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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 521 死のロード密着ルポ

2018年03月07日 | 1985 年 



もはや " 死のロード " は死語となった。20泊21日の胸突き八丁で緒戦からいきなり5連勝(8月12日現在)だ。バース・掛布を中心とした新ダイナマイト打線の爆発、中西と山本の両ストッパーの踏ん張りでタイガースはひた走る。危惧された長期ロードで快進撃が続く秘密は何なのか?密着ルポから探り出してみる。


長期ロードを目前にしたある日、球団から首脳陣・選手全員に2通の文書が配布された。1通はトレーナーからクーラーや体調管理・食生活に関するもので毎シーズン恒例の事で物珍しさはなかったが、もう1通は球団管理部からだった。これは過去に例のない事で内容は門限厳守の徹底、その為にも点呼を行なうというものだった。「毎年、口頭で注意はしていましたが今回はより徹底する為に文書にしました」と岡崎球団代表は言う。吉田監督も「門限破りを繰り返す者がいたら二軍へ行ってもらう。私生活の徹底管理がこのロードを乗り切る重要なポイントです」と厳しい口調で言い切った。阪神ではこれまでにない管理に選手達の反応は意外にも反発はなかった。

「当然でしょう、野球をやりに行くんですから。このロードの大切さは我々自身が一番よく分かっている。結局は自覚です」と掛布ら主力勢は口を揃える。阪神が優勝争いを繰り広げるようになると写真週刊誌で選手の夜の姿が狙われる機会が増え、球団としても対策を講じる必要に迫られたのも事実だが21年ぶりのリーグ制覇が現実味を帯びてきて選手間にも緊張感が漂い始めたせいで反発が少なかったのかもしれない。つい最近に写真週刊誌に醜聞を報じられた岡田選手は「宿舎でジッとしてますよ」と神妙だ。こうして今季の長期ロードは異例の " 管理ロード " としてスタートを切った。


門限破りゼロ…これまでの所、選手は驚く程おとなしくしている。門限を破る者はおらず、それどころか外出すらしない選手が続出。せいぜい知り合いと食事に行く程度で、呑みに行く選手は稀である。「自分の身体は自分で守らないと。遊び歩いて悪い結果が出て困るのは自分ですから」と若きエース・池田投手。「嶋田(弟)とじっくり話たいと思うんですが若い連中を夜の街に連れ出すのはちょっとね。すっかり酒が弱くなっちゃいました」と笑うのは自他ともに認める酒豪ナンバーワンの中西投手。

電話 " 愛 " 作戦…そんな息が詰まりそうな遠征中の楽しみといえば家族や彼女への電話。木戸や中田ら新婚組は毎日LOVEコールを欠かさない。平田や吉竹の婚約組も勿論だ。甘~い新婚期間は過ぎた掛布の楽しみは愛息・啓悟ちゃん(2歳)との会話だそうだ。「最近は話が出来るようになってねぇ」と可愛くてしょうがないらしい。7月15日に陽集ちゃんが誕生したばかり岡田は「まだ話せないけど、ウ~とかア~とか声を聞くだけでも嬉しい。今の時期は毎日のように顔つきが変わるので遠征から帰った時に顔を見るのが楽しみ。女房には色々と心配をかけたので、もう夜遊びはしていないよと証明する意味でも毎晩の電話は欠かせません」と " 例の一件 " がさすがに堪えたようだ。

掛布のツキ…掛布は食べ物に関する験担ぎを幾つか持っていて、各球場によって試合前に食べるモノを決めている。ナゴヤ球場ではラーメン、神宮球場では天ぷら蕎麦、広島市民球場では必ずコーラを飲む。今季の長期ロードの緒戦となった神宮球場でこの掛布のツキに便乗したのが平田でロッカールームで仲良く二人並んで天ぷら蕎麦をズルズル。すると平田はその試合で2安打した。「ツキを分けてくれた掛布さんアリガトウ」と顔をほころばせたのは言うまでもない。

冗談?も好調…5連勝と好スタートを切った長期ロード。試合に向かうバスの中は和やかなムードが漂っている。神宮球場へ向かう途中、ある主力選手(本人の名誉の為に名前は伏せる)が車窓の外を指差して「それにしてもデッカイ家だな。庭も広いしどんな人が住んでいるんだろ?」と呟いた。一瞬の静寂の後に車内は爆笑の渦となった。その選手が指差した先は皇居だったのだ。本人曰く「冗談だよ」と弁解したが誰も信じていない。

真夏の祭典…毎年このロード中は高校野球真っ盛り。球場へ出発する前の僅かな時間も惜しんで選手達はテレビに釘づけ。母校の日大三高が1回戦負けとなってしまった並木打撃コーチは「打てなかったね。もう少し健闘すると思ったんだけど…」とガックリ。先輩連中から冷やかされるのがPL学園OBの木戸。「皆が僕より桑田や清原の方が有名人だと言うんです」と頭をポリポリ。独り浮かない顔をしていたのが掛布。母校の習志野高が不祥事で出場辞退をしたからだ。「選手が気の毒。今年は強いと聞いていたから残念ですね」としんみり。

笑顔の里帰り…8月10日からの中日3連戦(平和台)を楽しみにしていた選手が何人かいる。福岡県出身の真弓・竹之内・吉竹だ。中でも吉竹はこの日をずっと待っていた。12月7日に結婚を控えており「実は衣装合わせに行くんです。彼女の方は終わっているんですが僕は今回の遠征に合わせてスケジュールを組んでいました。仲人をお願いする松島監督(九州産業高)にも挨拶に行きます。何だか照れくさいです」と顔を赤らめる。仲の良い平田らに冷やかされながら朝早く起きて披露宴を行なう予定の西鉄グランドホテルにいそいそと出掛けて行った。

独身組の実態…初めて一軍の遠征に参加した嶋田弟。「小遣いは5千円しか持って来ませんでした。他にはウォークマンだけ」と初々しい。食事は宿舎で用意されたもので済まして何だか修学旅行気分。「遠征は良いですね。移動は楽だし洗濯も全てやってもらえるし部屋にはクーラーがある。一年中遠征でもいいくらい」と実に明るい。他の和田や月山ら独身組も同じような事を言っている。どうやら独り身には " 死のロード " ならぬ " 天国のロード " のようだ。

唯一の娯楽…外出に関して厳しい姿勢をとる球団も麻雀までは禁止しない。宿舎内に麻雀部屋を設けて楽しめるようにしている。阪神で麻雀好きといえば川藤・佐野・岡田らが有名。今回の東京遠征で岡田はなんと役満の「四暗刻」で上がった。最近この面子に新人の和田と佐藤が加わった。和田はなかなかの腕前らしく「ほとんど負けてないですね。気を遣って勝たせてもらっているのかなぁ(和田)」とうそぶく。また佐藤は黙々と打つタイプで岡田ら先輩諸氏は不気味がっている。「麻雀は性格が表れる。野球にも通じるものがある」と麻雀部屋の主・川藤は語る。

ボス…選手に大号令を発した以上、吉田監督自身も聖人君子のような生活を送っている。たまに知人と会う為に外出する以外は部屋でゆっくり静養している。「今年は毎日のように電話をかけてきます。余程やる事が無いんでしょうね(笑)。テレビを見ていて気付いたのは最近ちょっとお腹が出てきた事。お蔭さまでチームの調子が良いので食欲も旺盛なのでしょうね。今度帰って来たら摂生させます」と篤子夫人。吉田監督以下、今季の阪神にとって " 死のロード " は死語になっている。



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