
シルクスクリーンの版画や染色の分野で多くの人材を創り手を輩出してきた道都大中島ゼミの展覧会。
56回というすごい回数になっているのはかつて年に複数回開いていたためです。
このゼミ展以外にも「ナカジテクス」「ナカジプリンツ」と題した小品即売会や、学生の2人展なども数多く開かれており、ゼミ生は精力的に制作に取り組んでいます。
「版と型をめぐって」と題したゼミ展は、近年は12月に札幌市民ギャラリーで、学生5人をピックアップして個展形式で展示し、他の学生やOBをグループ展で展示するというパターンになっています。
その5人は、
板谷有実子、小林ちほ、瀬川綺羅、田中咲、棚上吉
このうち瀬川さんと田中さんは昨年の第55回でも個展形式で発表しています。
5人のうちシルクスクリーンを手がけているのが2人だけというのも、自由なこのゼミらしいところです。
なお、冒頭画像は、指導教授の中島義博さんが自らの飼い猫をテーマにした「カエッテキタヨ」です。

板谷さんは「天気」「気候」がテーマ。
シルクスクリーンで刷った「くもりのち晴れ」などの作品を、洋傘に仕立てました。骨の部分は市販のビニール傘を流用しています。
たしかに、傘というものは日常生活をおくるのに欠かせませんが、透明なビニール傘や紺色・黒の傘ばかりではつまらないです。ただでさえ気分が重くなりそうな雨降りの日に、こんな明るい色づかいの傘があると、外出も楽しくなりそう。
板谷さんは「防水は一応ためしてみましたが、日傘で使うのもいいかなと思います」と話していました。
ほかに、カーペット用の厚い布に刷った作品もありました。

ギャラリー犬養の個展でショッキングな題材の絵画を多数発表してきた田中さん。
今回は正面の壁に、200号はありそうな「樹胎 II」という絵を、木枠も額装もなしに直接貼り付けています。
焦げ茶色の土の中に、白く細い根が伸び、その下に裸婦が横たわっています。周囲には、毛虫やモグラ、アンモナイトなどが配されています。この女性は行きながら埋葬されているのでしょうか、それとも土の中から新たな生命を得て生まれ出ようとしているのでしょうか。
会場には題のない作品もあり、散らかった部屋の中で首のない人物が、人間の頭部を、長い髪をつかんで振り回している絵や、バレリーナの格好をしてベンチに座った女の手前で、男が首をつっている(ただし胸から上は描かれていない)絵もありました。
「はんぶんちょ」は、女が、正座している男の頭頂部にナイフをあてて彼を縦に二つに切り分けようとしている場面です。
グロテスクな作品が多く、画家の気持ちがひりひりと伝わってくるようです。

棚上さんは5人のなかで唯一、オーソドックスな版画作品を展示しています。とはいっても、エディションを見るとすべて1/1で、いずれもモノタイプのようです。
紙版画のような画肌の「はんぱもん」、淡い色合いの「知らないことを知る」など、多様な作風です。
「なにかありそうだから立ってる」は、題の通り人物3人が立っている様子を描いていますが、画面のあちこちでめまぐるしく交錯するモノトーンの濃淡がダイナミックな雰囲気を画面にあたえています。

小林さんのペーパークラフトは美工展でも見ましたが、驚くほどの精緻さです。
たいていの人はその細かさを人物などの描写に用いがちですが、彼女は抽象的な文様に仕立てたり、あるいは具象的な絵でも、全面を細かい切り絵で埋め尽くすのではなく、ここぞというところに集中して使うので、見た目にメリハリというか、インパクトが生まれるのだと思います。
たとえば「大きな声」は、ヒマワリの花々を図案化し、花の中だけを細かい文様で埋めています。
画像は「線リンゴ」「コピーリンゴ」「石目リンゴ」の3部作。
同じ図柄で、中央のリンゴの表現方法だけを、細い線の集積にしたり、網目模様にしたりしています。
これには、筆触で空間とモノを表現するあたらしい絵画を生み出そうとしたセザンヌもびっくりではないでしょうか。

瀬川さんも絵画で、昨年はグループ展12回、個展3回という恐ろしいほどの活動ぶりでした。
淡々とした筆致の人物画が中心ですが、人の腕をなめる女を描く「這う舌」、黒い目隠しをした女の顔がモティーフの「赤い感覚」など、どこかエロチシズムをたたえているのが特徴です。
正面の壁にある、最も大きな作品は「日々のあなた」。両手の指と指をつないでつくった空隙の隙間から、寝転がりながら靴下をはく女などをのぞいて見る―というふしぎな構図です。
このほか、ナガイユカリさん、かとうちひろさん、吉永眞梨香さん、安井智美さんがシルクスクリーンの布作品を並べた部屋も見応えがありました。
吉永さんの「メジロとレモン」「ヒトデと洗濯ばさみ」は、似ていないようで似ている二つのモチーフを散らして並べたところがおもしろいです。
2016年12月6日(火)~11日(日)午前10時~午後6時(初日は午後1時~)
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
・地下鉄東西線「バスセンター前駅」から約200メートル、徒歩3分
・ジェイアール北海道バス、中央バス「サッポロファクトリー前」から約520メートル、徒歩7分(札幌駅バスターミナル、時計台前などから現金のみ100円)
・周辺にコインパーキングあり
□中島ゼミのFacebookページ https://www.facebook.com/nakajimazemi/
■田中咲個展「お部屋」 (2016年8~9月)
■田中咲個展「いる」 (2015年9月)
■第7回有限会社ナカジテクス (2016年4月)※瀬川さん出品
56回というすごい回数になっているのはかつて年に複数回開いていたためです。
このゼミ展以外にも「ナカジテクス」「ナカジプリンツ」と題した小品即売会や、学生の2人展なども数多く開かれており、ゼミ生は精力的に制作に取り組んでいます。
「版と型をめぐって」と題したゼミ展は、近年は12月に札幌市民ギャラリーで、学生5人をピックアップして個展形式で展示し、他の学生やOBをグループ展で展示するというパターンになっています。
その5人は、
板谷有実子、小林ちほ、瀬川綺羅、田中咲、棚上吉
このうち瀬川さんと田中さんは昨年の第55回でも個展形式で発表しています。
5人のうちシルクスクリーンを手がけているのが2人だけというのも、自由なこのゼミらしいところです。
なお、冒頭画像は、指導教授の中島義博さんが自らの飼い猫をテーマにした「カエッテキタヨ」です。

板谷さんは「天気」「気候」がテーマ。
シルクスクリーンで刷った「くもりのち晴れ」などの作品を、洋傘に仕立てました。骨の部分は市販のビニール傘を流用しています。
たしかに、傘というものは日常生活をおくるのに欠かせませんが、透明なビニール傘や紺色・黒の傘ばかりではつまらないです。ただでさえ気分が重くなりそうな雨降りの日に、こんな明るい色づかいの傘があると、外出も楽しくなりそう。
板谷さんは「防水は一応ためしてみましたが、日傘で使うのもいいかなと思います」と話していました。
ほかに、カーペット用の厚い布に刷った作品もありました。

ギャラリー犬養の個展でショッキングな題材の絵画を多数発表してきた田中さん。
今回は正面の壁に、200号はありそうな「樹胎 II」という絵を、木枠も額装もなしに直接貼り付けています。
焦げ茶色の土の中に、白く細い根が伸び、その下に裸婦が横たわっています。周囲には、毛虫やモグラ、アンモナイトなどが配されています。この女性は行きながら埋葬されているのでしょうか、それとも土の中から新たな生命を得て生まれ出ようとしているのでしょうか。
会場には題のない作品もあり、散らかった部屋の中で首のない人物が、人間の頭部を、長い髪をつかんで振り回している絵や、バレリーナの格好をしてベンチに座った女の手前で、男が首をつっている(ただし胸から上は描かれていない)絵もありました。
「はんぶんちょ」は、女が、正座している男の頭頂部にナイフをあてて彼を縦に二つに切り分けようとしている場面です。
グロテスクな作品が多く、画家の気持ちがひりひりと伝わってくるようです。

棚上さんは5人のなかで唯一、オーソドックスな版画作品を展示しています。とはいっても、エディションを見るとすべて1/1で、いずれもモノタイプのようです。
紙版画のような画肌の「はんぱもん」、淡い色合いの「知らないことを知る」など、多様な作風です。
「なにかありそうだから立ってる」は、題の通り人物3人が立っている様子を描いていますが、画面のあちこちでめまぐるしく交錯するモノトーンの濃淡がダイナミックな雰囲気を画面にあたえています。

小林さんのペーパークラフトは美工展でも見ましたが、驚くほどの精緻さです。
たいていの人はその細かさを人物などの描写に用いがちですが、彼女は抽象的な文様に仕立てたり、あるいは具象的な絵でも、全面を細かい切り絵で埋め尽くすのではなく、ここぞというところに集中して使うので、見た目にメリハリというか、インパクトが生まれるのだと思います。
たとえば「大きな声」は、ヒマワリの花々を図案化し、花の中だけを細かい文様で埋めています。
画像は「線リンゴ」「コピーリンゴ」「石目リンゴ」の3部作。
同じ図柄で、中央のリンゴの表現方法だけを、細い線の集積にしたり、網目模様にしたりしています。
これには、筆触で空間とモノを表現するあたらしい絵画を生み出そうとしたセザンヌもびっくりではないでしょうか。

瀬川さんも絵画で、昨年はグループ展12回、個展3回という恐ろしいほどの活動ぶりでした。
淡々とした筆致の人物画が中心ですが、人の腕をなめる女を描く「這う舌」、黒い目隠しをした女の顔がモティーフの「赤い感覚」など、どこかエロチシズムをたたえているのが特徴です。
正面の壁にある、最も大きな作品は「日々のあなた」。両手の指と指をつないでつくった空隙の隙間から、寝転がりながら靴下をはく女などをのぞいて見る―というふしぎな構図です。
このほか、ナガイユカリさん、かとうちひろさん、吉永眞梨香さん、安井智美さんがシルクスクリーンの布作品を並べた部屋も見応えがありました。
吉永さんの「メジロとレモン」「ヒトデと洗濯ばさみ」は、似ていないようで似ている二つのモチーフを散らして並べたところがおもしろいです。
2016年12月6日(火)~11日(日)午前10時~午後6時(初日は午後1時~)
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
・地下鉄東西線「バスセンター前駅」から約200メートル、徒歩3分
・ジェイアール北海道バス、中央バス「サッポロファクトリー前」から約520メートル、徒歩7分(札幌駅バスターミナル、時計台前などから現金のみ100円)
・周辺にコインパーキングあり
□中島ゼミのFacebookページ https://www.facebook.com/nakajimazemi/
■田中咲個展「お部屋」 (2016年8~9月)
■田中咲個展「いる」 (2015年9月)
■第7回有限会社ナカジテクス (2016年4月)※瀬川さん出品