北海道美術ネット別館

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■第29回 書鳳展 (2018年7月4~8日、札幌)

2018年07月07日 23時51分03秒 | 展覧会の紹介-書
 札幌で書展が開かれる会場といえば、札幌市民ギャラリーとスカイホールの二つが圧倒的に多い。
 スカイホールは大丸藤井セントラルの7階で立ち寄りやすいので、習慣的に見ることが多いが、市民ギャラリーの書展は知らないうちに終わっていることがよくあった。今年は、意識して足を運ぶようにしているが、実際は市民ギャラリーの社中展は規模が大きく、見ごたえがある場合が多いのだということがようやくカンの鈍い筆者にもわかってきた。

 北海道教育大の学生による「七月展」を鑑賞しに行った際に見た書凰展も、筆者の目にはなかなか面白かった。漢字、かな、近代詩文と、分野・作風ともにこれほど幅広い社中展も珍しいのではないだろうか。
 北海道書道展の際も述べたが、ほんらい自由な展開ができそうな近代詩文書が近年、いささか形にはまりつつあるきらいがある。しかし、書凰展の近代詩文書はとてもバラエティーに富んでおり、このジャンルの活性化が始まるとしたら、ここからではないかと思ったほどだった。
(まあ、主宰の我妻緑巣さんが2014年、老子を題材に書いた個展での達成を思えば、当然といえば当然である)

 たとえば長谷川翠柳(札幌)「壊れたピアノ」は、ろうを使って書いた作品で、白地に白い文字が浮き出ているように見える異色作。
 柴田美鳳(同)「12345678」は、左から右に数字だけを太い線で連ねた。
 井川静芳(同)「花ふる音がききたいとあなたは窓に耳をよせる」、小川奏琴(名寄)「なみだはにんげんがもっているいちばん透明な宝石です」は、モダンな書きぶりと巧みな余白の取り方が目を引く。しかし運筆に軽薄さは感じられない。
 川原薫(岩見沢)「エリカ小さな花びら」は、可読性という視点でみるとちょっとつらいが、墨色やにじみは、なかなか他では見られないおもしろさを持っている。
 小山裕子(札幌)「こころまでほどける呼吸」は、小ぢんまりした作だが、左右の余白のとり方があまりにも大胆で驚く。

 我妻緑巣(同)「五嵐十雨」は、細く、力の抜けた線質がおもしろい。良寛を意識していると思われるが、構成の感覚は現代的。

 西野信之(同)「北魏という北方からやって来た民族…」は、井上靖の散文詩だろう。
 井上靖の詩は、金子鷗亭(鷗は鴎の正字)が取り上げることで、近代詩文の出発点となった20世紀の書の歴史では重要な文学作品だが、最近はあまり取り上げている人が(少なくても道内では)あまりいないようだ。あらためて見直して、散文詩というスタイルが実は近代詩文書向きであることを確かめてみてもいいのではないかと思った。

 さらにいえば、漢字交じりのかな書と、いわゆる近代詩文のあいだの垣根が低いのもこの会の特徴だと感じた。
 かと思えば、ベテランが今一度基本を確認するように漢字を臨書していたりして、そういう意外性も、おもしろい書展であった。


2018年7月4日(水)~8日(日)午前10時~午後5時(最終日~午後3時半)
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)




・地下鉄東西線「バスセンター前駅」から約200メートル、徒歩3分

・ジェイアール北海道バス、中央バス「サッポロファクトリー前」から約520メートル、徒歩7分(札幌駅バスターミナル、時計台前などから現金のみ100円)

・中央バス「豊平橋」から約860メートル、徒歩11分

※周辺にコインパーキングあり


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