Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 625 週間リポート・中日ドラゴンズ

2020年03月04日 | 1976 年 



奥さんもビックリの変身ぶり
逆療法で快調に打ちまくる三番・谷沢
三番に入った谷沢選手のバットが毎試合のように猛威を振るい続けている。開幕戦の大洋戦は無安打に終わり自宅に戻った谷沢はテレビを見て大笑いしていた。それを見た敏子夫人は谷沢の変化に驚いた。昨年までの谷沢は自宅でも表情は暗く、何かを思いつめているように夫人は感じていた。それが今年は別人かと思うほど底抜けに明るい。昨年はヒットを打てないと毎晩のように険しい表情で1時間も2時間も素振りを続ける谷沢の姿を見てきた。それが今年は自宅で素振りどころかバットすら握らない。「おかしい。人が変わったみたい(敏子夫人)」と体の不調を心配するのも無理はなかった。

その辺を本人に問うと「ハハハ、そうですねぇ。今までがちょっと深刻に考え過ぎていたんですよ。なすがまま、どうにでもなれという開き直りですかね」と笑い飛ばした。要は逆療法というか気分転換ってやつである。気分転換と言えば今季から背番号が『14』から『41』に変わったが、これも本人からの希望で「デッカイことは良いことだ」という軽い気持ちで申し出た。「僕も今年でプロ7年目。そろそろ何かタイトルを獲らないと忘れられてしまう」と。その気持ちが早いカウントから積極的に打ちにいき、チャンスに有効打を放っている。それが現在の好成績に繋がっているのだ。



先発もいけるぜ、セーブ王
1年ぶりの先発で見事プロ入り初完投の鈴木孝
先発投手陣が総崩れで鈴木孝投手を先発で使えという声が球団内外で日増しに強くなってきていた。そうした声に押されて鈴木の先発起用に消極的だった与那嶺監督も渋々大洋戦に鈴木を先発に起用した。公式戦では異例とも言える予告先発だった。これには図太い神経の鈴木もナーバスになった。昨年の5月5日の対巨人戦以来の先発で、過去3年間で先発した9試合の成績は1勝5敗と決して良い結果は残していない。登板一週間前の広島遠征中に近藤投手コーチに「万全の用意をしとけ」と言われ身震いしたそうだ。本人はきっと前夜は眠れないだろうと心配したが意外にもよく眠れたそうだ。

眠れなかったのは鈴木の故郷の関係者で先発当日の昼頃に母校の成東高の松戸監督から「新聞で先発を知ったのだが結果を恐れず全力でやるんだ」と電話で激励されると「ハイ、分かりました」と答えた。本人はプレッシャーを忘れようと努めているのに周囲は放っておいてはくれない。試合の模様は地元の千葉テレビが実況中継を行なった。実家では父親・武男さんがテレビにかじりついて一球一球を目を皿のようにして見つめていた。「ヤツもやっと一人前の投手の仲間入りが出来た(武男さん)」と喜んだが、母親・はつみさんは怖くてテレビを見ることは出来なかった。

終わってみれば大洋打線に7安打を許したが要所を締めてシピン選手の一発による1失点に抑えて完投勝ちを収めた。これが鈴木にとってプロ入り初の完投勝利で本人以上に味方が驚いた。「前半はちょっとセーブし過ぎかなと思ったけど、走者を出すと気合が入っていた。カーブやフォークの他に今まで投げてなかったスライダーを上手く使ったよ。味方が点を取った後はギアチェンジしたね、大したもんだよ。これは教えたってなかなか出来るもんじゃない」と女房役の木俣捕手も鈴木の潜在能力の高さにビックリ仰天。ただ鈴木の今後について近藤コーチは「あと2~3回テストをしてから考える」と慎重な構えを崩していない。



ナニ!来季は2000万円だと
夢はデッカイぞ新人王・田尾、一発更改でやる気モリモリ
契約更改がスタートして2日目、昼休みが終わる頃から球団事務所に続々と報道陣が詰めかけた。ちょうど来年の球団カレンダーを買いにやって来たファンは何事かと目をパチクリさせた。そこへ現れたのは田尾選手。多くの視線を浴びながら会議室に消えて行った。「30分くらいで終わるだろう」と報道陣は待っていたが、1時間を過ぎても契約更改交渉は終わらない。タバコをスパスパ吸ったり、ああだこうだと雑談をすること1時間30分後にようやく田尾が戻って来た。一斉にテレビカメラのライトが照らされた。「契約更改でテレビカメラがこんなに集まるのは球団初でしょうね」と球団職員も驚いていた。

「はぁ、、サインしました。最初から一発でサインするつもりでしたから…」でも何だか歯切れが悪い。50%アップの420万円(推定)を提示された田尾は粘りに粘った。事前に中日で新人王になった谷沢選手や藤波選手が100%アップした情報を得ていたので、自分も同じくらいのアップ率を望んでいた。「途中で席を立とうと思ったんですが…(田尾)」と保留も頭をよぎったそうだが、球団から1年目の年俸が谷沢や藤波より高く手取り額は田尾の方が上だと聞かされてサインしたのだという。「来年は年俸2000万円を目指して頑張ります。今や2000万円が一流プレーヤーの証ですから」とデッカイ夢を語って球団事務所を後にした。やっぱり田尾は並みの新人とは違います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする