ちょうど1年前、おなじ会場では
「フェルメール 光の王国展 in SAPPORO」
が開かれていました。
この複製画展は、やる意味があるのはすぐに分かります。
フェルメールの作品は全世界にある分をあわせても30点もないし、しかもそれらが一堂にそろう可能性は限りなくゼロに近いです。だったら、複製を集めて全点展覧会を開くのも、夢があって良いでしょう。
しかし、葛飾北斎の複製とはこれいかに。
浮世絵は版画ですから、複数の刷りがあります。
ですから、北斎の本物の代表作を集めて展示することは、少なくともフェルメールにくらべれば、はるかに容易なことでしょう。
にもかかわらず、なぜわざわざ複製を作るのか。
実は、浮世絵の保存状態というのはピンからキリまであり、美術館の所蔵品だからといって、北斎当時のような刷りを私たちが見ているとは限りません。
カンバス(布地)に描かれ、気をつけて管理すれば何百年も長持ちする油絵に比べると、特に丈夫でもない紙に刷られた浮世絵は、虫食いや褪色にやられやすいのです。
であれば、全国の状態の良い刷りを選び、色の補正を最新のデジタル技術でほどこせば、北斎が世に問うた当時の、みずみずしい色彩を、むしろ本物よりもしっかりと鑑賞することができる。こういうわけなのでしょう。
たとえば、あまりにも有名な「神奈川沖浪裏」。
これは会場で撮った写真なので、人の姿などが反射しているのですが、それを差し引いても、空の淡い黄色がはっきりとわかります。
この空の色は、これまで刷りによっては、紙の黄ばみと一体化してちょっと認識しづらいこともあったのではないでしょうか。
この作品では、大きな波と富士山、舟が着目すべきところであるのはいうまでもありませんが、画面の半分近くを占める空も、さすが北斎は手を抜いていないことが、筆者は初めてわかりました(これまで不勉強だっただけかもしれませんが)。
ところで、今回出品されているのは54点。
「諸国瀧廻り」が8点。「冨嶽三十六景」が46点。
この二つにしぼったのは、思い切ったやりかたで良いです。
それはいいのですが、びっくりしたのは大きさです。
原画の大きさにくらべ、小は10%、中は50%、大は90%も拡大しているのです。
たしかに浮世絵は、展覧会場に飾るのには小さいです。
人の頭がじゃまになりがちな、混雑する東京の会場を想定すれば、なおさらでしょう。
しかし、だからといって、実物よりも拡大するというのは、リ・クリエイトだからといって、どうなんでしょう。
見やすくはなりましたが、やはり線の粗さが目に入ってきてしまいます。
しかも、版画が刷られた紙は、額のなかでピンと立っています。本来の紙よりもかなり厚い紙のようです。
ふらっと見るにはよいのかもしれませんが、それなら家で画集を見ていてもあんまり変わんないんですよね。
まあ、サイズが違えば、あとで本物じゃないってことがすぐわかって、便利かもしれませんけど。
なお、この両シリーズ以外の作品や北斎の生涯については、十数枚のパネルにまとめてあり、これまた潔いなと思いました。
岩波新書の「北斎」をまとめたものだそうなので、筆者はさっと眺めただけですが。
また、会場のおしまいには、実際に江戸時代に使われていた紙に刷った版画をつづったものもあり、これは触覚で浮世絵の世界に親しめる良いコーナーだと感じました。
不思議なのは、学術監修の大久保純一さん(『北斎』の著者)さえいればいいと思うのに、総合監修・福岡伸一、総合プロデューサー伊東順二、総合芸術監督・千住博、音楽・葉加瀬太郎の名がクレジットされていること。
べつにこういうの、いらないんじゃないでしょうか。ハクつけの名前が4人というのは、いくらなんでも多すぎでは。
2016年12月9日(金)~17年1月3日(火)午前10時~午後5時(入場~4時30分)
プラニスホール(札幌市中央区北5西2 札幌エスタ11階)
一般800円、ぶんぶんクラブ会員700円
□あっぱれ北斎! 公式サイト http://msbrain.net/hokusai/
参考リンク
プラニスホール(札幌エスタ11階)に行く、たったひとつのさえたやり方
「フェルメール 光の王国展 in SAPPORO」
が開かれていました。
この複製画展は、やる意味があるのはすぐに分かります。
フェルメールの作品は全世界にある分をあわせても30点もないし、しかもそれらが一堂にそろう可能性は限りなくゼロに近いです。だったら、複製を集めて全点展覧会を開くのも、夢があって良いでしょう。
しかし、葛飾北斎の複製とはこれいかに。
浮世絵は版画ですから、複数の刷りがあります。
ですから、北斎の本物の代表作を集めて展示することは、少なくともフェルメールにくらべれば、はるかに容易なことでしょう。
にもかかわらず、なぜわざわざ複製を作るのか。
実は、浮世絵の保存状態というのはピンからキリまであり、美術館の所蔵品だからといって、北斎当時のような刷りを私たちが見ているとは限りません。
カンバス(布地)に描かれ、気をつけて管理すれば何百年も長持ちする油絵に比べると、特に丈夫でもない紙に刷られた浮世絵は、虫食いや褪色にやられやすいのです。
であれば、全国の状態の良い刷りを選び、色の補正を最新のデジタル技術でほどこせば、北斎が世に問うた当時の、みずみずしい色彩を、むしろ本物よりもしっかりと鑑賞することができる。こういうわけなのでしょう。
たとえば、あまりにも有名な「神奈川沖浪裏」。
これは会場で撮った写真なので、人の姿などが反射しているのですが、それを差し引いても、空の淡い黄色がはっきりとわかります。
この空の色は、これまで刷りによっては、紙の黄ばみと一体化してちょっと認識しづらいこともあったのではないでしょうか。
この作品では、大きな波と富士山、舟が着目すべきところであるのはいうまでもありませんが、画面の半分近くを占める空も、さすが北斎は手を抜いていないことが、筆者は初めてわかりました(これまで不勉強だっただけかもしれませんが)。
ところで、今回出品されているのは54点。
「諸国瀧廻り」が8点。「冨嶽三十六景」が46点。
この二つにしぼったのは、思い切ったやりかたで良いです。
それはいいのですが、びっくりしたのは大きさです。
原画の大きさにくらべ、小は10%、中は50%、大は90%も拡大しているのです。
たしかに浮世絵は、展覧会場に飾るのには小さいです。
人の頭がじゃまになりがちな、混雑する東京の会場を想定すれば、なおさらでしょう。
しかし、だからといって、実物よりも拡大するというのは、リ・クリエイトだからといって、どうなんでしょう。
見やすくはなりましたが、やはり線の粗さが目に入ってきてしまいます。
しかも、版画が刷られた紙は、額のなかでピンと立っています。本来の紙よりもかなり厚い紙のようです。
ふらっと見るにはよいのかもしれませんが、それなら家で画集を見ていてもあんまり変わんないんですよね。
まあ、サイズが違えば、あとで本物じゃないってことがすぐわかって、便利かもしれませんけど。
なお、この両シリーズ以外の作品や北斎の生涯については、十数枚のパネルにまとめてあり、これまた潔いなと思いました。
岩波新書の「北斎」をまとめたものだそうなので、筆者はさっと眺めただけですが。
また、会場のおしまいには、実際に江戸時代に使われていた紙に刷った版画をつづったものもあり、これは触覚で浮世絵の世界に親しめる良いコーナーだと感じました。
不思議なのは、学術監修の大久保純一さん(『北斎』の著者)さえいればいいと思うのに、総合監修・福岡伸一、総合プロデューサー伊東順二、総合芸術監督・千住博、音楽・葉加瀬太郎の名がクレジットされていること。
べつにこういうの、いらないんじゃないでしょうか。ハクつけの名前が4人というのは、いくらなんでも多すぎでは。
2016年12月9日(金)~17年1月3日(火)午前10時~午後5時(入場~4時30分)
プラニスホール(札幌市中央区北5西2 札幌エスタ11階)
一般800円、ぶんぶんクラブ会員700円
□あっぱれ北斎! 公式サイト http://msbrain.net/hokusai/
参考リンク
プラニスホール(札幌エスタ11階)に行く、たったひとつのさえたやり方