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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 596 契約更改 ➍

2019年08月14日 | 1985 年 



判を押せる最低線で岡田納得
掛布が納得型とするなら真弓は要求型。となると岡田はあっさり型だろうか。2200万円アップの4500万円で更改。「交渉の席でお金の話は5分くらいだった(岡田)」だそうで実にあっさりしている。社長室にいたのも30分くらいで交渉と言うには余りにも淡泊。「自分なりに最低ラインの金額を決めていた。提示額がその額を上回っていたのでサインしました(岡田)」と。掛布のように選手として " 格 " を求めるなら5000万円は欲しい所だが岡田は「まぁ来年には届くんじゃないですかね」と興味はないようだ。シーズン終盤までバースと首位打者争いを演じる働きぶりは賞賛に値する。「ここ2年間は足踏みしてたから。そうじゃなかったら今頃は5000万円は超えてたろうね(岡田)」と振り返る。

最近は右太腿の故障に悩まされ満足いくシーズンを送れず契約更改では苦い思いしかなかった。しかも選手会長としてチーム全体の事を考えて球団側と交渉しなければならず自分の事は後回しだった。「選手会長として球団と色々な話をしましたよ。自分の事だけでカリカリするのはもう嫌ですからね(岡田)」となるべくなら年俸の話はしたくないようだった。結局、ビッグ3は揃って大満足な契約更改ではなかったようだが3人が更改すれば他の選手も保留しづらく、越年は佐野選手と工藤投手の2人だけ。阪神一筋の生え抜きで共に真面目人間。佐野が現状維持の3200万円、工藤は100万円ダウンの1750万円を保留した。今回の波乱なき契約更改はビッグ3の性格を読んだ球団側の作戦勝ちだった。


川藤の逆転残留に阪神らしさ
金銭闘争である以上、球団側も全ての選手の言いなりという訳にはいかない。相対的に見て今回は球団側の勝利と言えるだろう。しかし多くの選手がアップしたのも事実で例として1000万円プレーヤーを挙げると、中西・平田・木戸・吉竹・北村・伊藤・中田・長崎・真弓・池田・福間・山本・永尾・岡田・野村・弘田・掛布(佐野・工藤は未更改)と19人で、これは12球団トップで南海球団の倍の人数となる超豪華球団だ。これにバースやゲイルを加えるとベンチ入り25人中、21人が1000万円プレーヤーというリッチぶり。今でこそ一流プレーヤーの証は3000万円と言われているが、庶民からすればやはり羨ましい限り。野球で日本一となった阪神は給料の面でも日本一球団になった。

もう一つ、いかにも阪神らしい更改があった。川藤選手である。吉田監督以下、コーチ陣の戦力検討では川藤については来季の戦力として入らないとの結論で吉田監督直々に川藤本人に伝えられた。36歳、代打一筋に生きてきたが今季は31打席で僅か5安打。首脳陣の結論を待つまでもなく周囲は今季限りで引退と考え、在阪のマスコミ各社は引退後の評論家としてのオファーをする準備を整えていた。日本一というこれ以上ない花道。いかにも浪花の春団治に相応しい引き際の筈だった。ところが涙の引退劇を取材するべく球団事務所に集まった報道陣を前に川藤は「サインしました。来年も頑張ります」と堂々の現役続行宣言。記者達は吉本新喜劇ばりにドテッとズッコケた。

当然、岡崎球団社長から引退を通告されたが「命をかけてやります!」の一言で川藤のクビはつながった。年俸は300万円ダウンの900万円で更改。今季は5安打だったのでヒット1本につき180万円也で、なんと球界一の " 高給取り " となったのだ。まさに阪神ならではの話である。監督が戦力外と判断しフロントも解雇を通告するも「命を…」で覆ってしまうとは大阪商法というか、これが巨人や西武だったら絶対に有り得ない話である。世間の注目を集めた今回の契約更改は笑いと涙と最後に驚きと何でも有りの成功裏に終わった。とにかく阪神は12球団一のリッチぶりを全国に示した。選手も球団も満足し、しかも西武の契約更改で垣間見られた冷酷さは微塵もない。「来年も優勝や!」選手達は心から思ったに違いない。

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