来シーズンから一軍選手の最低年俸は現行の240万円から360万円にアップされるのが確定的となった。20日、東京・九段のホテルグランドパレスで行われる実行委員会で討議され、来春1月13日、東京で開かれる選手会で正式に決定となる。年俸360万円以下の若手選手にとっては文字通り嬉しい年になりそうだ。
今も生きている最低保障60万円
大洋・松原、阪急・加藤のセ・パ両リーグ選手会長の努力がやっと実る " 嬉しい春 " が来たようだ。これ迄の歴代選手会長は年金問題とこの参稼報酬アップをメインに経営者側との特別委員会で掛け合ってきた。その結果、年金は昨年から8%アップ(最高で年額36万円)に決定し、一軍選手の最低年俸も一昨年から現在の240万円となった。更に今度は松原・加藤選手会長は最低年俸を360万円へアップと同時に、プロ野球選手の『参稼報酬の最低保障(野球協約八十九条)』の倍増(120万円)を要求してきた。『●●選手、年俸倍増!』といった話題がスポーツ紙の一面を飾る一方で野球協約では未だに『最低保障額は60万円(月5万円)』が謳われているのだ。
勿論、今どき年俸60万円といったプロ野球選手は存在しない。だが実際は年俸150万円以下の選手はセ・パ12球団で二軍に20人ほどいると言われている。プロ野球選手は一軍でプレーして初めて一人前の権利を要求できる。二軍の選手はモノ言えぬ存在なのだ。低年俸ではアパート暮らしも苦しく合宿所で食事込みで月額1万円前後の寮費を払い生活している。二軍選手の待遇は12球団様々でヤクルトは昨年に物価高を考慮して最低年俸を180万円(月額15万円)に引き上げた。そして今年は不況手当の名目で一律に年額12万円アップして192万円(月額16万円)とした。「昨今のせちがらい物価高の世の中で選手達に惨めな思いをさせたくないですからね(徳永球団代表)」という思いやりからだ。
巨人も低年俸の選手を対象に一律12%アップを決めた。「現在ウチには150万円以下の選手はいませんが他球団にはいるようです。未だに野球協約で60万円なんて記載が残っていること自体が恥ずかしいことです」「世間の誤解を招かない為にも野球協約の最低保障条項の60万円は抹消すべきだと考えています」と球団フロント幹部は言う。一方で「私は一・二軍の選手にサラリーの格差は必要だと思います。その悔しさが二軍選手を奮起させる。1日でも早く一軍に上がって高い給料を得られるように頑張る筈ですから。必要悪ですかね」と鈴木セ・リーグ会長は言う。
240万円以下ではノンプロ以下!
ところで一軍選手の最低年俸360万円は2年前に240万円が決まった時点で特別委員会に出されていた。これに対して経営者側は「一律に360万円なんてとんでもない。240万円でさえ大きな支出なのに(某球団代表)」と尻込みしていた。とりわけ全6球団が赤字のパ・リーグは240万円も渋面を刻んでの了承だった。それが来季から360万円にアップされる背景には物価高に加えてパ・リーグが2シーズン制による恩恵を考慮した結果だ。前・後期ともに優勝争いをすれば優勝できなくても観客動員は増える。優勝すればプレーオフで更に加算される。またファンサービスの工夫次第で観客を増やせる事は、今季リーグ最多の88万人を動員した日ハムが証明した。
先日行われたドラフト会議で上位に指名された選手の幾人かが入団拒否をした事も経営者側にショックを与えた。特にドラフト前にはプロ入りを表明していた駒大のエース・森繁和投手のロッテ入り拒否が好例だろう。ロッテは1位指名した森に契約金2500万円・年俸240万円を提示したが森は入団を拒否して住友金属へ就職を決めた。森はプロ入りする筈だったのに…と不思議に思った他球団のスカウトが内情を探ってみたら住友金属の大卒初任給は年額240万円だった。「今はノンプロでも支度金の名目で300万円から500万円を用意するのは常識になっている。ロッテと同額の給料なら終身雇用のサラリーマンを選ぶのは当たり前」と話すのは某社会人チームの監督だ。
こうした有力選手のプロ野球離れに巨人軍の山本顧問弁護士は「ドラフト指名選手の入団率が年々悪くなっているのは待遇面、特に年俸の低さにあります。機構側も真剣に考える時だと思います」と冷静に分析する。社会人野球に参加する一流企業なら大学を卒業して10年も勤務すれば年2回のボーナスを含めて年額500万円を超えるサラリーを手に出来る。10年どころか翌年の保障すらないプロ野球。例え最低年俸を360万円に上げてもまだまだ低い。「年俸アップをすれば赤字が増えるとパ・リーグは否定的。黒字球団が多いセ・リーグも利益が減ると後ろ向き。来春の特別委員会では経営者側から選手会に対して何かしらの交換条件を突き付けつる可能性もある(パ・リーグ関係者)」
二軍からの昇格選手は日割りで
また野球協約九十二条で参加報酬の最高25%と定められている減額制限を30%に引き上げるよう経営者側が求める可能性もあるという。現状では選手の同意なしに25%以上を減給した場合は当該選手は移籍の自由が認められている。その移籍の自由条項を撤廃したい経営者側と存続を求める選手会側は対立している。ところで最低年俸を引き上げても経営者側の負担はそれほどではないという指摘がある。というのも360万円未満の選手には一軍登録日数の日割りで支払われるからだ。しかもその日割りの差額(360万円 - 240万円=120万円)分が丸々負担増になるわけではない。
例えば巨人の新人・中畑選手の年俸は240万円。来季も現状維持と仮定し、春季キャンプ・オープン戦で頭角を現し1シーズンを一軍に定着したとする。その場合、中畑が手にするのは差額の120万円ではない。開幕日の4月からペナントレースが終了する11月までの約240日間が実働期間。差額120万円を365日で割ると1日分は約3300円で、実働240日分は79万円余り。これが中畑が手にする額である。何故こういう計算になるのか。実際は2月から11月末までが契約期間であるのだが、選手の給料は便宜的に月給と同じように毎月支払われていて、差額分はこの実働期間に対して支払われるものであるからだ。
王でも他のプロスポーツより安い
それに比べると大リーグの最低年俸は1万8千ドル(540万円)とやはり本場は違う。選手協会の発言力が年々強くなった背景には要求実現の為にはストライキも辞さない強気な交渉術がある。移籍の自由を得たオリオールズのレジー・ジャクソンはヤンキースと5年・300万ドル(9億円)で契約した。片や日本のプロ野球界のベスト5は➊ 王(巨人)5700万円 ➋ ジョンソン(巨人)3900万円 ➌ 田淵(阪神)3800万円 ➍ 野村(南海)3400万円 ➎ 張本(巨人)2800万円 。これ以外の2000万円以上の選手は助っ人を除くと山本浩(広島)くらいで大リーグには遠く及ばない。
日本の他のプロスポーツのゴルフ・ボクシング・レスラー・競馬・競艇・競輪らと比べても野球は低い部類だ。単純計算でも前述のレジー・ジャクソンの年俸は60万ドル(1億8000万円)になる。悲願の打倒巨人を達成し2年連続日本一になった阪急でも " 1千万プレーヤー " がやっとである。しかし明るい兆しはある。阪急の「少年友の会」会員は今季飛躍的に会員数を伸ばした日ハムの1万人を大きく上回る3万人だ。また昨年から入場税法の改正で、一人3000円未満の場合は無税となった。プロ野球の入場料は甲子園球場の巨人戦のグリーンシート席でも1500円と高くなく、税法改正の恩恵を得そうだ。
今季のセ・リーグ全体では907万人を動員した。全球団が赤字のパ・リーグに対してセ・リーグ最低の動員数だった大洋(98万人)でも黒字で全6球団が黒字だった。セ6球団は言うに及ばず、パ6球団の営業担当者も来季の入場料に関して大幅な値上げは考えていないそうだが、球場の観客席や通路・トイレなど設備面を大リーグ並みに改善すると入場料の若干の値上げは有りうる。だとしても2000円程度に抑える事は出来そうでお客さんの足が遠のくことは避けられそう。選手の待遇改善のみならず、ファンサービスの充実など経営者側が行うべき事は数多い。その意味では経営者側の努力が足りないと指摘されても致し方ない。
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