去る12月8日、長崎市内の東急ホテルでは時ならぬ地元名士が顔を揃えて『酒井圭一君ヤクルト入り』の大パーティーが開かれた。久保長崎県知事、諸谷長崎市長、長崎市助役、その他長崎財界の大物が顔を揃えた。はるばる東京から駆けつけたマスコミを含めて報道陣はざっと50人、テレビカメラ4台、地元ニュースカメラ6台。ヤクルト・松園オーナーのお膝元とあって長崎では前代未聞の大パーティーだった。そのきらびやかな席で当の酒井は大きな体を小さくして蚊の鳴くような声でインタビューに応じていた。また入団交渉の席で担当スカウトらに「是非とも松園オーナーにお会いしてお願いしたいことがある」と直訴していた父親・酒井義員さんは、お願いを口にするどころか感極まって泣き出してしまった。
一方の松園オーナーは得意満面で酒井親子に対して「契約金は退職金と思わずお父さんが自由に使いなさい。圭一くんにはマウンドで自分の右腕で稼ぐという気持ちを持ってもらいたい」と声をかけられた義員さんは更に大泣きしてしまった。祝福される酒井家側より松園オーナーの方が目立つこととなった。そんな酒井親子を見つめる松園オーナーは意外と苦労した入団交渉を思い出したのか感慨深げだった。相思相愛で交渉はすんなり運ぶものと思われていた。交渉初日こそ挨拶程度で済まし、翌日には条件提示、翌々日には仮契約というのがヤクルト側の算段だった。ところが、豈図らんや契約完了まで実に16日間を要した。
しかも提示した条件が当初の契約金2000万円・年俸240万円から徐々にアップして最終的には契約金は手取り3000万円にまでなった。一時は手取り2800万円で合意しかけたが酒井家側が一夜にして拒否。ヤクルト側が3000万円を了承すると今度は引退後の身分保障を求めてきた。その時は『悪いようにはしない』という口約束でケリをつけたが、交渉は終始酒井家側のペースで行われた。「松園オーナーの『圭一くんの右腕で稼げ』という発言にはその時の皮肉が込められているんじゃないですかね(ヤクルト担当記者)」と。12月11日に外遊を控えた松園オーナーの為に何としても年内に入団発表をしたいヤクルト側の思惑を見事に突いた酒井家側の完勝だった。
手取り3000万円は税込みだと3740万円になる。税金は最初の100万円に対しては10%、次の100万円には20%と段階を踏んで徴収されて計740万円となる。これだけの金額をヤクルト側に負担してもらうことに成功した酒井家だが、実は税金はこれだけではないのだ。契約金を手にするとヤクルト側が負担する740万円の他に来年の3月迄に確定申告をして所得税を納めなくてはならない。今回は3000万円の収入に対し所得税約1200万円が発生するが、源泉徴収で納める740万円を差し引いた460万円を酒井家は納めなければならない。更にほぼ同額の地方税460万円もあり酒井家が3000万円を丸々手に出来るわけではないのである。
華々しいプロ生活をスタートした酒井だが厳しいプロの洗礼が待ち受けている。最近の高卒ドラフト1位選手たちはあまり活躍できていない。数少ない頭角を現した選手は昭和47年の鈴木孝投手(中日)と昭和48年にプロ入りし3年かかって新人王になった藤田投手(南海)くらいで、昭和49年の土屋投手(中日)・定岡投手(巨人)・永川投手(ヤクルト)らはまだまだ期待に応えていない。センバツ大会で優勝した仲根投手(近鉄)は全くの鳴かず飛ばず状態だ。今回の大騒動は酒井本人のあずかり知らぬ事態だが、周りの大人たちの言動に振り回される若者が気の毒なのは間違いない。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます