オールスターゲームも終わって、いよいよこれからがペナントレースの正念場となるが、このオールスターでは目に見えない投手戦への前哨戦ともいうべき暗闘があるとか。そこでもうひとつの別の闘いを探ってみると…
またも起こった !? 球宴の駆け引きドラマ
オールスター戦でいつも話題になるのが選手の起用法や各チームの監督・コーチ、そして選手たちの駆け引き。いわば呉越同舟のベンチ内で何とか自チームに有利となる情報や相手をスポイルさせようとする兵法が駆使される。監督3年目にして初めて全セを率いる長嶋監督(巨人)は「今年のセ・リーグの売りは強力打線ですよ。掛布・王・張本のクリーンアップを軸に一番から八番まで切れ目ない打線はセ・リーグ史上最高です」との意気込みとは逆にいざフタを開けたら打線は火を噴かなかった。とかく夢の球宴は選手にとって " 休宴 " でしかないと言われている。つまり激しいペナントレースの前半戦を終え、一息つきたい気持ちにかられるのだろう。
打てないのなら勝つにはパ・リーグ打線を抑えるしかない。そこで長嶋監督としては投手の継投策が腕の見せ所となった。全パの上田監督(阪急)が先発の太田投手(近鉄)を打順五番に入れた。つまり2回を投げ終えた太田投手に代打を起用し切れ目のない攻撃を図ったのに対して長嶋監督はオーソドックスに先発の江本投手(阪神)を九番に起用した。上田監督は投手に打順が回ってくると規定の3イニングなど胸中にないらしく早め早めに投手リレーを行なった。対して長嶋監督は規定を尊重するらしく2回表二死一・二塁の場面で打席が回ってきた江本投手に代打は起用せずそのまま打たせた。
ライバル梶間に自信をつけた
長嶋監督が江本投手を続投させたことに対してネット裏では後半戦開始早々の阪神戦で登板が予想される江本投手の球種や球筋などを吉田捕手に観察させるが狙いだったのでは、という声が聞かれた。だが長嶋監督によると「投手起用については古葉・吉田両監督と相談して決めた」そうで他意はなかったようだ。初戦は貧打戦(セ:7安打、パ:6安打)だったこともあって投手陣の好調さが目立ったのだが、特に0対0の6回裏無死一塁、パ・リーグ打線は加藤選手(阪急)・門田選手(南海)・島谷選手(阪急)と3割打者が続く場面で新人の梶間投手(ヤクルト)を投入したのは長嶋監督の読みがズバリ的中したと言える。
このピンチにルーキーに全てを託す長嶋監督の判断は大きな賭けであった。長嶋監督は現役時代、ビックゲームになればなるほど燃えた男であった。梶間投手も新人離れした強心臓の持ち主。梶間本人は「別に緊張感もなく平気だった」と涼しい顔で加藤選手を中飛、門田選手と島谷選手はともに右飛に打ち取り長嶋監督はご満悦。この梶間投手起用について「広岡監督が一番喜んでいるだろう。もともと度胸のよさは定評があったが、今回の好投で更に自信をつけたのは大きい。巨人を追うヤクルトが長嶋監督のお陰で梶間が一層レベルアップしたら後半戦の巨人は慌てるんじゃないか」と穿った見方をする者もいる。
若さのセ、老練のパに変わった?
今年のオールスター戦の特徴は " 若さのセ、老練のパ " が定着しつつあること。10年ほど前まではセ・リーグは年長者が多かったのに対し、パ・リーグは若手を起用しセ・リーグとの違いをアピールする意気込みだった。だが今年は掛布選手や田代選手のはつらつプレーや梶間投手など新戦力の台頭がめざましかったセ・リーグに比べてパ・リーグは新鮮味に乏しかった。これはパ・リーグが前後期の2シーズン制を採用していることが要因のひとつだという意見がある。つまり短期決戦では計算できるベテラン選手が重宝され、若手を育てながら試合に勝つという余裕はなくなってしまった。だからいつまでたっても同じ顔ぶれのままなのだというもの。
そんな中で第1戦でのクラウン勢の活躍は久しぶりに九州に野球熱が蘇った感じがした。パ・リーグ唯一の得点を記録したのが若菜選手の左翼席への一発だった。中学2年生の時に父親を亡くした若菜選手を親戚縁者総出で赤飯を炊いて球宴出場を祝ったというエピソードは微笑ましい。前期シーズンで2本の満塁本塁打を放つなど低迷するチームの中で明るい話題を提供した若菜選手らしい活躍だった。指宿商から広島に入団したが芽が出ずライオンズに移籍した永射投手も王選手を二ゴロに仕留めた。4年ぶりにやって来たオールスター戦を契機に九州のプロ野球熱が復活するとすれば、この2人の活躍の意義は大きい。
両リーグを通じて最年長出場の野村監督(南海)がセ・リーグの試合前打撃練習を熱心に見入っていると報道陣から「日本シリーズ用の偵察ですか?」と冷やかされたが「老い先短い選手生命だから引退後の解説者用に情報を手に入れようと思ってね」と冗談で返すほどグラウンド内の雰囲気はゆったりしていた。事程左様に昨今のオールスター戦はお祭りだと言われる通り選手間のムードはのんびりしている。前述の江本投手と吉田捕手のようなユニフォームが違うもの同士がバッテリーを組んだからといって投手が自分の手の内を明かすのを嫌って決め球を投げないということはない。