羨ましげ。
ブーマーとはどんな男なのか?生まれはアラバマ州で地元のアリバニ大学で健康管理学を専攻したインテリでアデブ夫人は大学の同級生だ。またアメフト選手も兼ねていて実はニューヨーク・ジェッツに入団して2ヶ月ほどプレーした。昨シーズンは3A・トレドでプレーし打率.336 107打点 で二冠に輝きミネソタ・ツインズも将来の看板選手にと期待していたのを阪急が口説き落として獲得した。同じく今年阪急入りしたバンプ・ウィルスの年俸1億円と比べると4千万円と格安。ちなみに両外人をラストネームで登録するとバンプは「ウィルス」、ブーマーは「ウェルズ」となり紛らわしくなるので「バンプ」「ブーマー」とする事になった。足の大きさは30㌢、太もも64㌢、胸囲118㌢、リーチ69㌢、首回り45㌢とどれをとってもビックサイズ。
勿論、人並み外れた体格や怪力を持つ助っ人が日本で必ず活躍出来るとは限らない。これまで来日した助っ人で今もってNo,1 の巨漢選手の称号を持つのは昭和49年に太平洋クラブ・ライオンズに在籍したF・ハワードだが、オープン戦で怪我をしてしまい公式戦では1試合のみ出場しただけで帰国してしまった。外人選手が好成績を残せるかどうかは日本の指導法を押し付けない事にかかっている。外人選手の多くが「完全に集中して打てる回数は40回が限度。時間にして10分程度と子供の頃から教えられてきた」と口にする。そんな彼らに特打ちと称して100回以上打たせるのはプライドを逆なでする事になる。
外人選手の成功には生まれ育った環境や伝統を重んじてその選手の良さを引き出す指導法が必須である。老婆心ながら「ブーマー」には「急に景気良くなったもの」つまりは「にわか成金」「成り上がり者」という意味もある。にわかの成り上がり者は急上昇するが反動で評判が落ちるのも早いのが世の常。キャンプの話題を独り占めする怪人は阪急に5年ぶりの優勝をもたらすのか、或いは超大型扇風機と化すのか目が離せない。
ブーマーには申し訳ないですが個人的には好きになれない選手でした。打席でのルーティーンなのか構える前の一連の動作の中で1球毎に必ず唾を吐くのが生理的に無理でした…