モーレツに腹が立ったこと
失業状態で3ヶ月、家でゴロゴロしているのも飽きて、ふらっと外に出た。喫茶店でコーヒーを飲んでからパチンコ屋で時間を過ごそうと思ったが、一〇分ほどで玉はすべて失った。
3軒のパチンコ屋を回ったが、どこも同じで入らない。パチプロとまでいわれていた昔が嘘みたい。ごぶさたしているうちに腕が鈍ったのか、コツがつかめなかったのか。
諦めて時間つぶしのために、通りかかった公園に何気なく足を踏み入れた。誰もいないのがいい。ベンチに掛けてボヤーッとしていた。緑に囲まれた中で雀が鳴いている。まるで別世界。
しばらくすると親子連れの二、三組が入ってきた。キャッキャッとはしゃぐ子供たち、嬉しそうな顔で見守る母親たち。何かしらホッとして見ているうちに、急に眠気に襲われて、うつらうつらしてしまった。
「おい!きみ!起きなさい!」
肩を何度か揺すられて目を開けると、制服警官がウサン臭そうに覗き込んでいた。まだ警官になったばかりのような童顔の若い人で、勢い込んでいる様子だ。
「あ?寝込んでしまってたんか。何か?」
といいながら周囲を見回すと、遠くのほうから何人かの母親たちが、こっちを見ていた。何か事件でも……?
「ここで何している?」
警官の口調は人を見下した感じだった。
ムッとした私は、
「何って、ベンチで休んでいるだけですけど……」
それでも言葉尻が丁寧になってしまうのはシャクだった。所詮は小市民である。
「仕事は?まだ昼前だろう」
「失業中なんです。仕方ないでしょう」
「免許証かなんか持っていたら見せて貰える?」
私はハッとした。
そうか。この警官の、この態度。私は職務質問を受けているのか?またまたムッ!
その時、「ガガーピー!」と警官の腰の携帯通信機が鳴った。警官は私から目を離さずに相手と通信を始めた。
「はい、こちら○○。T公園で挙動不審の点…が…はい、ヒゲ面の……ジーパン……」
小声で話しているのが耳に入る。私はカーッとなった。顔が赤くなるのがじぶんでも分かった。
確かに失業してから身の回りに目が届いていない。それでも不審者に見られるなんて、アンマリではないか。私は大股で歩き出した。
「お、おい、きみ!待ちなさい!」
「家に帰って免許証を取ってくるんですよ!」
少し震えていたが、私の剣幕に警官はさすがに黙って突っ立ったままだった。もう呼び止められたって戻るものか。私は正面を向いたままスタスタと歩いた。
さすがに追ってはこなかったが、私の腹立たしさは家に帰っても収まらず、ふくれるばかりだった。
(週刊読売1990年掲載文)
失業状態で3ヶ月、家でゴロゴロしているのも飽きて、ふらっと外に出た。喫茶店でコーヒーを飲んでからパチンコ屋で時間を過ごそうと思ったが、一〇分ほどで玉はすべて失った。
3軒のパチンコ屋を回ったが、どこも同じで入らない。パチプロとまでいわれていた昔が嘘みたい。ごぶさたしているうちに腕が鈍ったのか、コツがつかめなかったのか。
諦めて時間つぶしのために、通りかかった公園に何気なく足を踏み入れた。誰もいないのがいい。ベンチに掛けてボヤーッとしていた。緑に囲まれた中で雀が鳴いている。まるで別世界。
しばらくすると親子連れの二、三組が入ってきた。キャッキャッとはしゃぐ子供たち、嬉しそうな顔で見守る母親たち。何かしらホッとして見ているうちに、急に眠気に襲われて、うつらうつらしてしまった。
「おい!きみ!起きなさい!」
肩を何度か揺すられて目を開けると、制服警官がウサン臭そうに覗き込んでいた。まだ警官になったばかりのような童顔の若い人で、勢い込んでいる様子だ。
「あ?寝込んでしまってたんか。何か?」
といいながら周囲を見回すと、遠くのほうから何人かの母親たちが、こっちを見ていた。何か事件でも……?
「ここで何している?」
警官の口調は人を見下した感じだった。
ムッとした私は、
「何って、ベンチで休んでいるだけですけど……」
それでも言葉尻が丁寧になってしまうのはシャクだった。所詮は小市民である。
「仕事は?まだ昼前だろう」
「失業中なんです。仕方ないでしょう」
「免許証かなんか持っていたら見せて貰える?」
私はハッとした。
そうか。この警官の、この態度。私は職務質問を受けているのか?またまたムッ!
その時、「ガガーピー!」と警官の腰の携帯通信機が鳴った。警官は私から目を離さずに相手と通信を始めた。
「はい、こちら○○。T公園で挙動不審の点…が…はい、ヒゲ面の……ジーパン……」
小声で話しているのが耳に入る。私はカーッとなった。顔が赤くなるのがじぶんでも分かった。
確かに失業してから身の回りに目が届いていない。それでも不審者に見られるなんて、アンマリではないか。私は大股で歩き出した。
「お、おい、きみ!待ちなさい!」
「家に帰って免許証を取ってくるんですよ!」
少し震えていたが、私の剣幕に警官はさすがに黙って突っ立ったままだった。もう呼び止められたって戻るものか。私は正面を向いたままスタスタと歩いた。
さすがに追ってはこなかったが、私の腹立たしさは家に帰っても収まらず、ふくれるばかりだった。
(週刊読売1990年掲載文)