テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」に出演している有名な中島誠之助氏の新書本を読んだ。氏が骨董の世界に入るまでのいきさつや、骨董に対する考え方などが書かれており、なかなか面白かった。この本の中で中島氏は、骨董というのは悪く言えば人をだますことが商売の原点であると述べている。つまり、古美術の仲介とは、このくらいの値段がするだろうなあと思った古美術品を、知らぬ素振りで安い値段で買い、その値段よりはるかに高い値段で別の買い手に売りつけることで、その差額を利益にする。決して自分の目利きした値段を人に言ってはいけないのである。インターネットで調べると、その壺の値段がパッと誰でもわかるようでは、骨董商の商売は成り立たない。自分で磨き上げた審美眼だけを頼りに、目の前にある美術品の値踏みをする。残念ながら壺の裏を見ても値段のシールなど決して貼っていない。目利きの感性によって、その値段は10万円になることもあれば100万円になることもあるだろう。どれが正しくてどれが間違いということでもない。決してこの壺の価値は100万円と一意に決まらないのだ。そういう価値の曖昧さが、本質的に大事なのである。
そういう曖昧さのなかにずっと身を置いてきた中島氏が、突然テレビに出て、「この壺は1000円です。」と皆の前で言い切ってしまうことになったのである。これは大変なことである。業界からは、相当の反発があったのだという。それはそうかもしれない。結局、テレビ出演から何年かたって中島氏は自分の骨董店を閉めてしまうことになる。「いい仕事していますねえ。」という名文句で、あれほど有名になってしまうと、その流れも仕方のないことだったのだろう。実はテレビに出る前から、中島氏は自分の店で正札で骨董を売ったりしていて、同業者から顰蹙を買っていたこともあるというから、騙し合いのような骨董商という商売に元々違和感を感じていたのかもしれない。
値段のはっきりしない骨董品の取引というのは、我々の普通のビジネスとはかけ離れた別世界のことと思うかもしれないが、もしかすると我々のビジネスだって、煮詰めるとそういう騙し騙されという側面だってあるのではないかと思う。いつもお客様の利益のために最善をつくすとか、CS最大化が目標とか言う言葉を聞く。そのことを否定するつもりはないけど、それだけでは商売というのは長続きしない。申し訳ないけど、営業というのはそういうことではないのだろうと思う。さらにもうちょっと考えてみると、骨董の価値のような価値がフワフワした対象を見つければ、そこには美味しいビジネスが潜んでいるのかもしれない。どっかにころがっていないかなあ、フワフワしたもの。
参考文献:中島誠之助、骨董掘り出し人生、朝日新書、2007