水野・江上(共に池田高)、藤王(享栄高)、野中(中京高)・・・今年のドラフトの人気は甲子園で活躍した高校生に集まっていてスポーツ紙の見出しは少々加熱気味である。しかし彼ら甲子園出場組以外にも実力を秘めた選手は多い。そんな「隠し球」とも言われている選手を紹介しよう。
◆白井一幸(駒沢大学)…灯台もと暗し。「人気の六大学」に対し「実力の東都」と呼ばれているリーグに上位指名間違いなし、と言われている選手がいる。駒沢大学の主将・白井内野手だ。香川県の志度商出身で176cm , 71kg と身体は大きくないが堅実なプレーぶりで小技もソツなくこなして、まさに " ユーティリティープレーヤー " としてスカウト達の評価は高い。「恐らく全球団がマークしていると思いますよ。特に内野手不足に悩んでいる球団はノドから手が出る程の即戦力です(セ・リーグ某スカウト)」が一致した意見。駒大・太田監督も「とにかく真面目な奴で放っておくといつまでも練習している。完璧を求め過ぎて故障しないかヒヤヒヤするくらいだよ」と言うくらいの優等生だ。
監督が心配するのも無理はなく子供の頃から身体は決して丈夫ではなかった。小学校2年の時に破傷風に感染、大学入学後も1年生からベンチ入りしたものの血液に細菌が入り高熱が出る奇病に罹り5ヶ月間も入院生活を送った。また2年生の秋には左手人差し指を骨折しながらもプレーしたが打撃成績2位に終わりタイトルには届かなかった。昨年春には念願の首位打者に輝いたが実はその朗報を聞いたのは病院のベッドの上だった。敗血症で入院していたのだ。そして今秋こそ最後のシーズンだと万全の調整を目指したが夏合宿の練習中にヘッドスライディングをした際に左手小指を骨折してしまった。「もう慣れっこになっているから大丈夫です」と本人は至って鷹揚に構えている。怪我をしやすいのは懸念材料だが逆を言えば少々の怪我では休まないガッツの持ち主であるとも言える。
中学時代は投手、志度商入学後に遊撃手に転向し甲子園を目指したが2年生の夏予選で決勝まで勝ち進んだが敗れたのが最高で甲子園とは縁が無かった。駒大進学後は二塁を主に守り主将を務めるまでになった。駒大では卒業後の進路を夏までに決める習慣だが主将だけは毎年最後のシーズンが終わった後に決める事になっている。なので白井の進路も今は未定だ。本人は「プロ?無理ですよ」と言いながらも周囲の親しい人には「指名されたら是非チャレンジしたい。両親は安定した人生を望んでいるけど最後は僕の意志を尊重してくれる筈」と本音を漏らしている。ただ過去のリーグ戦での長打力不足(通算1本塁打)を不安視する声があるのも事実。またユーティリティープレーヤーゆえに何でも器用にこなしてしまうのが逆に珠にキズ。「走・攻・守のいずれも平均点。何かアピールするものが有れば文句なしの上位指名候補なんだが」と在京パ・リーグのスカウトは本音を吐露した。
◆斎藤敏夫(鶴見工)…彼ほどの鉄砲肩の捕手はプロでもそうはいないだろう。176cm , 75kg のガッシリした体格から放たれる遠投は優に120㍍を超える。「あの肩は天性のもの。鍛えても遠くへ投げられる訳ではなく肩だけで飯が喰えるほど魅力的な選手、是非とも欲しい」と多くのスカウトが鶴見詣でを欠かさない。しかも投げるだけではなく50㍍走は6.6秒と捕手としては速い部類。打撃も1年生から主軸を任され3年生からは四番に座り新チーム結成以降の昨年から今年の春にかけては6本塁打を放つなど順調だった。だが好事魔多し、夏の県予選大会では突如スランプに陥りチームは甲子園に進めなかった。
それでも8月末に行われた神奈川選抜 vs 韓国戦では三番に抜擢されたが結果は4打数1安打に終わり「今はたまたま不調だが斎藤は右にも左にも打てる好打者(片山監督)」とかばったが本人は「打撃は自信ありません…」とションボリ。そんな状況下で進路問題が起きている。進学かプロか、或いは社会人か?両親は「私どもは野球に関しては無知なので本人と学校が相談して決めると思っていますが親としては進学して欲しいです」と語る。社会人となると監督との繋がりで東芝が有力視されている。要は本人次第なのだが「息子は決心がつかないと悩んでいるようです。プロでやっていく自信が無いと言ってました」と母・りえ子さん。
とは言えこれ程の逸材をプロ側が手をこまねいて静観してはいない。「打撃なんて練習すればソコソコのレベルには到達する。山倉(巨人)だって打撃は素人レベルと酷評されていたが今では " 意外性の男 " なんて言われている。何といってもあの肩は魅力」とスカウト達はラブコールを送る。それだけプロでは捕手難時代が続いているのだ。各球団は毎年のように補強を試みているが思うように進んでいない。一人前になるのに最も時間のかかるポジションだけに即戦力に拘らず有望な高校生を指名している。今年も井上(池田高)、仲田秀(興南高)、野村(熊本工)など逸材が揃っている。彼ら甲子園出場組と比較しても関東No,1捕手と言われている斎藤の評価は決して劣らない。
◆比嘉良智(沖縄水産高)…今年は沖縄から3人のドラフト指名選手が出る! との声を多く聞く。もし実現すれば史上初の出来事だが、そうなる可能性は高い。3人とは仲田幸司投手と女房役の仲田秀捕手(ともに興南高)、そして比嘉投手だ。豊見城高を率いて甲子園に沖縄旋風を巻き起こした栽監督が新天地の沖縄水産高で3年間、手塩に掛けて育て上げた文字通り秘蔵っ子が比嘉投手である。「投手の場合、左腕の方が有利と言われているけど比嘉投手は決して左腕の仲田投手に負けてない。それに仲田投手は甲子園で評価を下げちゃったから比嘉投手に乗り換える球団も出てくるかもしれない(ヤクルト・片岡スカウト)」と179cm , 83kg の右腕の人気が上昇中なのである。
比嘉投手の名前がスカウト達のメモに載ったのは今春の九州大会だった。沖縄県大会決勝で豊見城高を破って優勝し九州大会へ。比嘉投手は甲子園出場組の久留米商や興南高を相手に4連投も耐え抜いて沖縄水産高は決勝戦まで勝ち進んだ。決勝戦の相手は強豪・鹿児島実業。雨中の試合となり沖縄水産高は2対3で降雨コールド負けの準優勝だった。負けはしたものの比嘉投手の評価は高まり、夏の県予選大会前の予想では剛腕・仲田投手がいる興南高に勝つのではとの声が多かった。当然の如く予選決勝は沖縄水産高と興南高の顔合わせとなった。比嘉投手は興南打線を5安打・10奪三振と抑えたが試合は1対3で敗れ甲子園出場はならなかった。
池田高の水野投手に対抗して " 沖縄の金太郎 " とも呼ばれている剛腕の周囲はプロか進学か、それとも社会人かと騒がしい。肝心の比嘉本人も進路を決めかねていて色々な情報を各方面から取り寄せており「両親や監督さんとよく相談して決めたい」としている。多くの好投手を育ててきた栽監督は「これまで見てきた投手の中でも素質もパワーも抜きん出ている。私個人の意見としては上(プロ)の世界で充分やっていけるだけの選手だと思っている」とプロ入りを薦める。本人もプロ野球に対して大きな関心を寄せながらも「チームの皆は進学する奴が殆どだし…」と揺れ動いている感じだ。剛腕の将来はプロへと傾きつつあるが最後の一押しはドラフト会議での結果が出てからのようだ。