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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 653 十大ニュース ➌

2020年09月16日 | 1976 年 



❺ 江戸っ子・荒さんのあんまりアッサリしすぎたクビ
ヤクルトの荒川監督更迭はペナントレース序盤最大のニュースだった。突然の休養命令に荒川監督は「闘志は健在だぜ。だけど休めと言われたら仕方ねぇじゃねいか!」と江戸っ子らしく啖呵を切った。その時が訪れるまで荒川監督は何の疑念も抱いていなかった。5月13日の早朝に代々木の荒川監督宅に佐藤球団社長から「ホテルニューオータニで昼食でもどうか?」と電話があった。この申し出に荒川監督は「ハハ~ン、目下5連敗中の実情を聞きたいんだな」と軽い気持ちで快諾した。昼食後のコーヒーを飲みながら佐藤社長は実に言いにくそうに切り出した。「ねぇ監督、しばらく休んだらどうですか?」と。「休む?何故?」と荒川監督が問うと「いや、何となく疲れているようで見ているのが辛いんだよ」これが事実上の解雇宣告だった。

前日の5月12日まで確かにヤクルトは5連敗をしていた。しかし5連敗を喫する前は開幕からまだ1ヶ月足らずで通算10勝10敗4分けと監督が休養に追い込まれるような成績ではなかった。「荒川監督は休養する。今後は広岡ヘッドコーチが采配を振るい代行する」と佐藤社長はロッカーに集めた全選手を前にして発表した。お互いに顔を見合わせる選手たち。余りにも早い監督休養に戸惑いを隠せない。同じ頃、五体健全でピンピンしていた荒川『前』監督は記者たちを前に「オラァ、二度とユニフォームは着ないぜ。5連敗がなんだ!これから10連勝してやろうと思った矢先にこの仕打ちだよ。情けねぇわ」と。情けないのは自分か、それともフロント陣か?

監督休養の荒療治は確かにカンフル剤になるが長続きはせず一時的だ。広岡ヤクルトの初戦は代打・山下選手のサヨナラ打で連敗街道から脱出できたが、シーズンが終わってみたら荒川ヤクルト(3位・4位)を下回る5位だった。時が経つにつれ早すぎた休養劇に仕組まれた筋書きが鮮明になってくる。荒川更迭の決定を下したのは勿論オーナーであろう。ただその前後に系列スポーツ紙が連日に渡り荒川批判を展開した事に他紙のヤクルト担当記者たちはキナ臭さを感じていた。系列紙は5連敗を含む15敗を検証し、投手起用がもう少し上手ければ半分近くが勝てた試合だったと報じ、監督の打者を見る目は一流だが投手に関しては素人同然と切って捨てた。

「傷が大きくならないうちに…」と松園オーナーが決断した。広岡監督代行は6月に正式に監督に就任した。佐藤社長は「契約期間は3年」と発表した。佐藤社長が三顧の礼を尽くして招聘した広岡ヘッドコーチ。実は佐藤社長は最初から監督就任を広岡ヘッドに打診したが「コーチなら引き受けるが監督は断る(広岡)」と言われた為、監督のお鉢が回ってきたのが当時打撃コーチだった荒川前監督だったのだ。実際、荒川監督就任会見の席で佐藤社長は「私は今でも監督には広岡君になってもらいたいが、本人が頑なに断るので…」と言い放った。最初から荒川監督は一種のピエロだった。こうした点と点を結びつけると初めから江戸っ子監督の儚い運命は決まっていたようだ。



❻ 知恵の三原と大沢親分が組んだチビッ子大作戦
観客動員は実に70%増の88万人でパ・リーグ No,1の動員を果たした日ハムのアイデアは殊勲賞もの。日ハムフロント陣はこの結果に自信をつけ、来季は更なる強い方針で臨む。球団事務所の壁には来季の目標が飾られている。❶ 少年ファイターズ会員3万人、❷ 観客動員 120万人、❸ シニアファイターズ会員 1000人、この3大目標達成に向けて既にスタートは切られている。会員募集のダイレクトメールの郵送料金だけで100万円を超えたが、入会申し込みが殺到して担当者はテンテコ舞いで嬉しい悲鳴。刺繍マーク付きの帽子にデニム地のベスト、ファンブックなどの盛り沢山のプレゼントに加えて内野席無料招待券も手にできる。

「純真な子供の心を金で釣っている」「営業的にはマイナスではないか」「観客動員といってもタダ券をばら撒いているだけでは」などの声があるのも事実だが全て的外れである。「チビッ子ファンに的を絞るのは将来を考えての事。現在の野球ファンは圧倒的に巨人ファンです。その好みを一朝一夕に変えるのは難しい。でもまだ好きな球団が定まっていない子供達に良いイメージを持ってもらえれば変えられるかもしれない」と三原球団社長は言う。今季の無料入場者数は全体の15%だった。営業的に採算が取れるのが100万人だからその割合をベースに目標を120万人としたのだ。

「金を使っていると言われるが、使っているのは金ではなく頭です。大リーグではどの球団もプロモート(販売促進)に総経費の1割は計上している。ウチの場合もその程度で金をばら撒いているわけではない」と球団職員は言う。実際に収入が50%アップしているのだから球団の判断は間違っていない。球団では更なる企画を考えている。❶ 球場結婚式:総額は100万円以上かかるがスポンサーを付けて球団の負担は10万円ほど、❷ 開幕戦の始球式で使用する球をキャンプ地の鳴門から少年ファンの手で聖火方式で東京までリレー、❸ 暑い夏場は球場でおしぼりサービス、などなど検討中。

従来の勝てばファンは勝手に尾いて来る的な安易な発想から脱するには若い世代の柔軟な考えが必要になる。「だから今井部長を取締役に抜擢して、より斬新な思考を期待している」と三原社長は言う。こんなフロント陣の努力と同時に大沢監督以下の現場組の努力も大変なもの。「とにかくこちらの無理な注文にも快く協力してもらっている。そうした現場の協力なしでは成功しなかった」と今井取締役は大沢監督に感謝する。様々な催しもだが、サインを求められると快く応じてチビッ子ファンは大喜び。アイデアはこうして生かされ、ようやく日本のプロ野球界にも新しい球団経営方針が育ってきた。



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