豆腐ぐらいいろいろな食べ方をする食べ物は他にないのではないか。
派手な食べ方もあれば地味な食べ方もある。
一番派手なのは麻婆豆腐ですかね
いろんな意味で。
一番地味なのが湯豆腐。
湯豆腐はとにかく地味、食べ方も地味なら味も地味、食べてる人も地味。
若い人はあんまり食べない。
湯豆腐の気分は禅。
まず鍋に水を張る。
そこに昆布、そして豆腐、それだけ。
すべて禅の境地で行う。
清澄の水、漆黒の昆布、純白の豆腐、道具立ては揃った。
点火。
あとは煮立つのを待つのみ。
鍋の中を覗き込む。
鍋の中で微動だにせず、不動の姿勢を保ってきた豆腐がグラリ!
豆腐がわずかに動いた。
豆腐が肩を震わせた。
「山が動く」という言葉がある。
「豆腐が動く」この感動、この歓喜。
湯豆腐ファンたちには、このグラリに人気がある。
豆腐はもともとお風呂が熱いのが好きだった。
熱めが好きなのに最初はぬるかった。
豆腐はじっとしていた。
水は冷たいし、盟友昆布も一緒だし、すっかりくつろいで安心していた。
たぶん草津の湯につかっているような心境だったと思う。
そうしたら湯の温度がだんだん上がってくる。
当然のことだが、そのときの豆腐は石川五右衛門がどういう目にあったかを知らない。
湯温はどんどん上昇し、ヘンだと思いつつも我慢に我慢を重ねているうちに、ついに耐えきれなくなって飛び上がった。
そのアッチッチが肩の震えとなって表れたのである