こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

モーレツに腹が立ったこと

2015年01月09日 00時02分43秒 | 文芸
モーレツに腹が立ったこと

 失業状態で3ヶ月、家でゴロゴロしているのも飽きて、ふらっと外に出た。喫茶店でコーヒーを飲んでからパチンコ屋で時間を過ごそうと思ったが、一〇分ほどで玉はすべて失った。
 3軒のパチンコ屋を回ったが、どこも同じで入らない。パチプロとまでいわれていた昔が嘘みたい。ごぶさたしているうちに腕が鈍ったのか、コツがつかめなかったのか。
 諦めて時間つぶしのために、通りかかった公園に何気なく足を踏み入れた。誰もいないのがいい。ベンチに掛けてボヤーッとしていた。緑に囲まれた中で雀が鳴いている。まるで別世界。
 しばらくすると親子連れの二、三組が入ってきた。キャッキャッとはしゃぐ子供たち、嬉しそうな顔で見守る母親たち。何かしらホッとして見ているうちに、急に眠気に襲われて、うつらうつらしてしまった。
「おい!きみ!起きなさい!」
 肩を何度か揺すられて目を開けると、制服警官がウサン臭そうに覗き込んでいた。まだ警官になったばかりのような童顔の若い人で、勢い込んでいる様子だ。
「あ?寝込んでしまってたんか。何か?」
 といいながら周囲を見回すと、遠くのほうから何人かの母親たちが、こっちを見ていた。何か事件でも……?
「ここで何している?」
 警官の口調は人を見下した感じだった。
 ムッとした私は、
「何って、ベンチで休んでいるだけですけど……」
 それでも言葉尻が丁寧になってしまうのはシャクだった。所詮は小市民である。
「仕事は?まだ昼前だろう」
「失業中なんです。仕方ないでしょう」
「免許証かなんか持っていたら見せて貰える?」
 私はハッとした。 
 そうか。この警官の、この態度。私は職務質問を受けているのか?またまたムッ!
 その時、「ガガーピー!」と警官の腰の携帯通信機が鳴った。警官は私から目を離さずに相手と通信を始めた。
「はい、こちら○○。T公園で挙動不審の点…が…はい、ヒゲ面の……ジーパン……」
 小声で話しているのが耳に入る。私はカーッとなった。顔が赤くなるのがじぶんでも分かった。
 確かに失業してから身の回りに目が届いていない。それでも不審者に見られるなんて、アンマリではないか。私は大股で歩き出した。
「お、おい、きみ!待ちなさい!」
「家に帰って免許証を取ってくるんですよ!」
 少し震えていたが、私の剣幕に警官はさすがに黙って突っ立ったままだった。もう呼び止められたって戻るものか。私は正面を向いたままスタスタと歩いた。
 さすがに追ってはこなかったが、私の腹立たしさは家に帰っても収まらず、ふくれるばかりだった。
(週刊読売1990年掲載文)
コメント
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